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死の足音

 スキル【変速】を獲得したヒナタ。あまりの大声で叫ぶので、カールから軽く注意を受ける。

「おい、魔物が寄ってくるだろ」

「ああ、ごめんなさい」

「お、おう」

 素直に謝ってきたことが想定外で、逆に少し狼狽えてしまうカール。いつものヒナタなら「悪かったわね」とか「ちょっと間違えただけよ」と言って、謝る素振りはさらさら見せない。しかし、初の戦闘系スキルの獲得に気分を良くしていたため、素直に謝ることを選択したようだ。カールもそんなヒナタの様子を見て、なんとなく良さそうなスキルを獲得したのかと推測を立てる。

「そんだけ喜んでるってことは、良さげなスキルだったのか?」

「ええ……一生大事にするわ……」

「お、おう」

 そう言ってステータスを眺めるヒナタ。効果を把握していないスキル一つに少し大袈裟だと思ったカールだが、自分は父から受け継いだスキルがあるからあまり特別さを感じないだけで、スキルをこうやって後天的に獲得するのは自身の想像以上に嬉しいものなのだろうと自己解決をする。さらに言うと、ヒナタの場合それはさらに特別なのだ。なんせ初めて開けた宝箱で【夢】なんていうふざけたスキルを手に入れたせいで、一度天国から地獄に落とされる落差を経験しているため、念願の戦闘系スキル獲得はより一層嬉しいものなのだ。

「ねえ、スキルって使いたいって思えばいつでも使えるのよね?」

「ん? ああ。そうだぞ。でも大概は暴発を防ぐために心の中か、それか声に出してスキル名を叫ぶことが多いな。そういうトリガーを一つ用意しておくと、日常生活でスキルが暴発して大惨事、みたいなことは起きにくいからな。大概のシーカーはそうしてるはずだぞ。お前も魔法を使うときにそういうのは用意してないのか?」

「ええ……まあね」

「そうか。用意しておいたほうがいいぞ。暴発したら大変だからな」

 なんて優しく言っているカールだが、心の中ではあんなとんでも魔法をトリガーも用意せず使っているヒナタに一種の恐怖を覚える。もしも仮にだが、あんな魔法がギルド内部で暴発した場合、その後一生を檻の中で過ごすことになるだろう。ここでもヒナタが講座を取っていない弊害が出てしまっている。

 (ちょっと、あんたもそこら辺はしっかりしてるんでしょうね?)

 (大きい魔法は基本詠唱が必要だから大丈夫だよ。小規模な魔法なら、寝起きに間違って撃っちゃったことは何度かあるけど……まあ、たいして害はないから大丈夫だよ)

 嘘である。普通に一般人に当たれば死ぬレベルの魔法もおねしょしてしまっている。ヒナタは宿にいくつか見覚えのない穴が空いていたことを思い出し、キューネを詰問する。

 (ねぇ、宿に空いてた穴……確か初めてあの宿に泊まった日は無かったわよね? あんたまさか……?)

 (あはは、バレちゃった?)

 (『バレちゃった?』じゃないわよ! 私に当たったらどうするつもりなのよ!)

 (大丈夫大丈夫。今のヒナタのレベルなら、当たっても軽傷で済むよ)

 (軽傷になってる時点で問題でしょ!)

 大嘘である。しっかり重傷を負うことになるだろう。ヒナタがレベルを上昇させるにつれ、キューネの魔法の威力もそれに比例して上昇している。そのため、ヒナタにキューネの魔法が当たれば、今のヒナタであろうと十分重症になりうる。ただ、キューネに直せるレベルの怪我をキューネが軽傷と言って誤魔化してるだけだ。

 (……とにかくスキルの実践だよヒナタ! どんな効果か確かめておかないと!)

 (それはそうね。早く魔物の元まで案内しなさい。この際どいつだっていいわ)

 キューネが誤魔化そうとしているのには気付いているが、自分の早くスキルを使いたいという欲求に負け、結局魔物の元へ向かうことを優先するヒナタ。キューネに連れられ走り出すヒナタを、カールも後ろから追いかける。

「早速スキルの試運転をしに行くわよ!」

「はぁ? 中層でか?」

「上層の弱っちい魔物を倒してもスキルの実感が掴めないでしょ? 実戦練習よ。ほら、付いてきて」

 スキルの試運転は弱い魔物で行うべきだ。効果の分からないスキルは逆に使用者本人の足元を掬いかねない。そう言いたげな表情を浮かべるカールだが、ヒナタを止めることはできないだろうと溜息を吐いてヒナタを後ろから追いかけ続ける。そしてヒナタが足を止めた。どうやら先に魔物がいるようだ。そうしてヒナタがこっちの方に顔を向け、小声で言う。

「私がやばくなったら助けてちょうだい。一人でやってみるから」

「はぁ? 流石に危なすぎるだろ」

「一人で確かめてみたいの。ね? お願い」

 カールに止められたところでヒナタは一人で戦うのを止める気が無いため、お願いというより実質脅迫に近いが、カールにはどうすることもできないのでとりあえずヒナタの要求を受け入れる。

「分かったよ。その代わり、危なくなったらすぐ出るからな。あ、解除もすぐしろよ? スキルの反動がどれくらいあるか分からないからな」

「分かったわよ。流石カール。話が分かるわね」

 そして通路の先を見るヒナタ。その視線の先にはウェアウルフがいた。上層のウェアウルフより大きくて、明らかに筋肉質である。今まではカールの挑発とキューネのバリアによってほぼ完全に安全が守られていた状態であるが、その半分を失う。失うというより、自ら捨てたというほうが近いが。久しぶりの経験に緊張を滲ませながらも、ヒナタは通路に出る。ウェアウルフもヒナタに気付いたようだ。ヒナタに向かって襲いかかってくる。そこで、ヒナタは唱える。

 (【変速】!!)

 その瞬間。ウェアウルフの動きがスローモーションのように遅くなった。その速度は上層のウェアウルフと大差ないくらいにまで落ちていた。ヒナタは圧倒的な速度でウェアウルフの背後を取り、首の付け根を切る。肉を切る感覚も軽い。本当に上層のウェアウルフを相手にしているようであった。そして致命傷を喰らったウェアウルフは、他の魔物と同様に地面に魔石として転がり落ちる。魔石が転がり落ちる速度もいつもより遅い。どうやらカールもこっちに近付いてきてくれているようだが。これもまた遅い。そして自分がスキルを解除し忘れていたことを思い出し、咄嗟にスキルを解除する。

 (解除!!)

 スローモーションの世界が終わりいつものように時が流れる。カールもいつも通りの速度で自身に近付いてくる。

「身体強化系のスキルか? すげぇ速くなってたけど。使ってみた感想は?」

「……疲れた」

 ヒナタの返答は簡素だった。情報をいつも以上に早く処理した脳に負荷がかかり、身体的にだけでなく、脳も疲れているようだ。頭も少し重いように感じる。ヒナタの顔を見ればその疲労は明らかであった。

「だろうな。俺のとは違ってあんまり連発できるタイプじゃないんだろう」

「スキルを使ってる最中はなんでも出来る気がしたんだけどね……なんかスキルを解除した瞬間急にだるくなったわ」

 脳が急激な負担にアドレナリンを出したが、解除した途端、脳が平常時の動きに戻りスキルを使用した時の負荷が一気に押し寄せたのだろう。そんなヒナタの疲労を見たカールは今日はこれでお終いにしようと切り出そうとしたが、どうも向こうの方から騒がしい音が聞こえる。

「なんかうるさいわね……?」

「あぁ……」

 そうして声のする方を見たカールとヒナタは、ギャングがとんでもない量の魔物と変異体を背にこっちに向かって逃げているのを発見する。そしてギャング達はニヤリという表情を浮かべ、こっちに何か瓶を投げてきた。そしてその瓶の煙を吸い込んだ二人は激しく咳き込み、目もまともに機能しなくなった。それはモンスターにも同様で、モンスター達も足を止めて煙が去るのを待っているようだ。そして煙が薄くなったこの場に残っているのはヒナタとカールと魔物だけ。始まることは明白だ――そう、混戦だ。

「【挑発】!!」

 とりあえずヒナタを守るために挑発を放つカール。それに釣られた多くの魔物はカールの方へ向かい、攻撃を仕掛ける。盾で衝撃を受け流しているとはいえ、飛んでくる火力はさっきと比にならない。あまりの物量に後退りを続けざるを得ない。攻撃を受けるたびに後方に飛ばされる。ヒナタが危機を察した頃にはもう既にカールはかなり離れた位置におり、魔物の攻撃を受け止め続けている。カールが後ろに持っていかれたことで一部の魔物はカールの挑発圏内から外れ、特に射程の長いレーザーアイはほぼヒナタの方に照準を合わせていた。そしてヒナタはまた唱える。

 (【変速】!!)

 ゆっくりと流れた時の中でさえ、ヒナタは忙しなく行動した。常に飛んでくる光線を避けながら、常にレーザーアイに対して決定打を与え続けなければならない。しかも、上層のレーザーアイよりも早くて強力だ。頼みのキューネもどうやら詠唱に集中しているようだ。キューネ自身も、もはやヒナタを気遣えるほどの余裕はない。周囲のレーザーアイを一通り始末したヒナタは、カールの方に目をやる。そこではカールと初めて会った時のように、魔物の群れにカールの姿が見えないような状態が続いていた。ヒナタは全力でカールの方へ向かう。オークの攻撃を寸のところでよけ、ウェアウルフやゴブリンを瞬殺しながらカールの方へ走り出す。走り続けてかなりの時間が経った頃、ようやくカールの姿を見つけた。攻撃を何度も受けているせいで色々なところから血を流している。一本道であったことはカールにとって幸運であった。そのせいで、一部の魔物以外の攻撃は同士討ちになったりして、カールにまともな有効打を与えられていない。だが、最前線にいる魔物達の攻撃だけでも、カールに重傷を与えるには十分過ぎた。ボロボロのカールを発見したヒナタは、ただひたすらに前線でカールが抑えている魔物達に攻撃を与え続けた。いくつもの魔物が魔石になる。しかし、無慈悲にもどれだけ倒そうが新しい魔物が前に来るだけ。だが、カールに今にも攻撃を加えようとする魔物達を倒さなければ、より大きい負担がカールにのしかかる。そのため、ヒナタは無意味だと分かりつつも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。変速を使ったヒナタなら変異体のレッドスパイダー以外は速度的に振り切れたかもしれない。しかし、カールがいるのでそれも難しい。とにかく今のヒナタに出来ることはカールに攻撃を与えようとする敵を戦闘不能にすることだけだ。そしてオークが棍棒でカールを攻撃しようとしたのを剣でヒナタが受け止めようとしたその時、ヒナタの剣は真っ二つになり上半分が飛んで行った。スローモーションの時の中で、ヒナタは目前に迫る棍棒を見つめる――しかし、避けられない。予想外の武器の損壊は、初心者のヒナタを動揺させるには十分すぎた。そしてその動揺は結果的にオークの棍棒の攻撃の被弾に繋がり、ヒナタに重傷を与えることとなった。オークの棍棒をまともに喰らったヒナタはカールの遥か後方に吹っ飛ぶ。カールはとにかく無我夢中で盾を持つ力を緩めないようにしている。しかし、自身の後方に飛ばされたヒナタに、カールの後退りが追いついたため、左手でヒナタを持つ。しかし、片腕でヒナタを持ったことで支えられる力の半分を失った盾は遥か後方に飛ばされ、残されたのは生身のヒナタとカールだけとなった。オークの棍棒が何も持たないカールの目前まで迫った時、カールは走馬灯を見る。その景色はまるでヒナタが変速を使ったように遅い。しかし、変速のように遅れた世界の中で自身だけが動けるわけではない。自身の身体もスローモーションに飲み込まれ、まともに動くことが出来ない。死が明確に足音を立てて近付いてくるのを感じる。

 (あぁ……終わった)

 もはやヒナタの魔法には期待できない。軽い脳震盪を起こし意識が朦朧としている。こんな状態で詠唱が出来るわけがない。ならば待ち受けるのは死だけだ。脳だけ加速した世界で、自分の死を受け入れたカール。しかし、奇跡が起きる。キューネだ。カールの頭上1m当たりからキューネの本気の魔法が放たれる。放たれた魔法はキューネの最も得意とする光魔法。ヒナタのレベルアップを受け、その威力は変異体のウェアウルフ戦の時より遥かに増していた。全ての魔物が光の濁流に飲み込まれ、最前列から順に魔石と化す。一本道であるため威力は霧散せず、そのまま全ての直線上のモンスターに直撃する。こうして2人は九死に一生を得た。

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