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冒険の始まり

護送車に乗り込んだカールとヒナタ。ヒナタは車の人の少なさに驚愕を示す。

「やっと乗れたと思ったら、ガラガラじゃない。なんでこの人の少なさで申請が通らないのよ。」

「逆に言えば俺達が乗らないと運休してたかもな。乗れただけラッキーだと思おうぜ。」

「そうねえ……あ、あんたそういえば昨日スキルみたいなの使ってたわよね? 一緒に戦うんだからこの際に詳しく教えておきなさいよ。」

「おう、もちろんいいぞ。俺の持ってるスキルは挑発とシールドバッシュ。挑発は魔物の注意を惹きつける。シールドバッシュは受けた衝撃や威力の一部を衝撃波として敵に返すスキルだ。だけど大して火力は出ないから、基本はパーティを組んで味方に倒して貰ってることが多いな。お前は?」

 沈黙が流れる。ヒナタはキューネが具体的にどんな魔法を使えるか把握していないので、どう話せばいいかいまいち分からない。しかし、その沈黙を自身への警戒ととったカールは、少し不機嫌そうな様子を見せる。

「なんだよ。パーティで動くのに味方のスキルや魔法が分からないと動きようがないだろ? 警戒するのも分かるけど、しっかり説明してくれよ。」

「あ、いや違うの。警戒してるとかじゃなくて、私もいまいち自分の魔法についてよく分かってないのよね。」

「あー……最近手に入れたばっか的なことか?」

「そういう感じよ。」

 勘違いが解けたカールはまた笑顔を取り戻し言う。

「なるほどな。じゃあまあ大体でいいからさ。教えてくれよ。」

「魔法は確か……人と魔物の位置が分かる魔法と……敵を殲滅する光魔法と……回復魔法……あとなんかバリアも出せたはずだわ。それくらいかしら?」

 とりあえず今までにヒナタがキューネに見せてもらった魔法をひたすらに羅列する。

「それぞれ詠唱時間は?」

「数十秒くらい?」

 呆れた顔を見せるカール。

「詠唱時間も分からずによく魔物に突っ込めるな。魔法とかスキルは結構試運転して体に染み込ませるまで慣れといたほうがいいぞ? 普通は1週間くらいはそういう練習期間みたいなのを誰でも作るんだけどな。ギルドでも何度もそう勧告されただろ?」

 ヒナタに常識を説くカールだが、歩く常識外れのヒナタにそんなことを言っても無駄であろう。普通こういう常識的な知識はシーカーになる前に調べるものだ。ギルドでも新米には無償でそういった知識を提供する講座も存在する。初心者の生存率を上げることはギルドにとっては死活問題だからだ。シーカー自身も早死にするのはごめんだと思う者が多いし、金の卵に早々と死なれてはギルド側としても困る。そのため、大概はギルドにシーカーとして登録する際に一緒にたくさんの講座を取らされる。もちろん、それを拒む馬鹿なシーカーなどほとんど存在しない。しかし、ヒナタの場合、もしもその講座のどこかでヒナタをダンジョンに送った職員を見つけてしまった場合、互いにとってとても都合の悪いことになることは目に見えている。そうした配慮のもと、ミナトはそういった工程をふっ飛ばしてヒナタをシーカーにさせたため、ヒナタは結果的にシーカーについて本でちょっと読んだような雀の涙ほどの知識しか無いのである。しかし、気が強く自身の無知を隠したがるヒナタは強がりを見せる。

「私は実戦で感覚を掴むタイプなの。別にいいじゃない。」

「それで、スキルの方は?」

「あー……持ってないわ。」

 一応は持っている。ただ自身が夢見る少女だと明かすことなどヒナタのプライドが到底許さないので、一瞬の無言の後、スキルは持っていないものとして説明することに決めたようだ。

「ん? 昨日自分は豪運の持ち主だとか何とか言ってなかったか?」

「そうよ? 私、運は良い方だけれど?」

 もはや笑ってしまうカール。

「普通そういうのはスキルを持ってる時にしか言わねえんだよ。お前別のところでは絶対そんなこと言うなよ? 勘違いされるぞ。」

 豪運というスキルは実際に存在するスキルなので、他の人とであれば確実に問題となっていたであろう。Eカップと聞いて喜んで選んでみたら、実際はパネル詐欺だったみたいな事だ。でも一度選んだからには申し訳ないと思って断るのも何故か気が引ける。そういう心理を利用したクソみたいな野郎どもはどこの世界でも蔓延っているようだ。

「それにしてもスキルを2つも持ってるなんてすごいわね?」

「俺のは血統スキルだよ。自分で手に入れたものじゃない。」

「え? 何それ? 血統スキル?」

 スキルを獲得する方法を秘伝書由来のものしか知らなかったヒナタ。当然カールも秘伝書からスキルを獲得したものだと思っていたが、どうやら違うと分かって驚く。

「血統スキルっていうのは親から受け継いだスキルの事。遺伝的に勝手に発現したりしなかったりする。」

 血統スキルについて聞かされたヒナタ、そしてそれを持つカールの家柄についてなんとなくの推察が立つ。

「へー、あんた、いいとこの子だったの?」

「まあ一般的に見たらそうだろうな。ていっても、本当に凄かったのは初代だけだけどな。初代がシーカーで成り上がってそれを基盤としてビジネスを始めたんだ。俺達はそれをただ引き継いでるだけ。」

「ふーん。じゃあなんであんたはこんな危険な事してるのよ? デスクワーク一本で暮らせるならそっちの方がいいじゃない。」

「俺はビジネスの方はからっきしなんだよ。性に合わない。だからたまたま発現したスキルを使ってこうやってシーカーとして生計を立ててるんだよ。」

 実際には性に合わないというより落ちこぼれたという方が正確だが、カールのプライドがそれを許さない。

「ふーん。そうなの。まあ向き不向きはあるしね。私もスキル欲しいわ〜、魔法って案外暇なのよあれ。」

「そうなのか?」

「ええ。魔法が出るまでずーっと待ってるだけ。退屈も退屈よ。」

 (僕がその分毎回忙しくしてるんだけどね。)

 (うっさい。)

「へ〜、そんなもんなのか。スキルは馬鹿みたいに疲れるぞ。特に連続使用するとな。」

「ああ、確かにあんた昨日スキルを使った後めちゃくちゃ疲れてそうだったしね。スキルってスキル名を叫ぶだけで使えるの?」

「いや? 叫ばなくても出来るぞ? 自分の中で使いたいって思えてればそれで十分。」

「じゃあなんで昨日あんたはあんなに挑発!挑発!って、叫んでたのよ?」

「俺は連携を取りやすいようにスキル名を叫ぶ癖を付けてるだけ。別に叫ぶ必要はない。」

「そういうこと、理にかなってるわね。」

「だろ?」

 情報交換を進めるカールとヒナタ。主にカールからヒナタへの一方通行であったため「交換」と呼べるかは怪しいところであるが。そうして車が止まる。どうやらダンジョンの目の前まで来たようだ。

「さっさと降りてくれ。魔物が寄ってくる。」

 そう言う運転手。それに従いヒナタとカールはさっと車を降り、ダンジョンの目の前まで行く。

「それじゃあ、ひとまず最初は上層で連携を合わせるぞ? いいな?」

「了解よ。」

 ダンジョンの第一階層に向けて階段を降りる2人。そうして降りた先には、ヒナタが一昨日見た光景がそのまま残っていた。それを見たヒナタはデジャヴを感じながら少し緊張を感じているようだ。

 (ふう。)

 ヒナタの緊張を解こうと耳元にそっと息を吹きかけるキューネ。それに驚いたヒナタが悲鳴を上げてしまう。

「ヒィ!?」

「どうした?」

 ダンジョンの中で急に悲鳴を上げるヒナタを見て何か問題が起きたのかと真剣に心配した様子のカール。

「いや、なんでもないわ。」

「そ、そうか。」

 カールは不思議そうにヒナタを見つめている。

 (ちょっと、何すんのよ。)

 (ヒナタが緊張してたから少しほぐしてあげようと思って。)

 (変な奴だと思われるじゃない? やめなさいよね?)

 (分かったよ……しょぼぼん。)

「お前、確か魔物の位置が分かる魔法を使えるって言ったよな?」

「ええ、使えるわよ?」

 (僕がね。)

 (うるさい。)

「だったら手頃なモンスターで腕慣らししておこうぜ? 初戦から強い敵と戦って崩壊しても嫌だしな。」

「確かにそうね、流石ベテラン。ちょっと待ちなさい。今見つけてきてあげる。」

 (それで、どこよ?)

 (ちょっと待って……うーんと……近場なら、あっちの角を左に曲がったところにゴブリンが1体。こっちの角を右に曲がった後左に曲がった先にブラックバットが3体。どっちも今のヒナタのレベルなら余裕で倒せるからどっちでもいいよ。)

「あっちの角を左に曲がったところにゴブリンが一体。こっちの角を右に曲がった後に左に曲がったらブラックバットが3体いるわ。」

「魔物の種類まで分かるのか? すげぇな。」

「そうでしょ?」

 (僕がね。えっへん。)

 自信満々にそう胸を張るキューネ。ヒナタはもはや返答することをやめたようだ。

「んじゃあ一番近いゴブリンから行くか。俺が挑発で惹きつけるから……お前今日は剣でいくのか?」

 剣を眺めるヒナタにそう聞くカール。

「基本はね。緊急時とか強い魔物の時は魔法を使うわ。」

「そうか。まあ好きにしてくれ。俺が挑発で惹きつけるからその隙に攻撃してくれ。ただし、ある程度のダメージを与えたら標的がそっちにいくから注意しろよ?」

「分かったわ。それじゃあ行くわよ。」

 ヒナタの先導でゴブリンのいる通路手前まで案内されたカール。壁からちらっと先の通路を見たところ、本当にゴブリンがいるようだ。

 (すげえ、本当にゴブリンがいる。)

 ゴブリンを目視したカールは人差し指で通路の方を指し、魔物がいたと合図を送る。しかし、ヒナタは勝手に通路に飛び出してゴブリンの方へ向かう。それを見たカールもすぐに飛び出しスキルを放つ!

「何やってんだよ! 【挑発】!!」

 ゴブリンが目の色を変える。そして正気を失ったゴブリンがヒナタを無視してカールの盾まで突っ込む。それを見たヒナタは、すぐに引き返してゴブリンの元まで向かう。

 (ちょっと、あれ1人で倒せって意味じゃないの!?)

 (違うよ。シーカー共通のハンドサイン。モンスターがいるっていうこと。前に出ろって意味じゃないよ。)

 (そういう事はもっと早く教えなさいよね!)

 (教えようと思った頃にはヒナタの体が前に出てたんだよ。)

 (うるさいわね! 連携プレイにはスピード感が大切なのよ!)

 そうしてゴブリンの背後を取ったヒナタ。ゴブリンの胸の中央を狙って刃を刺す。心臓に刃を貫かれたゴブリンは致命傷を喰らって魔石となる。

「お前、ハンドサインも知らないのか?」

 若干の呆れを見せるカール。

「悪かったわね。私パーティを組むのは初めてなの。」

「そういう問題じゃないだろ……」

 無論ハンドサインも半強制的にほぼ全てのシーカーが講座を取って学んでいるが、ヒナタはそれに該当しない。しかし、カールからしてみればあれだけ懇切丁寧な講座を受けておきながら一番初歩のハンドサインすら覚えていないヒナタに若干の心配すら覚える。

「人差し指で通路を指したらこの先に魔物がいるっていう意味だ。次からは覚えといてくれよ。」

「分かったわ。人差し指は魔物ね。」

 (本当に大丈夫かよ……。)

 今までパーティを組んだ人の中でここまでの常識知らずに当たった事のないカール。本当にヒナタとチームとしてやっていけるかとちょっとした不安を覚える。

「……まあいい、次はブラックバットだったか?」

「そうよ。さあ行くわよ。」

 そう言ってそそくさと案内を始めるヒナタ。

 (あんたのせいで恥かいたじゃない。)

 (僕のせいじゃないでしょ。)

 (あんたが昨日のうちに教えておくべきでしょうが。馬鹿だと思われたわよ。)

 (ヒナタが魔物の急所を全く覚えてなかったから僕にそこまでする余裕がなかったんだよ。もう少しヒナタに知識があれば良かったんだけど……)

 (うっさいわね。大体急所なんて重要な要素もっと早いうちに教えておきなさいよ。昨日こつこつダメージを与えて倒してた私が馬鹿みたいじゃない。)

 (昨日までのヒナタならどっちにしろ力が弱すぎて急所まで届かなかったからね。どこ狙っても一緒だよ。)

 なんて誤魔化すキューネ。実際には全く一緒ではない。ただただ教えるのを忘れていただけだ。しかし、知識のないヒナタがそれに気付くことはない。

 (……次のブラックバットで挽回するわよ。あんたはいざという時私にバリアを張るイメージトレーニングでもしときなさい。)

 (はいはい。分かったよ。)

 こうしてカールとヒナタの冒険は幕を開けた。

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