バグ
同じ宿に帰ってきたヒナタとキューネ。この宿に泊まるようになってまだ2日目なのにも関わらず、妙に壁のシミに親近感が湧くヒナタ。
「ふう。やっと帰ってきたわね。」
「ここまでくると、建築の古さも愛着が湧いてくるね。」
「本当に、何度死にかけたかしら。」
「主にヒナタのせいだけど…痛ッ!」
「悪かったわね?そもそもを言えばあんたが死にかけた人を見つけてくるからでしょ?」
「そんな〜、僕だって死にかけの人を見つけたから報告しただけなのに……」
窓の外を眺めるヒナタ。ぼーっとしていたが、通信端末が視界に入り、カールへの連絡をしなければならないことを思い出す。
「あ、そう言えば、あいつに連絡しないといけないじゃない?」
ヒナタが脱いだ服のポケットからカールから貰った紙を取り出すキューネ。
「はい。」
「あんがと。えーと……これで、こうで……本当に暗号みたいねこれ、嫌になっちゃう。」
「そこ打ち間違えてる。」
「うわほんとだ。これまた一からやり直し?」
「そこのボタンで一文字ずつ消せるよ。ほら。」
「ほんとだ。キューネ案外賢いのね。」
「知識人なので、えっへん」
「調子に乗るな。」
デコピンを喰らわされるキューネ。その痛みから頭を軽く抑えている。
「あ、できたわ。それで……これでメール?を送るのね。ていうか、パーティの件どうする?組む?組まない?」
キューネは悩んだような様子を見せる。
「うーん。ヒナタのあのチートみたいなレベルの上がり方ならソロの旨みがでかいから難しい所だね。でも盾役がいた方が安定はすると思うよ。今のヒナタの剣だと危なっかしいし。」
「ま、それはそうなのよね〜。ていうか何度も言ってるけど私のレベルの上がり方ってそんなにやばいの?」
「誰がどう見てもやばい。少なくとも僕は初めて見た。」
「へ〜そうなの。でもやっぱりレーザーアイを倒した時はそんなに経験値貰えなかったんだし、原因があるとしたらあんたの方よ?アンタがそういう特典でも持ってたんじゃないの?経験値大盛り祭り的な?」
「うーん。というより、もはや一種のバグな気がするね。」
「バグ?」
そうヒナタが顔を傾けるとキューネは頷いて言う。
「うん、バグ。」
「バグって何よ。言っとくけど私そういう難しい単語分からないわよ。」
「それほど難しい理屈じゃないよ。本来システムっていうのは秩序を守るためにあるんだ。強い人が弱い魔物ばっかり狩ってレベルを上げられるなんて事が起きたらそこら辺の人がとてつもないレベルになるのは目に見えるでしょ?」
「それはそうね。私でも分かるわ。」
「でもね、システムは所詮システムに過ぎないからとある条件下を満たした時にその秩序が失われるような挙動を見せるんだ。」
「ギリギリ理解できるわ。」
そうは言うものの顔を顰めるヒナタ。理解できているかは非常に怪しい所だ。
「ヒナタの例で言えばヒナタのレベルアップの条件についてヒナタがなんらかを満たしたせいで、とんでもない挙動。つまり有り得ない速度でレベルアップが起きているんだと思うよ。」
「なるほどね。じゃあその理由は簡単よ。私にあって皆には無いものが原因なんでしょ?さっき言った通り私の目の前にいる生意気な精霊のせいじゃない。」
キューネが至っていたのと同様の結論に至るヒナタ。
「ま、それが妥当だろうね。経験値はその人のステータスや貢献度、敵の強さで決まる。ここで、僕の力がヒナタのステータスに加算されてないけれど、僕にレベルなんてものは存在しない、つまり僕の倒した敵の経験値がヒナタが倒した敵の経験値として分類されるせいでこんなおかしなことになってるんじゃないかな。」
「そういうことなの。でも余分に経験値を貰えてるってことでしょ?そういうのは相手が困ってないのなら黙っておけばいいのよ。」
「おそらくだけど、システム側はめちゃくちゃ焦って修正しようとしたんじゃないかな。ただ修正するのにも一度与えたものを取り返すなんて自由にはできないから一応見逃されてるみたいな感じだろうね。なんかちょっと申し訳ないような気もするけど。」
「まあ、貰えるものは貰っておきましょう。損は無いわけだし。」
事の重大さを全く理解していないヒナタ。貰っておけるなら貰っておこうというのは一理あるが、貰うものがあまりに大きすぎる。確かに、飴とか団子レベルなら、貰っておいても損は無いし、与えた側も、それを与えた事で大きな後悔をする可能性は少ないだろう。その上、やっぱりあの飴返して、なんて言われても、最悪の場合補填できる。しかし、圧倒的な力を与えられた補填は一体何となるかは見当もつかない。最悪の場合、命を以て返還しなければいけないのではないか、そんな事も頭によぎるはずだが、ここでもやはり教養のないヒナタでは疑念を持つ事もなく能天気でいてしまう。そんな様子を見たキューネは逆に何故か落ち着いてしまう。
「まあ、僕らにどうにか出来る問題でもないしね。気にするだけ無駄か。」
「そういうことよ。それでパーティに関しては改めてどうするの?私はお試しで何回か一緒に戦ってもいいと思ってるけど。」
「あー、仮パーティを組んでみるってこと?有りじゃない?何回かそれでやってみる?」
「そうしましょう。最悪気に食わなければ、ごめんだけどやっぱり仮パーティは解散でってすれば済む話でしょ?実際にやってみないと分からない事もあるでしょうし。」
「ナイスアイデアだヒナタ。」
そう言ってグッジョブマークを手で作るキューネ。
「よーし、早速その内容で送っとくわね。」
そうしてメールを送ったヒナタは電気を消して寝る前にキューネと話す。
「そういえばレベル26になったわよね?ダンジョンへの便。護衛で申請通るかしら?」
「どうだろう?行けるのかな?」
「護衛で乗れるのならダンジョンに行くのも選択肢の一つに入ってくるんじゃないかしら?確か往復3000ヴァルとかだったわよね?護衛の場合。」
「僕としては是非ダンジョンをおすすめするね。」
「何でよ?あ、もしかして帰巣本能的なあれ?でもあんたの入ってた宝箱はもうきっと残ってないわよ?」
「そんな理由でダンジョンに行こうだなんて言うわけないでしょ?まあでも理由は似通ってるね。」
「何よ?勿体ぶらないでさっさと言いなさいよ。」
「それは僕がダンジョン産だからだよ。ダンジョンの構造に詳しいし、探知とかもそっち向けで発達してるしで、僕にとっては色々と利便性が高い。そしてもう一つあげるなら宝箱かな。ヒナタのレベルなら特にね。」
「何よ?私のレベルが宝箱とどう関係してるのよ?」
「ヒナタ、宝箱がどういう性質持ってるか知ってる?」
「知ってるわけないでしょ?」
「宝箱は宝箱を開けるパーティのステータスとその階層の難易度で報酬が出る割合が決まる。そして僕の考察が正しければヒナタのステータスに僕の能力は加わっていない。」
「ということはつまり?」
「いいアイテム、特に秘伝書とか魔法書が普通の人より出やすいってことだよ。」
「え、何それ最高じゃない。」
「だから僕はダンジョンに行くのをおすすめする。」
しかし、キューネの説明を聞いたヒナタはとあることを思いつく。
「へー……ねえ、あんたの説明通りに宝箱の報酬が決まるのならよ?強いパーティの中に1人の雑魚を連れていけばずるし放題じゃない?私って天才かも。」
すると溜息を吐きながら答えるキューネ。
「そういうズルはダンジョンにすぐバレるから意味ないよ。弱い人が流れ弾に当たって死ぬだけだね。」
そう聞いたヒナタは落胆して言う。
「まあ、そんな上手く行くわけ無いわよね…しょぼん。」
「どちらにせよ行けるのならダンジョンの方がいい。早速申請だけしてみれば?夜のうちに結果が返ってくるだろうし。明日の朝になって車待ちでダンジョンに行けないなんて事になるのは僕ごめんだよ?凍え死んじゃう。」
「それだけふわふわの毛があって凍死するわけないでしょ。とにかく今日のうちに申請しておきましょうか。護衛で乗れそうならダンジョン、無理そうならまた考えましょう。」
「僕もそれで賛成。」
情報端末を開いて申請を済ませたヒナタは眠る体勢をとる。
「ヒナタ、もし寝れないなら僕が子守唄を歌ってあげようか?」
「要らないわよ。天井のしみを数えて寝るわ。」
「それ本当に寝れるの?」
「ええ、案外寝れるものよ?あんたもやってみたら?」
「あはは、僕は遠慮しておくよ、それじゃあお休み。」
そうして1人夜を眠るヒナタであった。
朝の日光に薄ら目を開けるヒナタ。
「まだ寝れるわね……」
「もうそろそろ起きなよ。後何回二度寝するつもりなのヒナタ?……というより、二度寝の範疇をとっくのとっくに超えちゃってる?」
「私、朝弱いって知らないの?あんたもまだまだ私への理解度が足りてないわ。ということでおやすみなさい。」
薄く開けた目をもう一度閉じようとするヒナタ。
「ちなみに言うと、カールから連絡が返って来てたよ。」
通信端末の方を見るヒナタ。手を伸ばすだけでは届かないと判断してキューネに助けを求める。
「あんた、ちょっと確認して来なさい。」
「そしたらヒナタまた寝ちゃうでしょ?自分で取りなよ。」
体を起こすヒナタ。
「全く。あんたがこう何回も話しかけるせいで目が冴えて来たじゃない。」
「何回も起こす僕の気にもなってよ。ほら、通信端末。」
「分かってるわよ。」
そう言いヒナタはベッドから抜け出し立ち上がる。そして通信端末の方へ向かいそれを手に取る。
「えーと、返信を確認したらいいのかしら?……本当に難しいわねこれ。知識人に売る事しか考えてないのかしら。」
「慣れたら便利だから頑張るしかないね。」
「そんなこと分かってるわよ。そこまで行く前に使うのを辞めちゃいそうって言ってるのよ……あ、開けた。ぇえ!?」
通信端末を握りしめて叫ぶヒナタ。もう少し朝が早ければ間違いなく苦情が来たであろう。今回はどうやらヒナタが朝に弱いことが結果的に功を奏したわけだが。
「もう、ヒナタうるさいよ。お隣さんから苦情が来るよ?」
「今はそれどころじゃないの!これ見なさいよ!」
「えーと、なになに。護衛依頼申請が……あ、断られてる。」
「流石に同伴で車に乗るのは嫌よ?高すぎるもの。どうしましょう?ダンジョンにいくのは諦めた方がいいかしら?」
「ミナトに直接言ってみれば?一応敏腕風な雰囲気漂わせてるんだから、なんとか融通してくれるかも?」
「あ、そうしましょう。あいつが何とか認めるまで駄々をこねるわよ。」
「僕は離れて見ておくからね?僕までとんでもクレーマーだと思われたら嫌だし……痛ッ!」
キューネの耳を引っ張るヒナタ。
「誰がとんでもクレーマーだって?ちょっと交渉に行くだけよ。クレームを付けに行く訳じゃないわ。分かった?」
「分かりました!分かったから離して!……もう本当に、こんな事ばっかりしてたらお嫁に行けなくなっちゃうよ?……痛ッ!」
本気の拳骨を喰らわせるヒナタ。朝で力が籠り切っていないことにキューネは感謝する。
「余計なお世話よ。あ、そうそう、カールからも連絡が返って来てるのだったわね……えーと……あった!朝10時頃、ギルドで会おうって。お金も折半でいいらしいわ。」
「ほとんどヒナタが倒したようなものだし、もうちょっと貰っても良かったと僕は思うけど?」
「2人で倒したんだから半々でいいのよ。」
「まあお金関係で欲張ると碌なことがないし、そうしとこうか。」
「って、これ早朝の2時に返って来てるわよ?あいつどんだけ疑われてんのよ。」
「まあ一応しっかりした事件だからね。こんなもんだよ。何ならちょっと早く終わってるくらい。」
「ふーん。そんなもんなのね。」
時計の方に目をやるヒナタ。
「朝ごはん食べてギルドにそのまま行ったらだいぶ早く着きそうね?武具屋に寄ってから行こうかしら?」
「そうしようか。それじゃあ朝食へレッツゴーだヒナタ。」
「ちょっと待ちなさい。レディは用意に時間がかかるのよ。」
そう言って服を着始めるヒナタ。
「レディと呼ぶには少し性格が乱暴……なんてね。ほらヒナタ早く行くよ……痛ッ!」
「それで誤魔化すにも限界があるわよ?」
「うー、痛てててて」
頭を抑えるキューネ。そうして2人は朝食に向かうのだった。




