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戦いの後始末

カールに近付くヒナタ。

「ちょっと、その傷大丈夫?」

 ヒナタが心配そうな目を向けると、カールはポーションを飲みながら答える。

「全身が痛いが、こんくらいなら大丈夫だ。改めてまじサンキューな。正直死ぬと思ったぜ。そっちも結構痛そうにしてるが大丈夫か?」

「どうせ魔法で治せるし、問題ないわ。」

 (そうでしょ? キューネ?)

 (ちょっと時間はかかりそうだけど、僕の魔法でも治せそうな範囲だね。護衛が来るだろうし適当に駄弁ってていいよ。僕は回復魔法をヒナタにかけておくから。)

 (分かったわ。)

「へー、お前、回復魔法も使えるのか。すげえな。有名な魔法師かなんかか? あんなどでかい魔法も初めて見たぞ。」

「まだ無名も無名よ。ヒナタなんて聞いてピンと来る人はいないでしょうね。」

「そうか。ならこの出会いに感謝しねえとな。」

 そう言って笑顔を浮かべるカール。

「あなたこそすごい身体能力ね。レベルいくつなの?」

 カールは少し驚いたような顔を浮かべるが、すぐに笑顔に戻して返答する。

「はは。あんた遠慮を知らねえな。本来なら無視するところだが、命の恩人だから答えといてやる。38だよ。」

 今度はヒナタが驚いたような顔を浮かべる。

「盾って火力が出ないからレベルが上がりにくいんでしょ? よくそこまで上がったわね?」

「あー、まあスキルを持ってるからな。それで言うならお前も若いだろ? 何歳だよ。俺は17だ。」

「13歳よ。」

「それであの魔法か? 将来有望だな。そういえばなんで鞘なんか持ってるんだ?魔術師にはいらねえだろ。」

 そう言って腰に携帯する刀を指差すカール。

「剣の練習よ。魔法ばっかりじゃダメだと思って剣も練習してるの。」

「へー、あんだけ魔法が使えりゃ魔法一本でもいけそうなもんだがな。」

「まあね。確かに魔法一本でもいけるけど……キューネにばっかり頼ってても暇だし……。」

 後半部分は小声で言って濁すヒナタ。そんなヒナタを見てカールは言う。

「なあ、お前、剣の腕はそんなにだよな?」

「そうだけど……何よ?」

「だったら俺とパーティを組まねえか? 俺は盾、お前は魔法。攻守隙が無くなるぜ?」

「でも、私、剣の練習はどっちにしろするわよ? これは意地なの。」

「そんなに魔法が使えるのにか? 護身用とかでもなく、剣で鍛えたいのか?」

「そうよ。」

 キューネにばっかり頼っていられないという本音が隠れた建前であるが、カールは実体験から妙に納得してしまう。

「意地ね……まあ誰しもそういうのはあるものだな。だが剣を使うにしても俺は役に立つぞ? いざという時は攻撃をこっちに集めてやれるしな。魔法がないと正直おぼつかないだろ? 俺とパーティを組めよ。お互い一度背中を預けた仲じゃねえか。そこらの見知らぬ奴と組んで戦うよりずっといいぞ。」

「そうね……でも、あなた確か囮になっていたのよね? もう1人があなたを置いて護衛に助けを呼びに行ったんでしょ?」

「お前よく分かったな? それも魔法か?」

「そ……そうよ。探知の魔法であなたが一人残されてるのを見て助けに来たのよ。」

 少し返答が辿々しくなるヒナタ。キューネを説明から弾いて辻褄を合わせようとするために、とんでもないスーパーマンがヒナタ像として出来上がっていく。

「あいつは駄目だ。俺が敵の攻撃を引きつけてる間に逃げちまった。俺がすぐ死ぬと思ったんだろうな。あいつとは今日きりで終わりだ。それでどうだ? 俺とパーティを組まねえか? 最悪、多少利益をそっちが多く持ってってもいいぞ?」

 返答に悩むヒナタ。キューネと相談したいところだが、肝心のキューネはヒナタの治療に専念中で話す余裕など毛頭微塵もない。どうしたものかと考えていた時、複数人の声がこちらに近づいてくるのが聞こえた。ヒナタは声の発生源の方を向く。

「いえ……はい……それで……仕方がなかったんです! 俺が一人で犠牲になるとか言って前に飛び出たので、仕方なく。僕も助けようとしたんですけど、いいから逃げろって……。ここら辺にウェアウルフなんて出ないはずで、僕も混乱してて……」

 言い訳をしていたカールの仲間がカールを発見する。カールは怒りを露わにし、あちらは瞳孔を開いて動揺しているようだ。それを見たヴァルグは色々と察して言う。

「それで? こいつの言ってることは本当か? そこの盾使い。」

 すると怒りを抑えきれない様子でカールは言う。

「そいつが俺を見捨てたんだ。俺が敵の攻撃を引き止めてる間に逃げやがった。二度と顔見せんじゃねえ。豚箱にぶち込まれてろ。」

「だ、そうだ。俺はお前からパーティメンバーの死亡の報告を受け、現場を確認するためにここまで来たわけだが、どうやら無駄足だったらしいな。全く、他の護衛まで呼ぶ羽目になったじゃねえか。とりあえず、お前らは都市に帰って状況説明だ。場合によっちゃ監獄の中だな。そんで肝心の変異体はどこだ? お前らで片付けられる相手じゃないだろ? どこに逃げた。」

「ああ、それならそいつが倒してくれたぜ? ほら、あそこに魔石もある。」

「そう……よ! 私が倒したわ!」

 怪訝に思うヴァルグ。

(こいつら……確かレベルは8と38。しかも倒したのはレベル8……有り得ねえな……。)

 その後、裏を読もうと必死に思索するヴァルグだったが、結局結論を放り投げる。

(まあいい。嘘だとしてもメッキはすぐに剥がれる。実際問題倒されてはいるし。それで始末書書いとくか……)

「分かった。そういう風にギルドには言っておく。さっさとここを離れて車の輸送経路に行くぞ。そこでどっかの車に合流してお前ら3人、特にそこ二人は事情聴取だ。数分したら出る。魔石の回収を終わらせて準備しろ。」

「おいヒナタ。俺は奴と話をつけないといけない。魔石拾っといてくれ。分け前については後で話そう。」

「了解よ。それじゃあ私は魔石拾ってくるわね。」

 (ヒナタ、足の傷、治しておいたよ。)

 (ありがと。それじゃあ魔石を回収して帰るわよ。)

 ヒナタは魔石の回収に向かうが、カールは過去の仲間を睨み続けて動かない。その仲間は今後のことを考え、完全に顔が青ざめている。そんな様子を見たヴァルグは間に入って言う。

「まあ、実際問題、お前、置いていっただろ。」

 そう言って怯えた様子の肩に腕を置く。そしてカールに聞こえないくらいの音量でひっそりと言う。

「こう言っちゃなんだが、さっさと自首して謝っておくことだな。本人に謝罪して、すぐ認めたとなりゃ、多少罪は軽くなる。」

「でも、記録は残りますよね……? 仲間を見捨てた人と誰がパーティを組んでくれるんですか? 僕は魔術師ですよ? 前衛のいない魔術師なんて絶体絶命ですよ! どうしてくれるんですか!? 責任取れるんですか!?」

 怯えたような声から、どんどん強い語気に変わる。そしてピリついた空気が流れた数秒後、証拠隠滅を図ったその裏切り者がヴァルグに向かって護身用の剣を抜く。

「死ねー!」

「お前がな。」

 足で一蹴り。ヴァルグからすれば剣を使うまでもない。レベルの差は残酷にも戦闘の結果をほぼ100%で指し示してしまう。ヴァルグには少しの埃がついただけ、それに対して相手は完全に泥を被って気絶している。

「お前も散々だったな。事情聴取もこれで楽に終わるだろうよ。こいつのお先はこれで完全に潰えたからな。」

 カールにそう言いかけるヴァルグ。

「全くですよ。あいつが助けに来てくれたのが本当に幸運でした。」

 そう言って喜びながら魔石を拾うヒナタを見つめるカール。

(これでもう12個〜、あといくら拾えるかしら〜。)

「本当にあいつが倒したのか? あの魔石、報告通り変異体だろ。」

「ええ、本当にあいつが倒したんです。」

 嘘を言っているようには見えない。何らかの特殊なスキルのおかげであろうと一旦は結論づける。

「そうか、ならとんでもねえバケモンだな。」

「あなたならここら辺の変異体くらいなら倒せるでしょ?」

「そういう意味じゃない。個人情報だからあんまり言えねえが、あいつのレベルは変異体を倒す推奨レベルに全く至っていない。まあ、超優良株ってとこだな。唾つけとくなら今のうちにつけといたほうがいいぞ。今にも手が届かなくなる。」

 そう言って二人はヒナタを見つめる。そんな中、変異体の魔石を他のと同じ魔石袋にしまおうとしたヒナタに対し、ヴァルグが大声で言う。

「おーい! その魔石を間引き依頼の魔石で出すのは無理だぞ! ギルドに直接渡せよ! 依頼を受けていないとはいえ高値で買い取ってくれるぞ!」

「分かったわー!」

 (ねえキューネ聞いた? 高値だって高値。苦労した甲斐があったわね。)

 (僕の力を思い知ったか、えっへん。)

 (はいはい、今回に関しては本当に助かったわよ。ありがと。)

 (えへへ〜照れちゃうなあ。)

 (ところでなんであの男倒れてるのよ?)

 (多分だけど、カールを囮にして逃げたのを証拠隠滅しようとしたところを、ヴァルグに返り討ちにされたんだろうね。)

 (何それ、とんでもないクズじゃない?)

 (そういう情報はギルドに登録されて、パーティを組む時とかにギルド員から警告が行くから、先が見えずにやっちゃったんだろうね。)

 (にしてもクズ中のクズよ。絶対に出会いたくないタイプの人種だわ。あ、そうそう。さっきカールにパーティ……)

「おーい、もうそろそろ行くぞ! 車がもうそろそろここら辺の経路を通る! さっさと移動するぞ!」

 ヴァルグからの呼びかけに、ヒナタは魔石回収を一旦やめて彼らの元へ向かう。

 (また後で話すわ。)

 (ん、分かった。)

「よし行くぞ。ついてこい。はぐれるなよ。」

 そう言って走り始めるヴァルグ。随分とゆっくり走ってくれているようだ。ヒナタでも十分に追いつけるスピードである。そうしてカールと二人で並走していたところ、カールがヒナタに呼びかける。

「おいヒナタ、パーティの件、どうだ?」

「あー、それね……」

 (キューネ、どうしよう。カールからパーティを組まないかって誘われてるんだけど……)

 (ヒナタがしたいならしてもいいんじゃない? 僕はどっちでもいいよ?)

 少しの間黙り込むヒナタ。そして先延ばしを決断する。

「うーん。お悩み中……かしら?」

「なら、決めたらまた教えてくれ。ほら。これ俺の通信番号だ。」

 そこには数字とアルファベットの羅列があった。

「何これ暗号?」

「ちげえよ。お前通信番号も知らないのか?」

「さっきも言ったけれど、無名の新米者なのよ私。」

 少しムッとしてしまうヒナタ。キューネと喋る時の癖がここでも出てしまったようだ。

「おう……そうか。怒らせて悪かったな。通信端末っていうのがあってな、それの識別番号だ。それさえあれば俺のデバイスにメッセージを送ったり一緒に話せたりする。」

「え、そんな便利なものがあるの? どこで売ってるのよ?」

 故郷にはなかった現代製品に興味を示すヒナタ。

「普通にギルドにも売ってるぜ。魔石の換金に行く際に買ってみたらどうだ?」

「ちなみにいくらくらい?」

「2万ヴァルとかだったかな……すまん、相場は分からん。」

「高いわね。情報端末でもそんなにしなかった記憶があるわよ。」

「情報端末はシーカーなら必須だからな、一部ギルドがお金を負担している。まあそれでも通信端末も生活にはほぼ必須級だから買っておくことだな。」

「ふーん。そういうものなのね。」

 そうして離れようとしたカールだが、魔石をヒナタに預けっぱなしであったことを思い出し、もう一度彼女に近づく。

「あ、倒した魔石の分け前についてはまた後日、通信端末で連絡してくれ。」

「分かったわ。通信端末も急いで買わないとね。」

 そう言って少し距離を取るカール。

 (田舎者感丸出しね。もう少し知ってる風にすれば良かったかしら。)

 (ヒナタの世間知らずはすぐバレるから、どうせ隠しても無駄だよ。覆い隠せるほど小さくないからね。ヒナタのあそことは違って……痛いっ!)

 (小声で言ってもバレてんのよ! このエロデリカシー無さ男!)

 (そんな大振りで僕を殴ってカールにバレちゃうよ? もうすでに変な人だとは思われてそうだけど……痛い痛い!)

 (あんたのせいでしょうが! 変に思われると思うなら静かにしてなさい!)

 (うー、分かったよ。)

 頭を必死で抑えるキューネ。その愛くるしい見た目から一見可哀想に見えるが、実際問題キューネが悪いので反省してもらうしかないだろう。

 そうして二人は都市まで戻った後、別れてカールは調査本部に、ヒナタはギルドに向かうのであった。

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