キューネとの出会い
全速力でダンジョン3階層を走り抜ける少女。レーザーアイとゴブリンに追われ、今にも死にそうな風貌である。
(あっ)
ヒナタが転倒した瞬間、ヒナタと魔物の鬼ごっこは終わりを告げたようだ。
(嫌だ、死にたくない)
ヒナタが死を悟った時、目の前に宝箱が現れる。ヒナタは目の前の存在が何を意味するのか理解できなかったが、その箱を開けた。その瞬間、球状のバリアと共に、何かが宝箱から飛び出る。
「やぁ。僕はキューネ。君は?」
呆然とするヒナタ。宝箱から出て来たのは可愛らしい風貌の浮いた獣だ。
「まずはあっちを片さないとだね〜」
次の瞬間、ヒナタ後方のレーザーアイとゴブリンが燃えかすとなる。
「よし。これでおしまい。ここから出ない限り、もう魔物は襲ってこないよ。」
ヒナタは驚愕を顔に滲ませてキューネを見る。互いを見つめ合って数秒。
「そんなに見つめられると照れちゃうなぁ、うへへ。もう一度聞くよ。君の名前は?」
ヒナタはようやくキューネの質問を認識したようだ。
「……ヒナタです。えーと、助けてくれてありがとう?」
するとキューネは尻尾をフリフリして言う。
「うふふ、どういたしまして。助けたという認識で合ってるよ。僕は精霊。そして今日から君のガーディアン。よろしくね。」
座ったままの状態のヒナタは全貌を理解することが出来ず、呆け続けている。そんなヒナタの様子を見て、キューネはヒナタの前で手を振りながら聞く。
「もしもーし、聞こえてるのかなー?」
ヒナタはもう一度キューネに焦点を合わせる。
「えーと、すいません。聞こえています。えーと、精霊?ガーディアン?がいまいち分からなくて……」
あたふたする少女。それを見たキューネはまた微笑みを浮かべて言う。
「うふふ。無理もないよ。お互いに情報交換といこうじゃないか。と言っても、僕も精霊がどういう存在なのかはいまいち分からないんだけどね。ただ間違いなく言えるのは、君を守るためにこうして生まれてきたということさ。」
「そうでしたか。先ほどは助けて頂いてありがとうございました、キューネさん。」
そう言って頭を下げるヒナタ。
「敬語はいらないよ。僕はもう君のパートナーになったんだ。キューネでもキューちゃんでも勝手に呼んで構わないよ。」
(害意は無さそう?)
ヒナタは目前の存在が自身に害意を及ぼす意思がないことを認識して、少し表情が砕け始める。
「そう?分かった。さっきはありがとう、キューネ。ところで、キューネはなんで宝箱の中にいたの?」
キューネは少し自慢げな顔を浮かべて、ちっちゃな手を胸の方に押し当てて言う。
「ドロップアイテムさ。それも超激の当たりだよ。うっふん。」
ヒナタは怪訝な顔を浮かべ、顔を横に傾ける。
「ドロップ、アイテム?」
キューネも顔を傾けて不思議そうな顔をする。
「うーん。ヒナタ、ダンジョンに居るからにはシーカーだよね?ドロップアイテムも知らないの?」
ヒナタは少し罰の悪いような顔をして答える。
「ごめんなさい。私、ダンジョンについて何も知らないの。ママとパパが魔物に殺されて、それでオガララタウンまで逃げ込んで、気付いたらシーカー?になってて……それで」
少女の目には少し涙が溜まっていた。キューネは片手を少女の肩に乗せて優しく言う。
「そうかい、辛かっただろうに。よく僕を見つけてくれたね。もう大丈夫、これからは僕がいる。」
キューネはヒナタの顔を引き寄せて、頭を撫で撫でする。ヒナタの涙も少し収まったようだ。
「ありがとう。ところでキューネ、私以外にもダンジョンに入ってきた子達がいるの。その子達も助けられない?」
するとキューネは笑顔を保ったまま答える。
「分かった、ちょっと待っててね。」
キューネは探知の魔法を発動させる。しかしキューネが発見したのは数十人の子供の死体のみ。どうやら全員死んでしまったようだ。数秒の沈黙の後、キューネは話す。
「うーんと。それはちょっと無理そうだね。」
ヒナタが理解できないという顔を浮かべる。
「どうして?私以外は助けられないの?」
キューネは言葉をじっくり選定しながら事実を伝える。
「えーとね、僕の存在が他者に知られるのはあまりよろしくないというのはあるんだけれどね。ここら辺に生きている人間の反応は君しかいない。つまり、もう逃げたか死んじゃったかのどっちかだね。」
確実に死んでいるであろう反応を確認したキューネだが、ヒナタへの心的ダメージを考え、少し柔らかめに事実を伝える。そしてキューネの懸念通り、ヒナタは少し絶望したかのような顔を浮かべる。
「そう……なの。」
ヒナタはまた塞ぎ込んだような顔を見せる。嘘をつくべきだったか、そんなことを考えていたキューネだが、今彼らがダンジョンの中にいるのだということを考慮して、ヒナタに次への行動を促す。
「とりあえず、ここからの脱出を目指そう。傷もひどいしね。歩ける?」
ヒナタは立ち上がる。
「うーん。ちょっと痛い。歩けはするけど。」
ヒナタの傷跡を見たキューネ。
「なら、モンスターが来ないうちにちょっと治しちゃおうか。」
キューネは両手をヒナタの方へ向ける。自身の身体がみるみる修復されていくのを感じるヒナタ。
(あったかい……)
「はい、お終い。」
無意識のうちに名残惜しそうな顔をするヒナタ。
「そんな顔をしても、これ以上魔力を減らせないよ。」
そう言って、ちっちゃな手でヒナタの頭をちょんと押す。
「分かってるもん。」
キューネは微笑んで言う。
「はいはい、そうだね。」
「むー。」
ほっぺたを膨らませるヒナタ。キューネはヒナタに尋ねる。
「ところで、ヒナタのレベルはいくつ?」
少し間を置くヒナタ。
「……そういうのは言っちゃいけないって言われたし、それに……」
キューネはヒナタの考えを察して、先んじて言う。
「大丈夫、レベルが低くても笑ったりしないよ?」
するとヒナタは右腕を出して人さし指を上げる。それを見たキューネは茶化すように言う。
「なんだ。10だったら上出来じゃないか」
するとヒナタは顔を横に振る。
「違う……レベル……1。」
「それはなんと言うか……よくここまで頑張ったね。」
「何回も死にかけたんだから。」
今までのことを思い出し、本当に疲れたという表情を見せるヒナタに対し、キューネは疑問をぶつける。
「もとより、ダンジョンにはどうやって来たの?地上の魔物もいるでしょ?」
「護送車で送ってもらった。魔石を集めてこいってさ。地上に辿り着けば、また車で送ってもらえると思う。」
「なるほど〜。じゃあとりあえず、1階層への帰還を第一の目標としよう。僕が道案内をする。ほら、立って。」
ヒナタに手を差し伸べるキューネ。ヒナタはその手を掴み、立ち上がる。その勢いのまま、2人は円形のバリアの中から抜け出して外に出る。
魔物で溢れかえるダンジョンの中に再び戻るヒナタ。無意識のうちに緊張感が身体中を巡る。そんなヒナタの様子を見かけたキューネは、浮いた体をヒナタの耳元まで持っていく。そしてヒナタも右耳に注意を傾けた時、左の方から声が聞こえた。
(ヒナタ、ここからは人前やダンジョンの中では、心の中で話そうね?)
ヒナタは驚いてビクンとする。
(もう、驚かさないでよ。)
(ごめんごめん。言い忘れてたよ。ところでヒナタ、もう3歩前に出て。)
(なんで?)
(いいから、早く早く)
キューネの言った通り3歩前に出たヒナタ。そのコンマ数秒後、ヒナタのいた地点にレーザーアイの光線が打ち込まれ、床の一部が黒焦げになる。爆音を聞いたヒナタは後ろを向き、もし自身があれに当たっていたらと考えて表情を固くする。
(よし、このまま走るよ)
そう言って前を駆けていくキューネ。それを見たヒナタは冷や汗をかきながら全力でキューネの後ろにつく。
(ちょっと!死んじゃうところだったじゃない!もっと早く教えてよ!)
(いやー、あれは危なかったねー、テヘペロ)
(テヘペロじゃないわよ!)
全力で走ってキューネの後ろについていくヒナタ。自身を追跡する機械音を聞きながら、2人はまたもや命懸けの鬼ごっこを始める。
(ちょっと、あれ当たったらどうなっちゃうのよ?)
(ヒナタ、そのまま全速力で右に大股2歩。小股だと左腕が消えるよ)
(前からもゴブリンが来てるじゃない!)
(いいからいいから。そのままだと心臓まっしぐらだよ?)
すぐさま全速力で走りながら、大股2歩分右に移動するヒナタ。そしてその直後、光線が飛ぶ。またもや自身がいた場所が黒焦げになる。そして先ほどまで自身を挟み撃ちにしていたゴブリンも黒く焦げて魔石と化した。
(いっちょあがり〜)
そう言って魔石を拾って袋に投げ込むキューネ。
(ちょっと、何してるのよ!)
(何って、魔石集めだよ。)
(今はそんなことしてる場合じゃないでしょ?)
(ヒナタは魔石を集めてこいって言われて来たんだよね?魔石も持ってこないで帰って、護送車にまた乗せてくれるかは怪しいよ?)
(……確かに。でも、もうちょっとやり方ってもんがあるでしょ、やり方ってもんが!)
(ヒナタのレベルだとこれで精一杯だよ。それに間接的とはいえ敵を倒してるのだから、経験値集めにもピッタリさ。後ろをしっかり見てくれる僕がいてよかったじゃないか)
(それでも限度ってもんが)
(左に小股一歩)
すぐさま体を左に引くヒナタ。次はブラックバットが魔石と化す。
(おかわりもういっちょ!)
そう言って、またもや魔石を袋に投げ込む。
(おかわりじゃないわよ!誰か助けて〜!!!)
逃走撃を続けて数十秒後、後ろの気配が無くなったことに気付くヒナタ。キューネも前に進むのをやめて停止する。
(ふー、危なかったねー)
息を切らしたヒナタは文句を言い始める。
(危なかったねー、じゃないわよ!もうちょっとで真っ黒焦げのクロワッサンになるところだったじゃないの!あー、疲れた。)
そう言って地べたに寝転がるヒナタ。
(あらら、クロワッサンを知ってるの?ヒナタはリッチだね〜。)
(ここ最近は干しパンだけよ。それで、魔石は十分に集まったの?)
(ああ、それね。どれどれ、ちょっと覗いてみようか……うーん、まあ……いけるかな?それでヒナタはレベルいくつになった?)
(ステータスオープン)
体を起こして目の前のステータスを眺めるヒナタ。そしてそれを覗き込むように、キューネはヒナタの顔の横に体を置く。静かにしていれば本当に可愛いのだが。
(レベル3か〜、ふむふむ。まあズルした割には上出来だね。)
(え、私のステータス見えるの?)
(もちろん。ヒナタとは感覚が繋がってるからね。分かっちゃうよ。)
そう言って指を振るキューネ。本来ならこの可愛らしい獣をもふりたい気持ちでいっぱいのヒナタだが、疲れていてそれどころではない。
(もう全く、割に合わないわよ……魔石集めとレベルアップのために、ここまでする必要あるの?車に乗る前に死んじゃ元も子もないわよ?)
(それは3階層の魔物を減らすためだよ。今のヒナタはどの魔物に遭遇しても致命的だからね。)
(あいつがずっと追って来たら、どうするつもりだったわけよ?)
(それはないよ。あいつは、しばらく獲物に光線が当たらなかったら勝手に逃げるタイプの魔物だからね。)
(それでも、ここら付近の何体かはやっつけたけど、こんな広いダンジョンの中だと、ほとんど意味ないわよ?)
そう言うと、またもや指を振って、今度は舌まで鳴らし始めるキューネ。
(ちっちっち。甘いよヒナタちゃん。魔物を連続で倒した魔物はダンジョンから敵認定される。つまり、今頃3階層のモンスターが総力を挙げて、あいつを滅多撃ちにしてるよ。だからこうして、ちょっとした休憩もできるってわけさ。)
へーという顔をするヒナタ。そしてそんなヒナタの様子を見て、少し自慢げな表情を見せるキューネ。
(まあ、それにしても、あのレーザーアイが滅多撃ちにされ尽くされる前に、早く逃げちゃおうか。ほら、立ってヒナタ)
(もう、次はしっかり説明しなさいよね)
そう言って立ち上がったヒナタ。そして2人はまた、上層に向けて走り始めた。




