姉妹のいない少女
「鈴山さん、鈴山さん」
ここは聖ルチア女学院の講堂。最上級生の鈴山美羽は音楽の授業の後廊下の壁に飾られた写真を見あげる。どの写真もドレス姿の少女が2人写っている。どの写真も違う少女だ。
「鈴山さんってば!!」
美羽は背後から肩を揺すられる。
「きゃっ!!びっくりしたわ。」
背後には同じクラスで宮家とも親戚で侯爵家の令嬢れいかがいた。桃色の振り袖に緑の袴、巻いた髪に赤いリボンをつけたお嬢様だ。
「びっくりしたじゃなくってよ。ぼうっと写真なんか眺めて」
「だってどれも素敵なのですもの。華やかなドレスに、シャンデリアの広間なんて。」
「毎年恒例の舞踏会のプレミアスールじゃないの」
プレミアスールとは毎年舞踏会で選ばれた姉妹の事を指す。プレミアはフランス語で最上級、スールは姉妹だ。
「鈴山さん、1度も舞踏会出た事なかったわよね?」
「だって慶子お姉様はあまりこういうの好きじゃなかったから。」
「誰かいらっしゃらないの?新しい妹」
姉妹というのは血の繋がりがある家族の事ではない。聖ルチア女学院では上級生と下級生が特別親しい関係になる事を英語のsisterの頭文字をとってエスと呼んでいる。上級生がお姉様で下級生が妹だ。2人は仲良しの証としてリボンを交換し合ってたり、お姉様がロザリオをプレゼントしてくれたりする。舞踏会はエス同士で組んで踊るため姉も妹もいない娘は参加できないのだ。
美羽が2年生の時慶子という当時5年生のお姉様がいた。内向的で舞踏会には参加したがらなかった。慶子が卒業してからはお姉様も妹もいなかったため舞踏会には参加する機会がなかった。
「れいかお姉様!!」
れいかの妹の撫子が声をかけて来た。
「あら、撫子。次の授業音楽?」
「はい、お姉様。今日はチャイコフスキーをやりますの。」
3年生は今音楽で西洋の作曲家の事を習ってるのだ。
「まあ、くるみ割り人形の?」
「はい。」
「撫子、舞踏会の曲はバレエのくるみ割り人形の曲から選ばない?」
れいかは幼い頃からバレエをやっていてくるみ割り人形のクララの振りは完璧に踊れるのだ。
「素敵ですわね。」
その時始業を告げるベルが鳴った。
「私行かなくてはごきげんよう」
撫子はれいかに1礼して講堂の中に入っていく。
その日の帰り道美羽は寄り道をして行った。向かった先は帝国ホテルだ。
「いらっしゃいませ」
美羽が入ったのはロビーのラウンジだ。誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡す。
「Please help yourself to a cup of tea.」
美羽は外国人夫婦の座る席に紅茶を置いた女給に手を振る。女給も彼女に気づき顔を赤くして会釈する。




