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虚構2 交易市場の喧騒

 国境近くの「灰色の市」――人間と魔族が唯一、堂々と肩を並べて商売する場所。

 ここでは誰も種族を問わない。

 金さえあれば、魔法の剣も、人間の蒸留酒も、魔族の幻惑香も、なんでも手に入る。

 ガルドはテントの影に座り、角を軽く磨きながら客を待っていた。

 四十歳過ぎの魔族商人。

 赤みがかった肌に、曲がった二本の角。

 人間から見れば典型的な「恐ろしい魔族」だが、ガルド自身は「ただの商売人」だと自認している。


「いらっしゃいませ~! 今日のおすすめはこちら、人間製の鋼鉄短剣に魔力増幅結晶を埋め込んだ逸品ですよ! 魔王軍との戦場で、確実に一撃で敵を沈められます!」


 ガルドの声が市場に響く。

 向かいのテントから、人間の武器商人が苦笑しながら顔を出した。


「おいおいガルド、また同じ売り文句かよ。

昨日も『魔王軍に勝てる剣』って言ってたじゃねぇか」

「本当のことだろ? 魔王の脅威があるからこそ、こんな上等な剣が飛ぶように売れるんだ。

感謝しろよ、人間ども」


 二人は笑い合う。

 昨日も一昨日も、同じ会話を繰り返している。

 それがこの市場の日常だ。

 今日の客は若い人間の傭兵だった。

 肩に傷を負ったばかりで、急ぎ足で近づいてくる。


「魔力貫通の矢、二十本。急いでるんだ。

今夜には前線に戻らなきゃ」


 ガルドは素早く棚から矢束を取り出し、値札をちらりと見せた。


「二十本で金貨三十枚。サービスで一本余分につけとくよ。魔王軍の斥候は厄介だからな」


 傭兵は無言で金貨を投げ、矢を奪うように受け取って去っていった。

 ガルドは金貨を数えながら、ぼそりと呟く。


「……魔王軍の斥候、か。あいつら、昨日もここで酒飲んでたっけな」


 実際、魔王軍の兵士と名乗る魔族たちは、夜な夜なこの市場の酒場に現れる。

 人間の傭兵と酒を酌み交わし、


「次の戦闘、どっちが先に逃げるか賭けようぜ」


 なんて冗談を言い合う。

 誰も本気で殺し合おうとは思っていない。

 ただ、

「魔王がいる」という大義名分があれば、両種族とも、武器は売れる。

 交易は活発になる。

 雇用が生まれる。

 ガルドはテントの奥から、特別な箱を取り出した。

 中には、魔王の紋章を模した小さなペンダント。

 本物かどうかは誰も知らない。

 ただ、噂では「魔王の加護がある」らしい。


「これを首にかけとけば、魔王軍の攻撃から守られるってさ」


――そんな売り文句で、人間貴族の令嬢が先週買っていった。

 ガルドはペンダントを磨きながら、ふと空を見上げた。

 遠くの空に、今日も黒い煙が上がっている。

 本物の戦場だろうか。

 それとも、報道局が今日撮影した「再現映像」の煙か。

 どちらでもいい。

 市場は今日も賑わっている。

 人間と魔族が肩を並べて笑い、金をやり取りし「魔王のおかげで儲かるな」と言い合う。

 ガルドは次の客に向かって声を張り上げた。


「次の方、いらっしゃい! 魔王の脅威に備えるなら、今がチャンスですよ~!」


 その声に、市場のあちこちから笑い声が返ってきた。

 誰もが、同じことを思っている。

 誰もが、同じ空気を吸っている。

 魔王がいる世界は

 恐ろしいが

 儲かる。


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