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最終話 誰も望まない魔王不在の世界

 深夜二時。

 王都の外れ、安アパートの一室。

 年季の入った机の上で、古い端末の画面が淡く光っていた。

 書き込み欄には、すでに送信済みの文字列が残っている。

――魔王は存在しない。

玉座は空で、戦争は演出だ。

勇者は討伐者ではなく、消耗品だった。

それを知った者は消される。

私も、彼も。

 投稿者名は「匿名」。

 添付された画像は粗く、断片的だ。

 設計図の一部。

 ホログラム装置の構造。

 報告書の切れ端。

 どれも決定的とは言えない。

 だが、すべてが、繋がっている者には分かる内容だった。

 画面の前の人物は、送信完了の表示を見つめたまま、しばらく動かなかった。

 そして静かに、電源を落とした。

 翌朝。

 王都の朝のワイドショーは、いつも通り軽快な音楽で始まった。

 司会者が、笑顔でカメラに向かう。

「さて、今日はこちら。

 ネットで話題の“最新陰謀論”です」

 スタジオのスクリーンに、例の書き込みが映し出される。

 要点だけを切り取り、赤字で強調されている。

《魔王はいない》

《勇者は使い捨て》

《戦争は演出》

 スタジオに、くすくすと笑い声が漏れた。

「いやあ、来ましたね」

「定期的に出ますよね、こういうの」

 隣に座るコメンテーターが肩をすくめる。

「不安な時代ですから。

 分かりやすい“敵”がいないと、逆に怖くなるんでしょう」

 別の席では、眼鏡をかけた専門家が頷いた。

「これは典型的な陰謀論の構造です。

 世界が複雑すぎると、人は“裏で誰かが操っている”と考えたくなる。魔王否定論は、現実への不適応反応ですね。これを信じている人は低所得者層というデータもあるんですよ」


 スタジオが爆笑で包まれる。


 司会者が場を取り直して笑顔で締めくくる。


「皆さん、ネットの情報にはご注意を。

 勇者様は、今日も魔王討伐に向かっています!」

 画面が切り替わる。

 流れるのは、勇者が剣を振るう映像。

 炎、咆哮、巨大な影。

 何度も使い回された、完璧な“討伐シーン”。

 街角のカフェ。

 会社員がコーヒーを飲みながら、ちらりとテレビを見る。

「また変なのやってるな」

 そう呟いて、視線をスマートフォンに戻した。

 別の場所では、学生たちがその話題をミームにして笑っている。

 「魔王いないらしいぞw」

 「おまえ、そんな陰謀論しんじてんの?」


 夜。

 一人の女性が、自室で端末を開いていた。

 昼間に見た番組が、なぜか頭から離れなかった。

 検索履歴。

 キャッシュ。

 魚拓。

 消される前の書き込みを、彼女は見つけていた。

 画面をスクロールする指が、止まる。

 ――玉座は、空だった。

 彼女は画面を閉じ、しばらく黙って考えた後、

 その内容を紙に印刷した。

 折りたたみ、封筒に入れる。

 引き出しの奥。

 誰にも見られない場所へ。

 テレビでは、今日も魔王の脅威が語られている。

 勇者は生きている。

 戦争は続く。

 経済は回る。

 真実は、確かに語られた。

 だがそれは、

 信じるには危険すぎる場所に置かれた。

 世界は今日も安定している。

 誰もがそれを望んでいる。

 ――魔王のいない世界など、

 誰も、必要としていなかった。

 そして物語は終わる。

 静かに、

 何事もなかったかのように。


──終わり──

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