虚構12 仲間たちの本音
(この回は、旅の途中で焚き火を囲んだインタビュー形式で進行します。
勇者クリードと、旅の仲間二人の会話が、まるで「記録された証言」のように綴られます。
彼らの言葉は、社会全体の空気をそのまま映し出しています。)
■記録日:王暦1023年、秋の第7週
■場所:魔族領入り口近くの森、野営地
インタビュアー:クリード(勇者)
被インタビュアー:商人マイケル(人間、35歳)、元兵士ベルダ(人間、42歳)
クリード:
……今夜は、みんな本音で話してくれ。
俺は勇者として、魔王を倒すために旅をしている。
でも、道中で出会う人々が、みんな「倒すな」と言う。
なぜだ?
本当に、魔王がいなくなったら、そんなに悪いことになるのか?
マイケル(商人、干し肉を串に刺しながら、軽く笑う):
ははっ、勇者様、ストレートだねぇ。
まあ、冗談抜きで言うと……倒しちゃったら、俺等の商売が終わるよ。
俺は人間と魔族の間を行き来する交易商人だ。
主に武器と魔法薬を扱ってる。
魔王の脅威がある限り、需要は尽きない。
ニュースで「魔王軍接近!」って流れるたび、注文が殺到するんだ。
去年の局地戦で、短剣が三倍になった時は、涙が出たよ。
喜びの涙さ。
クリード:
……喜びの?
カイン:
そうだよ。
家族五人を養ってる。
妻は病気で寝たきりだし、子供たちは学校に行かせたい。
魔王がいなくなったら、武器の需要がゼロになる。
交易ルートは縮小する。
闇市は閉まる。
俺は路頭に迷う。
家族は飢える。
だから、冗談じゃなく……
「魔王倒したら失業するぞ」って、みんな本気で思ってるんだ。
ベルダ(元兵士、焚き火に薪をくべながら、ぼそりと):
俺も同じだ。
元傭兵で、今はフリーの護衛屋だが、昔は魔王軍との局地戦に何度も出た。
死者は出るけど……本気で殺し合ってるわけじゃない。
ルールがあるんだよ。
死者上限、予算内で収まるように調整。
戦闘後、向こう側と酒飲んで笑い合うことだってある。
それが、俺たちの日常だった。
クリード:
……お前たちも、そういう戦い方を?
ベルダ:
ああ。
誰も全滅させたくない。
全滅したら、戦争が本気になって、両側とも壊滅する。
だから、管理された衝突。
死者は最小限。
でも、その死者のおかげで、補償金が出る。
家族は食える。
俺の古巣の傭兵団も、今は「魔王軍対策専門」として契約してる。
脅威がなくなったら、契約解除。
みんな、失業だ。
マイケル(串をレオンに差し出しながら):
ほら、食えよ勇者様。
干し肉、魔族の香辛料が効いててうまいぜ。
……それにしてもさ、勇者様。
お前、魔王の城に近づいたら、どうなると思う?
クリード:
倒す。
それが俺の使命だ。
マイケル(火を見つめながら、静かに):
使命か……
いい言葉だな。
でもよ、俺たちから見たら、お前は「景気を壊すヤツ」なんだ。
三十年前の「勝利実験」の話、知ってるか?
クリード:
……少し聞いた。
偽の勇者が魔王を倒したニュースを流して、経済が崩壊したって。
ベルダ:
そう、それ。
あの時、俺の親父は工場で働いてた。
ニュースで「魔王討伐成功!」って流れた日、みんな喜んだ。
翌週、工場が止まった。
親父は失業。
借金が増えて、家を失った。
結局、魔王は「復活」したってニュースで、工場は再開したけど……
親父はもう、立ち直れなかった。
俺は子供の頃から、「魔王がいないと、みんな死ぬ」って教わったんだ。
マイケル:
俺もだ。
あの暴動で、友人が死んだ。
食料が足りなくて、略奪に参加して、衛兵に殺された。
だから、俺は思うよ。
魔王の嘘は、必要悪だ。
真実を暴いたら、また同じことが起きる。
失業、暴動、飢餓。
誰も望まない。
クリード(声を低くして):
……でも、死者は出てる。
本物の死者だ。
局地戦で、毎回人が死ぬ。
それを、嘘で覆い隠して、経済を回すのか?
マイケル(串を回しながら、苦笑):
そうだよ。
死者は、必要経費。
補償金が出るから、家族は助かる。
それに、ニュースの視聴率が上がる。
株価が上がる。
みんな、間接的に儲かる。
勇者様が本気で魔王を倒したら……
その「間接的な儲け」が全部消える。
だから、みんなが、お前を止めたがるんだ。
ベルダ(焚き火に薪を追加し、炎が大きくなる):
俺はもう、戦う気はねぇよ。
護衛屋として、旅人を守るのが仕事だ。
でも、もしお前が魔王の城に辿り着いたら……上層部の暗殺部隊が動く。
真実に近づいた奴は、消される。
人間側にも、魔族側にも、そういう「掃除屋」がいる。
俺は、昔それを見たことがある。
仲間の一人が、魔王の真実に気づいて……翌日、行方不明になった。
クリード:
……消される?
マイケル(串から肉を外し、クリードに渡しながら):
そうだよ。
だから、俺たちは本気で言うんだ。
「魔王倒したら失業するぞ」
冗談じゃなく、警告だ。
お前が勝ったら、世界は変わる。
でも、変わった世界で、誰も生きていけないかもしれない。
焚き火の炎が揺れる。
三人はしばらく黙った。
風が木々を鳴らし、遠くでフクロウの声がする。
社会の空気は、重く、静かに、彼らの周りを包み込んでいた。
クリード(最後に、ゆっくりと):
……ありがとう。
俺は、まだ諦めない。
でも、みんなの言葉は、胸に刻む。
マイケル(笑って):
がんばれよ、勇者様。
俺たちは、いつまでも魔王を信じるよ。
信じていた方が、楽だからな。
ベルダ(薪をくべながら、ぼそりと):
そうだ。
誰も、望まない平和なんて、いらない。
炎がパチパチと音を立てる。
夜は深まり、
旅は続く。
勇者の心に、
新たな重みが加わった。




