城 8
そのままただただ日々は過ぎていき、ぼくとヤンは歳をとっていった。ラオ爺はもっとだった。あまり時間がないということは気がかりだった。そして、ぼくを駆り立てたのはラオ爺の年齢の問題もあったが、もう一つの理由のせいだった。
ぼくたちは色々なものを奪われていたがその一つは名前だった。ぼくの頭の中ではヤンでありラオ爺だが、実際にその名を口にすることは勿論禁止事項だった。ぼくたちは番号をつけられていてそれが呼び名とされていた。だけど数人、あだ名のような通称で呼ばれることが黙認されている人間がいて、後継者と呼ばれていた彼女がそうだった。
後継者は長官の娘という噂だった。確かに長官と似ていたし、城に来てからずっと幹部ルートを歩んでいた。ぼくたちは関係をもつことを徹底的に禁止されていて生殖ももちろんそうだった。政府は生殖と保育を完全にコントロールした。だから普通の庶民はどの子が我が子かの情報をもつことすら許されない。結婚という仕組みも家族の仕組みもなく、ただ男性は精子の提供をし、女性は指示された通り妊娠と出産を担い、生まれた子は保育施設で育てられた。だからほとんどの人間はどれが自分の子どもなのか知ることはできないし、ぼくの子もいるのかもしれないけどいるかいないかすらわからない。でも長官ともなれば特別なのだろう。ぼくはその後継者に惹きつけられた。城に来た初日から彼女に目を奪われた。もちろん恋ではない。彼女のどこか虚ろな目、諦めたような無表情は、ぼくを動揺させた。
ぼくはずっと彼女に近づく機会をうかがっていた。そして、ある時、ようやく彼女に近づいて渡すことができた。
「それは鍵だから」と。