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城 7

ヤンと再会したことはぼくに一つのアイデアをもたらした。ぼくはそのアイデアを一人でずっと考え続けていた。実現させる見込みも計画もないまま、いつも頭の片隅にそのアイデアを寝かせていた。そんなことが実現できたらどれだけ素晴らしいだろうと。ぼくは一人でクーデターを起こすことを夢想していた。


それがただの夢想でしかなかったのは、犯すリスクのわりに得るものが少ないからだった。アップルシードルは確かに一つの動機だった。仕事中にポツリポツリとラオ爺が語る昔話の中でぼくが最も惹かれたのは、りんごを漬け込んで作るアップルシードルの話だった。ラオ爺にとってもお気に入りの話で折に触れてその話題を出すのだ。語りながらその香りを、味を思い出すかのように、少し表情を緩めながら手順や味わいかたについて話すラオ爺が好きだった。だからぼくは確かに自由にアップルシードルを仕込み飲むことができる世界を熱望していた。今の何もかも制約があり怯えきった生き方にはうんざりしていた。そしてぼくとラオ爺はヤンによってプロテクトがなされていてある程度の行動をとっても「死の矢」が飛んでこないこともわかっていた。だからぼくはこっそりとアップルシードルを仕込むことを計画していた。いつどこで誰とどうやってするかを。


もちろん誰とかは確実だった。ラオ爺がいなければ始まらない。いつどこでどうやっては、幸せな妄想だった。無味無臭の日々の中の唯一の彩りだった。アップルシードルを仕込むという架空の計画がぼくの正気を保っていてくれた。


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