城 6
ヤンとぼくがその頃住んでいたエリアから居住エリアに強制的に移される少し前に彼女は姿を消した。ぼくたちは同世代で、彼女とヤンは政府の仕事に就いている管理職用の住居に住んでいて、ぼくの家はそこからやや離れたところにあった。ヤンは彼女とは幼馴染で、ぼくがヤンと付き合うようになる前から彼女と親しかった。
いつの間にか三人で過ごすことが多くなった。学校の中でもそのあたりから通う同世代は限られていたこともあるし、彼女はいつも少し浮いていたからヤンは自然と彼女をかばうようにあえて一緒にいるようなところがあったせいかもしれない。ヤンがいつもずっと喋っていて何事もリードするのはヤン、ぼくと彼女はヤンの気まぐれにつきあい、振り回され、そしてそれを楽しんでいた。学校ではいつも無表情な彼女は、三人になるとよく笑う普通の女の子だった。ぼくは、無表情でいようとする意志をもった彼女も、リラックスした自然体の彼女もどちらも好きだったしその両方を見ていることが好きだった。漠然と、ずっといつまでも続くと思っていたぼくたちの関係は、まず彼女がいなくなり、そしてヤンもぼくも移住させられて途切れ、急に絶たれてしまったことで、ぼくの中では気持ちの中の澱のように、思い出したいようで思い出したくない記憶となっていて、ふと思い出すとあえて首を振ってそれを追いやっていた。