城 4
ラオ爺は政府機関が入っている通称「城」という建物の管理人で、この「城」は堅牢なもののはるか昔の建造物で迷宮めいた複雑なつくりのため、全てを知り尽くしているのはラオ爺しかいないと言われていた。つながりを作ることを防止するかのように業務は次々と変えられるのが普通だったが、いくつかの業務にはこの人でなければ支障が出るという性質のものもあり、「城」の管理人もその一つだった。ただし助手についてはその限りではないらしく、偏屈なラオ爺の相手は務まらないのか助手は次々に変わっていて、この度白羽の矢がぼくにたったというわけだ。
ラオ爺とぼくの波長があったのはひとえに彼が祖父と似た人種だったおかげだろう。彼らには自分のペースがありそれを乱されることを好まない。彼らの呼吸にあわせ、こちらから性急に答えを求めなければ、やるべきことは示してくれる。それを待てばいい。ぼくは幼い頃から祖父が大好だった。ラオ爺はぼくにそのことを思い出させてくれたし、もしかしたらラオ爺にとってもぼくは誰かを思い出させる存在だったのかもしれない。それからぼくらはずっと城の管理人を勤めることになった。
城は不思議な建造物だった。有機物ではと疑うくらいムラッ気があり日によって違う顔をみせた。ある日は機嫌がよくすべての扉は簡単に開き、迷うこともなく目的の部屋にたどり着くが、ある日は扉という扉が容易には開かず経験を積んだぼくですら無理でラオ爺に頼らなければ開くことが出来なかった。時に悪夢のような迷宮と化すこの建物をなぜ政府が使用し続けているかと言えば、今はもうこんな建造物をたてる技術も資材もないからなのだろう。あちこちに古い資材が貯めこまれている部屋があり、この倉庫の管理や必要な資材を探し出すことも管理人の重要な仕事の一つだった。そして、城の管理人になってしばらくして、ぼくは城の地下の一室に、禁制のものがひっそりと残されていることを知った。ラオ爺はそれが残されていることを報告しなかったのだろう。だけどこの部屋の扉は特に癖が強く開けるのは容易ではないから、誰も見つけることもなく、ただずっとそこにあり続けている。