城 2
ところが反発はいつしか沈静化した。大人たちは突然黙り込むようになった。あれほど怒っていた彼らは急に静かになり表情から生気が消えていくのが手に取るように感じられた。その沈黙は伝染病のように静かに確実に広がっていき、新たな規則が生活にどんな変化をもたらすものであろうと怒りの声を聞くことはなくなっていた。
その代わり、人が少しずつ消えていった。連行や暗殺、急死の噂がひそひそと囁かれた。それすら声高には語られず、大人たちの表情や口調から、何かとてもよくないことが起こっているのだと察するだけだった。
急死は「死の矢」によるものだと囁かれるようになった。けして公にではなく密やかに。家庭内ですら不必要な会話を禁じるとの規則が定められたことでぼくたちの世界は一変した。何が起きようとしているのかほとんど誰も把握できていないまま、学校などの集団で活動する場も次々と閉鎖され、学習はリモートとなりそしてそれすら禁じられていった。情報を入手する手段が失われ、学ぶことが禁じられ、家庭から書物を提出し破棄することが義務づけられた。そして今までは黙認されていた支給の栄養剤以外の飲食も、栽培も生産も狩猟も採集も全て禁じられた。監視システムを使って規則違反をチェックすることが公表され、もはや誰も危険を犯そうとはしなくなった。いつ「死の矢」が飛んでくるかとみなが怯えていた。この流れは今思い出しても驚くほど、あっという間の出来事だった。急にぼくたちの日常や家族とのごく普通の暮らしが、決して戻ることのない過去に変えられてしまい、それを嘆くことすら危険だった。