第0話 勇者死亡
勇者は死んだ。
魔王と相打ちになって死んだ。
「ああ、勇者様! 我らをお救いになり、この世に再び平和を取り戻して下さった尊き御方!」
――突如、魔王は周辺国へ宣戦布告。
魔王は魔物と呼ばれる変異動物を使役し、クラナダ王国を始めとする国々に多大な被害を与えた。
戦争開始から一年の間は次々と襲い掛かって来る魔物に圧倒されていたものの、その後は巻き返しが始まった。
クラナダ王国から聖剣を扱うことができる勇者が誕生したからだ。
勇者は自国と同盟国の支援を受けながら、仲間達と共に闇の霧で覆われる魔王国へと突入。
突入から三ヵ月後、遂に魔王討伐の報がクラナダ王国に飛び込んで来た。
そして、討伐の報告と同時に勇者が魔王と相打ちとなって死亡したことも彼の仲間達から告げられる。
各国の王族、貴族、共に戦った騎士達、そして国民の悲しみは大きい。
平和を取り戻すための犠牲は大きかった、と誰もが嘆いた。
「気高き魂よ! 勇なる魂よ! どうか安らかに眠りたまえ!」
聖ハウセル教会の聖女――勇者の仲間の一人であった聖女リジュが棺桶に向けて祈りを捧げた。
彼女が棺桶の前に跪くと、同じく葬儀に参列していた各国の王、勇者の仲間達、遠巻きに参加する一般人達も跪きながら祈りを捧げる。
その中には勇者の親友でもあった、クラナダ王国の若き王――バーニ・クラナダの姿もあった。
「……バーニ様。最後のお別れを」
聖女リジュが促すと、バーニは立ち上がって棺桶へと近付いて行く。
その道中、年老いた聖職者が彼に『剣』を差し出した。
聖剣ヨルムンガンド。
生前の勇者が愛用していた剣だ。
剣は刀身の半ばで折れており、魔王との激闘を物語っていた。
「友よ、感謝する。僕達を救ってくれて……。ありがとう」
バーニは棺桶の上に聖剣ヨルムンガンドを置き、その場で祈りを捧げる。
「どうか安らかに眠っておくれ」
――勇者は死んだ。
この世界を救った勇者はもういない。
御伽噺や英雄譚に登場するような正義の味方はどこにもいない。
いるのは、問答無用で悪を地獄へ堕とす悪だけ。
明日からはストック分が無くなるまで毎日夜に投稿します。