異世界へ。
異世界と言えばトラック。こういう使い方が有るとは思いませんでした!(笑)
異世界への転生
## 第五部:予期せぬ脱出
それは突然のことだった。
山田が木目調の部屋で瞑想していると、施設全体に響き渡る警報音が鳴り響いた。
「緊急事態発生。全スタッフはプロトコルZEROに従って行動してください。繰り返します...」
廊下を走る足音、叫び声。森本が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「山田さん!何が起きているのか...」
森本の言葉は途中で途切れた。施設中の電子ロックシステムが一斉に解除される音が響く。
「システム全体がリセットされています。これは...」
山田の頭に閃きがあった。彼が木々とつながったとき、無意識のうちに施設のシステムにもアクセスしていたのかもしれない。彼の能力が施設のセキュリティを突破したのだ。
「行きましょう」山田は決断した。
「どこへ?」
「外へ」
二人は混乱に乗じて施設を抜け出した。研究員たちは各自の持ち場で緊急プロトコルに従って動いており、彼らに注意を払う者はいなかった。
外に出ると、驚くほど普通の風景が広がっていた。施設は郊外の森の中にあるようだ。そして駐車場には何台かの車両が停まっていて、その中に一台の配送トラックがあった。
「あのトラックで」山田は直感的に言った。
森本は躊躇した。「でも...」
「何かが私を導いている。行くべき場所があるんです」
二人はトラックに乗り込んだ。鍵がついたままだった。山田がエンジンをかけると、突然めまいに襲われた。視界が歪み、色彩が渦を巻き始める。
「山田さん?」森本の声が遠くなる。
トラックは林道を進み、山を下りていく。しかし山田の意識はどんどん遠のいていった。最後に見たのは、道路脇の奇妙な光の渦だった。
「これは...」
トラックがその光に飲み込まれたとき、山田の意識は完全に途切れた。
## 異世界「クロマティカ」
山田が目を覚ましたとき、そこはもう現実世界ではなかった。
空は七色に輝き、植物は鮮やかな色彩を放っている。道は虹色の石畳で、遠くには色とりどりの塔がそびえ立つ町が見える。
「ここは...どこだ?」
「アナタが目覚めたわね」
振り向くと、青い髪の少女が立っていた。不思議なことに、その姿は研究員の青山にどこか似ている。
「私はアオヤマ。この近くの色彩術師よ」
「色彩術師?」
「クロマティカの世界では、色を操る力が最も尊ばれるの。あなたは異世界からの訪問者ね?」
山田は混乱していた。「僕は山田。どうしてここに...」
「光の渦に飲み込まれたのでしょう。時々そういうことが起こるわ。この世界と異世界の境界が薄くなるときに」
アオヤマは山田を町へと案内した。「クロマシティ」と呼ばれるその町は、色ごとに区画が分かれていた。白い建物が並ぶ白区画、黄色い家々が建ち並ぶ黄区画、そして赤く輝く赤区画。さらに様々な色の区画が広がっている。
「まるで研究施設の...」山田は思わずつぶやいた。
「何か言った?」
「いや、なんでもない」
アオヤマの家は青区画にあった。彼女は山田に状況を説明した。
「クロマティカでは、人々は生まれながらに特定の色の力を持つわ。私は青の力を操る。青は知性と冷静さ、そして癒しの色」
「では、この世界の他の色は?」
「白は純粋と論理、黄は予知と直感、赤は情熱と危険を感知する力を持つわ。他にも多くの色があり、それぞれ異なる能力を宿している」
山田は驚いた。まるで自分が経験した実験のようだ。
その夜、山田は窓から町を眺めていた。するとアオヤマが近づいてきた。
「あなたの瞳の色が変わっているわ」
「え?」
「最初は普通の茶色だったけど、今は七色に輝いている。もしかして...あなたは全ての色の力を持っているのかもしれない」
次の日、山田はアオヤマに連れられて「クロマの塔」を訪れた。そこでは色彩の長「クロマスター」が彼を待っていた。
「よく来たな、異世界からの客人よ」
クロマスターは白髪の老人だったが、その姿は赤坂に似ていた。
「我々はあなたのような存在を長い間待っていた。全ての色を持つ者を」
山田は尋ねた。「なぜ僕がここに?」
クロマスターは窓から外を指さした。町の向こう、地平線には黒い雲が渦巻いている。
「『色喰らい』が我々の世界を蝕んでいる。色のない虚無が迫っているのだ。伝説によれば、全ての色を操る者だけが、この危機を救えるという」
山田は思った。この世界は自分の潜在意識が生み出したものなのか?それとも本当に別の世界なのか?どちらにせよ、現実世界での実験で目覚めた能力が、ここでは救世主としての役割を担うようだ。
「でも、どうやって色喰らいと戦えばいいのでしょう?」
「まずは自分の中の力を解放する必要がある」クロマスターは言った。「各区画で修行を積み、色の力を完全に覚醒させるのだ! 悪いが、おぬしと世界を少しだけロールバックするぞ。この先、似たような現象を経験するかもしれんが…、なに、おまえさんの力に必要なもんじゃよ」
山田は、現実世界の記憶が徐々に薄れていっていることに気づいた。このままではこの世界に埋没してしまう。この先の厳しい修行に耐える。そう心に決めた。
(つづく)
まあ、いわゆる異世界ものという奴です。これも前章で研究員が「もう色は必要ない」という発言を受けて、急遽ストーリーの流れを変更した結果ですけれど(ひでーな)