虹色の絆が結ぶカフェの午後【第三部】
カードゲーム『虹色の絆:レインボークエスト』のルールは次のエピソードに投稿します。
# 虹色の絆が結ぶカフェの午後
「いらっしゃいませ」
波多野二丁目の小さなベーカリーカフェ「パンとコーヒーと」の二階から、優しい挨拶が響いた。店主の三島麻衣は、カウンター越しに入ってきた二人の男性に微笑みかけた。
「こんにちは、三島さん。お店、いつ来ても良い香りですね」
「高橋さん、こんにちは。佐藤さんも、いらっしゃい」
波多野三丁目のボードゲームカフェ「木漏れ日と魔王の日々」の店長・高橋誠と、常連客でありTRPG『虹色の絆』の魔王役ベテラン・佐藤昇が並んで立っていた。
「今日はアポイントメント通り、空きスペースの活用について相談に来たんだ」高橋が言った。
麻衣は二人を窓際の4人掛けテーブルへ案内した。カフェの二階は20席あるものの、平日はこのように8席ほど空きがちだった。窓から差し込む午後の陽光が、テーブルの上で輝いている。
「コーヒーとクロワッサン、お持ちします」
麻衣がカウンターに戻る間、高橋と佐藤は周囲を見渡した。
「いいスペースだよね。でも平日の昼間は客足が少ないのか」佐藤が言った。
「麻衣さんから相談されてね。この空間をもっと有効活用できないかって」
麻衣がコーヒーとクロワッサンを持ってきた。焼きたてのパンの香りが漂う。
「三島さん、このスペースの週末以外の活用法について考えていたんだけど」高橋が切り出した。「たとえば、うちのボードゲームカフェとのコラボはどうかな?」
「コラボ?」麻衣は興味を示した。
「そう。ここを平日限定で簡易的なボードゲームスペースにする。うちのカフェから何種類かゲームを提供して、お客さんが自由に遊べるようにするんだ」
「でも、私はボードゲームに詳しくなくて...」麻衣は少し不安そうに言った。
この時、注文を受けたベルが鳴った。
「あ、すみません。一階からパンが上がってきたみたい」
麻衣は慌てて階段を降りていった。
「接客、レジ、飲み物、それにパンの補充と、一人でこなすのは大変そうだな」佐藤が言った。
「だからこそ、手がかからないシステムを考えたいんだ」
麻衣がいくつかのパンを抱えて戻ってきた。それをショーケースに並べながら言った。
「本当に忙しくて、お客さんがゲームで困っていても、すぐに対応できないかもしれないんです」
佐藤は黙って考え込んでいたが、ふと思いついたように鞄を開けた。
「あ、そういえば今日、サンプルを持ってきてるんだ」
取り出したのは、カラフルなイラストが描かれた箱。
「これは『虹色の絆:レインボークエスト』。オンラインゲームの『虹色の絆』をベースにしたカードゲームなんだ。ルールも比較的シンプルで、初心者でも楽しめる」
高橋が頷いた。「なるほど!これならカードを並べるだけのスペースで十分だし、複雑な準備も要らない」
「よかったら、実際にプレイしてみませんか?」佐藤が麻衣に微笑みかけた。
「で、でも私、ゲームは苦手で...」
「大丈夫、難しくないから」
* * *
三人はテーブルを囲み、佐藤がカードを広げていった。
「まず、これが戦士カード。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色があって、それぞれ特殊能力があるんだ」
「きれいな色ですね」麻衣は赤い戦士カードを手に取った。赤い鎧に身を包んだ勇ましい戦士のイラストが描かれている。
「次に武器カード、防具カード...」佐藤が説明を続ける間、カウンターからまたベルが鳴った。
「あ、すみません」麻衣は立ち上がった。
新しく入ってきたお客さんに対応している間、高橋と佐藤はゲームの準備を続けた。
「職業カードは三種類。シーフ、クレリック、手品師...」
麻衣が戻ってきた時には、テーブルにはカラフルなカードが並んでいた。
「すみません、お待たせして」
「いいよ、いつものことでしょ」高橋が優しく言った。「これがこのカフェの日常なんだから、それを踏まえた提案にしないとね」
「では、簡単にルールを説明するね」佐藤が言った。「プレイヤーは虹色の戦士となって、最終的に魔王に挑むんだ。道中で様々な敵と戦いながら、仲間を集めていく...」
説明しながら、佐藤は麻衣が店の仕事で中断する可能性を考慮して、要点を絞っていた。
「このゲームの特徴は、いつでも中断して、また同じところから再開できること。カードの配置状況を写真に撮っておけば、次の機会に続きから始められるんだ」
「それなら、お客さんが来ても大丈夫ですね」麻衣は少し安心した様子で言った。
「さあ、では実際にプレイしてみましょう。まずは各プレイヤーに戦士カードを1枚...」
ちょうどその時、またベルが鳴った。
「すみません、また...」
麻衣が席を立つと、高橋が佐藤に小声で言った。
「やっぱりゲームはハードルが高いかもね。彼女には時間的余裕がない」
佐藤は考え込みながら、手元のカードを見つめていた。「でも、工夫次第では...」
* * *
麻衣が戻ってきた時、佐藤は何かひらめいたように明るい表情をしていた。
「三島さん、僕たちがやりたいのは、あなたの店の価値を高めることなんだ。ボードゲームの知識がなくても、時間がなくても、できることがあると思う」
「どういうことですか?」
「例えば、このレインボークエストのカードを、カフェのポイントカードシステムと連動させるのはどうだろう?」
「ポイントカード?」
「そう。お客さんが来店するたびにポイントが貯まり、そのポイントで虹色の戦士カードを1枚もらえる。7色集めると何か特典がある...というようなシステムにする」
高橋が目を輝かせた。「いいね!さらに、このカフェ限定の『パン職人』という職業カードを作るとか」
「それから、週末にはうちのスタッフが来て、本格的なレインボークエストの体験会を開催する」佐藤が続けた。「そうすれば平日はポイントカードとして、週末は本格的なゲームスペースとして活用できる」
麻衣は二人の提案に、少しずつ興味を示し始めた。
「でも、そんな特別なカードを作るのは大変では...」
「それは心配ないよ」高橋が笑った。「佐藤はイラストレーターでもあるからね。オリジナルカードのデザインなら任せられるよ」
「え、そうだったんですか?」麻衣は佐藤を見直すように見た。
佐藤は少し照れながら頷いた。「趣味程度ですけどね。『虹色の絆』の同人誌も描いているんです」
「それじゃあ、試しに一枚描いてみてもらえますか?」麻衣は初めて積極的な様子を見せた。
佐藤は鞄からスケッチブックを取り出し、ペンを走らせ始めた。高橋と麻衣が見守る中、ペンは紙の上を踊るように動いていく。
「これはどうでしょう?」
数分後、佐藤が見せたのは、エプロン姿の女性キャラクターが焼きたてのパンと小さな盾を持っている絵だった。「パン職人は回復力が高くて、味方全員にHPを回復させる能力があります」
「素敵...」麻衣はその絵に見入った。
「裏面は、このお店のロゴとポイント欄にすれば、ポイントカードとしても使えるよ」高橋が提案した。
「実は、『虹色の絆』の新拡張セットのテーマが『日常の英雄』なんだ」佐藤が言った。「パン職人はぴったりのテーマだよ。公式に提案してもいいかも」
三人は盛り上がりながら、カフェとゲームを融合させる様々なアイデアを出し合った。
* * *
一時間後、麻衣のカフェでは「虹色の絆:パン職人の秘密」という名のポイントカードシステムを導入することが決まった。お客さんは来店するごとにポイントを貯め、カードを集められる。7色すべて集めると、特製のパンセットがもらえる特典もつけることにした。
「これなら私も管理できそうです」麻衣は嬉しそうに言った。「ゲームのルールをすべて覚えなくても、基本的なことだけ知っていればいいんですね」
「そう、難しいことは週末に僕らがサポートするから」高橋が言った。
佐藤は描き上げたカードデザインを見ながら言った。「来週には試作品を持ってくるよ。それから、よかったら週末の『虹色の絆』のセッションにも参加してみない?魔王の背後にいる真の支配者、『パン職人』の設定も考えてみたいな」
三人は笑い合った。窓から差し込む夕暮れの光が、テーブルに広がるカードたちを虹色に輝かせていた。
パンの香りと、新たな冒険の予感が、波多野二丁目のベーカリーカフェを包み込んでいた。
* * *
数週間後、「パンとコーヒーと」の二階は平日でも客足が絶えなくなっていた。テーブルでは親子連れがレインボークエストのカードを広げ、学生たちはポイントカードを見せ合っている。カウンターでは麻衣が、赤い戦士カードを模したエプロンを着けながら、コーヒーを淹れていた。
「三島さん、このカードあと一枚で全色集まるんです!」常連客の女子高生が嬉しそうに言った。
「あら、おめでとう。藍色が足りないのね。がんばって集めてね」
麻衣はコーヒーを差し出しながら、ふと窓の外を見た。あちらの通りを歩いている高橋と佐藤が見える。二人は手を振り、麻衣も笑顔で応えた。
虹色の絆は、確かにこの街に新しい色を加えていた。
(終)
※まあ、ところどころ虹色の絆がオンラインゲームだったりTRPGだったりしてますが




