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《累計3000PV突破》【連載AI小説】『色喰らいから始まる虹色の絆:魔王討伐伝の物語。佐藤魔王と高橋店長。ときどき山田』《完結しました》  作者: スイッチくん@AI作家
第一章 波多野町の人々

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黄色。

「白い壁の部屋」より続く。

# 黄色い部屋

…今回は結構長めの内容になっております。


「私たちの組織は『クロマティックス』と呼ばれています。色彩の研究と人間の知覚能力の関係について研究しています」


白衣の女性研究員・青山が説明する声を聞きながら、山田は廊下を歩いていた。純白の研究室を出てから、彼らは異様なほど長い廊下を進んでいた。壁も床も天井も、全てが灰色だった。


「先ほどの白い部屋でのテストは、あなたの論理的思考能力と直感力を測るためのものでした。合格者は百人に一人もいません」


「なぜ私が...?」


「あなたの日常生活のパターン、決断の仕方、問題解決能力が、私たちの求める条件に合致していたからです」


山田は不安と好奇心が入り混じった気持ちでいた。朝起きれば元の生活に戻れると思っていたが、事態はそう単純ではないようだ。


「これから参加していただくプロジェクトについて説明します」


青山はIDカードを取り出し、廊下の終わりにあるドアにかざした。ドアが開き、その先に現れたのは——


鮮やかな黄色い部屋だった。


壁も床も家具も、全てが黄色に統一されていた。部屋の中央には黄色いテーブルがあり、その上には黄色いノートパソコンが置かれている。部屋の隅には黄色いソファ、黄色いランプ、黄色い本棚があった。本棚には黄色い背表紙の本が整然と並んでいる。


「ここが今日からあなたの作業部屋になります」


青山が言った。山田は黄色い空間に圧倒されていた。


「なぜ全てが黄色なんですか?」


「それがこのプロジェクトの一部です。『色彩環境における認知機能の変化』を研究しています。あなたには一週間この部屋で過ごしていただきます」


山田は眉をひそめた。「一週間...ですか?」


「はい。日常的なタスクをこなしながら、定期的に認知テストを受けていただきます。もちろん、報酬はお支払いします」


青山は黄色いクリップボードから書類を取り出した。契約書だった。


「これに署名していただければ、正式にプロジェクトメンバーとなります」


山田は躊躇した。しかし、好奇心と高額な報酬額(契約書に記載されていた)に惹かれ、署名した。


「ではこれからオリエンテーションを始めます」


青山は黄色いリモコンを手に取り、壁に向けた。壁の一部がスクリーンに変わり、プレゼンテーションが始まった。


そこには「Project Sunrise」という文字が輝いていた。


オリエンテーションでわかったことは、この黄色い部屋での実験は「Project Sunrise」の第二段階であること。第一段階は白い部屋での被験者選別だったこと。そして、この実験が単なる色彩心理学の研究ではなく、もっと深い目的を持っていることだった。


「人間の知覚は、環境によって大きく変化します。特定の色に長時間さらされることで、脳内では特殊な神経回路が活性化します」


青山の説明を聞きながら、山田は部屋を見回した。視界全体が黄色に染まり、既に少し目が疲れ始めていた。


説明が終わると、青山は出ていった。ドアが閉まり、山田は黄色い部屋に一人取り残された。


テーブルの上のノートパソコンには付箋が貼られていた。「初日のタスク」と書かれている。


山田はパソコンを開いた。画面も黄色い背景だった。目に優しい設定なのだろうか、それとも実験の一環なのだろうか。


最初のタスクは簡単なデータ入力だった。表示される数字やアルファベットを正確に入力していくという単調な作業。山田は黙々とこなしていった。


2時間ほど経過したころ、部屋の壁にある小さな引き出しから、昼食が出てきた。黄色いトレイに乗った食事——オムレツ、コーンスープ、レモンゼリー。全て黄色い食べ物だった。


「徹底してるな...」


山田は苦笑しながら食事を取った。不思議なことに、単調な黄色い環境に囲まれていると、黄色い食べ物の方が美味しく感じられた。


食後、再びタスクに取り組む。今度は単語の記憶テスト。表示される単語を覚え、後で再現するという課題だ。


「蜂」「レモン」「カナリア」「タンポポ」「バナナ」「ひまわり」...


全て黄色いものを表す単語だった。


日が暮れると(壁の一部が窓になっていて外の様子がわかる)、部屋の照明が自動的に暗くなった。しかし、黄色い光は依然として部屋を包んでいた。


ベッドも黄色いシーツとブランケットが用意されていた。山田は疲れた体を横たえ、天井を見上げた。天井には小さな星型のシールが貼られていて、暗闇で淡い黄色に光っていた。


「まるで子供の頃みたいだ...」


実家の天井にも同じような蓄光シールを貼っていたことを思い出した。懐かしさと共に眠りに落ちていく。


その夜、山田は奇妙な夢を見た。


広大な菜の花畑を歩いている。空には黄色い風船が浮かび、遠くには黄色いタンクローリーが止まっている。畑の中には一つの小屋があり、そこから黄色い煙が立ち昇っていた。


小屋に近づくと、中から卵の殻が割れる音が聞こえた。ドアを開けると、そこには大きなヒヨコが一匹。人間の大きさほどもあるそのヒヨコは、山田を見るとにっこりと笑った。


「ついに来たね、仲間が」


ヒヨコが人間の言葉で話した。


「君は何者だ?」と山田は尋ねた。


「僕は君の中にある直感、閃き、創造性の象徴さ。クロマティックスはそれを引き出そうとしている」


「なぜ?」


「それは明日、わかる...」


目が覚めると、朝日が部屋に差し込んでいた。黄色いカーテン越しに入る光で、部屋はさらに黄金色に輝いていた。


山田はベッドから起き上がり、昨夜の夢を思い出した。妙に鮮明な夢だった。通常なら直ぐに忘れてしまうはずなのに、細部まで覚えている。


朝食も黄色かった——スクランブルエッグ、パイナップルジュース、バナナ。


食事を終えると、部屋のスピーカーから青山の声が流れた。


「おはようございます、山田さん。今日のタスクはノートパソコンに表示されています。また、実験の一環として、部屋の隅にある黄色いスケッチブックに、思いついたことや感じたことを絵や文章で自由に表現してください」


山田はスケッチブックを手に取った。黄色いページには何も書かれていない。黄色いペンが添えられていた。


「絵を描くなんて、小学校以来だな...」


しかし、ペンを持つと不思議と手が動き出した。昨夜の夢で見たヒヨコ、菜の花畑、黄色いタンクローリー...それらを無意識のうちに描いていた。


描き終えると、そのページの裏に「Project Sunrise」と書いた。なぜそんなことをしたのか自分でもわからなかった。


その日も単調なタスクが続いた。しかし、黄色い環境に慣れてきたせいか、集中力が増していることに気づいた。データ入力の速度は昨日より20%速くなっていた。


午後のテストでは、パターン認識の課題が出された。複雑な図形の中から特定のパターンを見つけ出す問題だ。


普段なら苦手なはずのこのテスト、不思議と答えがすぐに浮かんでくる。まるで図形たちが「ここだよ」と語りかけてくるかのように。


日が暮れる頃、青山が部屋を訪れた。


「素晴らしい成績です、山田さん。特にパターン認識テストの結果は、過去最高記録です」


山田は首をかしげた。「僕はいつも図形問題は苦手なんですが...」


「それが興味深いところです」青山は黄色いタブレットを操作しながら言った。「黄色い環境は、右脳の創造性と直感力を刺激します。あなたの場合、その効果が顕著に表れています」


山田はスケッチブックのことを思い出した。「描いた絵や文章も実験データになるんですか?」


青山は微笑んだ。「そうです。特に無意識に描かれたものには、興味深いパターンが現れます」


彼女はスケッチブックを手に取り、ページをめくった。山田が描いたヒヨコの絵を見て、少し表情を変えた。


「これは...興味深いですね」


「何がですか?」


「このヒヨコのパターン、以前別の被験者も描いたことがあります。しかも同じようなサイズで」


山田は夢のことを話した。青山は熱心にメモを取っていた。


「集合的無意識の現れかもしれません。黄色い環境が特定のイメージを喚起するのでしょう」


彼女が帰った後、山田は再び黄色いスケッチブックを開いた。今度は意識的に何か書こうとしたが、ペンが動かない。無意識に描いた時のような流れるような感覚がない。


「強制するものではないのかもしれない...」


その夜、再び夢を見た。今度は黄色いタンクローリーの中にいた。タンクには液体ではなく、光が満ちている。まるで太陽の一部を閉じ込めたかのようだ。


山田はタンクローリーを運転していた。目的地は知らないが、道はわかっていた。ひたすら真っ直ぐな道を進む。


遠くに見えてきたのは、巨大な建物。クロマティックスの本部らしい。


建物に近づくと、そこには大きな卵型のドームがあった。タンクローリーはそのドームに向かって進んでいく。


しかし到達する前に目が覚めた。


三日目。


山田は黄色い環境にすっかり馴染んでいた。もはや違和感はない。むしろ、この色に包まれていることで心地よさを感じるようになっていた。


この日のタスクは創造性テスト。与えられた物体の新しい使い方を考えるというものだ。


「レモン」の新しい使い方。

「電球」の新しい使い方。

「鍵」の新しい使い方。


山田は次々とアイデアを書き出していく。普段なら数個しか思いつかないのに、今日は一つの物に対して十個以上のアイデアが浮かんだ。


昼食時、青山ではなく、別の研究員が訪れた。年配の男性で、名札には「黄木」と書かれていた。


「進捗は順調ですね、山田さん」黄木は山田の結果をタブレットで確認しながら言った。「あなたは本当に適性があります」


「適性とは?」


「『クロマ感応』です。色彩によって脳の特定部位が活性化する現象です。黄色は特に創造性と直感に影響を与えます」


山田は考えた。「それで...このプロジェクトの目的は?」


黄木は少し躊躇してから答えた。「人間の潜在能力を最大限に引き出すことです。色彩環境を操作することで、脳の使われていない部分を活性化させる」


「そのためだけに、こんな大掛かりな実験を?」


黄木は答えなかった。代わりに、山田のスケッチブックを見たいと言った。


最新のページには、山田が無意識のうちに描いた黄色いタンクローリーと卵型のドームがあった。黄木はそれを見て、顔色を変えた。


「これは...」


「夢で見たものです」と山田は答えた。


黄木は急いで部屋を出て行った。何かがおかしい。


四日目、五日目と過ぎていく。


タスクの難易度は増していったが、山田の成績は向上し続けた。特に、パターン認識と創造的問題解決の能力は飛躍的に高まっていた。


五日目の夜、山田は再びヒヨコの夢を見た。今度は小屋の中で、ヒヨコと会話をしていた。


「もうすぐだよ」とヒヨコは言った。


「何がもうすぐなんだ?」


「卵が割れる時さ。あなたの中の卵が」


「僕の中の...卵?」


「そう、本当の力が目覚める時さ。でも気をつけて。彼らはその力を欲しがっている」


目が覚めると、山田の頭には奇妙な図形が浮かんでいた。五角形の中に円が描かれ、その中に無数の点が散りばめられている。意味はわからないが、とても重要な何かに思えた。


六日目の朝、青山が部屋に入ってきた。彼女の表情は硬かった。


「山田さん、今日からタスクが変わります。これまでよりも...特殊なテストです」


彼女はタブレットを操作し、壁にスクリーンを表示させた。そこには複雑な数式と図形のパターンが現れた。


「これは何ですか?」


「暗号解読テストです。このパターンの中に隠されたメッセージを見つけてください」


山田は画面を見つめた。初めは意味不明に思えたが、じっとしていると、パターンが動き出したように感じた。線と点が結びつき、新たな形を作る。


無意識のうちに、山田は答えを書き始めていた。


「イエローコード・アクティベート・サンライズプロトコル」


青山は息を呑んだ。「どうしてこれがわかるのですか?」


山田自身もわからなかった。ただ、パターンを見ていると自然と言葉が浮かんできたのだ。


「これは...実験ではないですね?」山田は静かに尋ねた。


青山は長い沈黙の後、頷いた。


「プロジェクト・サンライズの真の目的は、特殊な知覚能力を持つ人間を見つけ出し、開発することです。黄色い環境は単なる実験ではなく、あなたの中に眠る能力を目覚めさせるトリガーなのです」


「どんな能力ですか?」


「パターン認識を超えた、未来予知に近い直感力です。あなたが夢で見たタンクローリーや卵型ドームは、実際に存在します。私たちの秘密施設です」


山田は自分のスケッチブックを見た。そこには確かに、見たこともない施設が描かれていた。


「なぜ私が選ばれたのですか?」


「あなたの遺伝子には、クロマ感応の素質があります。白い部屋でのテストは、その素質を確認するためのものでした」


部屋のスピーカーから、突然アラームが鳴り響いた。青山は慌てた様子で立ち上がった。


「何かが起きています。ここにいてください」


彼女は急いで部屋を出て行った。ドアが閉まる前、廊下では研究員たちが慌しく動き回っている様子が見えた。


一人取り残された山田は、窓の外を見た。施設の敷地内に、黄色いタンクローリーが停まっているのが見えた。夢で見たものと全く同じだ。


「これは偶然じゃない...」


山田はスケッチブックを開き、これまで描いた絵を見直した。ヒヨコ、菜の花畑、タンクローリー、卵型ドーム...そして最後のページには、まだ見ぬ景色が描かれていた。


大きな爆発の様子だった。


(つづく)

2025-04-24 1533

投稿ミスによりエピソードが繋がっておりませんでした。その為、同一内容で再投稿しております。ご了承下さいませ

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― 新着の感想 ―
 ははは、さすがは黄色い部屋、危険注意はお約束。  次が赤い部屋でないことを祈りたいです。
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