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第一章 貴族転生 - 002

 かつて、デミゴッド達が互いに戦いを始めた。


 それはエンデ・クリークと呼ばれることとなる。


 エンデ・クリークに巻き込まれ、世界は壊れた。


 壊れた世界に壊れた人やモンスター、そしてあまりに強大な力を持ったデミゴット達が壊れた世界を支配している。


 つまりだ、俺がいるのはエンデ・クリークが引き起こされる前の、王都フォルンベルクということになる。


 廃墟になる前は、思ったほど奇抜な世界ではなかったようだ。


 ただ、それでもここがグローセ・ヴェルトであることには違いない。


 まごうことなき死にゲーである。


 いずれかならず、エンデ・クリークが引き起こされる。


 いつになるのかは分からない。そんな記録が残っているほど、甘い世界ではなかった。


 そもそも、何がきっかけとなり、エンデ・クリークへと繋がるのかすら分かっていないのだ。


 最悪、今この瞬間にすら起こっても不思議ではない。


 ならば、俺が取るべき行動は一つ。


 力を付ける。


 ステータスを上げるのは当然だが、リアルとなったこの世界での戦いを学習する必要がある。


 まだ三歳だが、そんなのは言い訳にならない。


 貴族だろうと、市民だろうと、子供だろうと、死は平等にやってくる。


 理不尽だからというのは、死に対してなんの言い訳にもならない。


 グローセ・ヴェルトに死はありふれている。


 少しの油断が死に直結する。


 とても、死がありふれた世界。それがグローセ・ヴェルト。


 だから、強くなる必要がある。


 戦い方を学ぶ必要がある。


 誰にも負けないために。


 幸いにも、俺にはグローセ・ヴェルトに関する、少なくない知識がある。


 今現在は、それが俺の武器だ。


 それでも、一瞬の油断で死んでしまう世界であるということだけは常に意識しておかなくてはならない。


 なので、俺は母であるマリーにお願いする。


 リビングフロアにいるマリーは、ソファに座って紅茶を飲みながら、菓子を摘まんでいる。


 それなりの年齢のはずだが、若く美しく見えるのは、それなりに努力しているのだろう。


 まったく興味ないが。


 俺が近づいていくと、笑顔になって抱き上げようとする。


 俺はその手をさり気なく交わすと、悲しそうな顔をした。


 俺は気づかないふりをしながら、話しかける。


「ははうえ、けんのけいこがしたいです」


 年齢のせいで若干回らない口で、お願いする。


「だめよ、ラーズちゃん。けがしちゃうかも知れないでしょ? 剣のおけいこなんて、ラーズちゃんがしちゃだめよ。それより、こっちに来なさい。ママがだっこしてあげる」


 マリーは両手を広げて手招きしている。


 俺のお願いは、にべもなく却下された。まぁ、これは想定の範囲内だ。


 ようするに、ここからだ。


「しゅたいんと、あそびたいのです」


 俺は少し話をそらす。


 シュタインというのは、ダールベルク家に仕える筆頭騎士である。


「うーん、そうねぇ。ラーズちゃんのお願いならしかたないわねぇ」


 どうやら、三歳ということで、遊びも稽古も区別がついていないと思われたらしい。


 まぁ、そうなるように仕組んだんだからそうなんだが。


 マリーは、背後に控えていたメイドに、右手を軽く上げて合図をする。


 すると、すぐにメイドが近づいてくる。


「すぐに、シュタインを呼んで来なさい」


 メイドの方を見もせずに、冷たい声で命令する。


 俺に対するのとは雲泥の差である。


 こういうのを見ながら育つと、立派なクソ貴族になるんだろうな。


 などと考えていると、メイドが呼びに言ったシュタインが足早に、リビングフロアに入ってきた。


 走ることはないが、ゆっくりしているとマリーの機嫌を損ないかねないから気をつけなくてはならない。


「奥方様、お呼びでしょうか?」


 近くによったシュタインが声をかける。


 黒い鎧を纏っている。


 大きな男で、黒い鎧が軽装のように見えてしまう。


 まったく無表情の顔は岩のようにごつい。


「ラーズがあなたと遊びたがっているの、相手しなさい」


 マリーが命じる。


 うむを言わせない。シュタインの都合など考えてはいない。典型的なクソ貴族ムーブだ。


 そういったことのつけは自分に帰ってくるのだが、まぁ考えていないのだろうな。


 俺にとっては都合がいいので、当然口を出すことはない。


(かしこ)まりました」


 命令されたシュタインは、まったく表情を変えることなく即答した。


 内心のことは分からないが、マリーの無理難題は今に始まったことではないのでかまわないのかも知れない。


 そもそも、自分が欠けてすぐに部下の仕事が回らなくなってしまうような仕事はしていない。


 正直、なんでダールベルク家になんて仕えているのか分からないくらいは有能な男だ。


「さて、おぼっちゃま。何をいたしましょうか?」


 大きな体を丸めて視線を落とし、三歳児の俺に対しても丁寧に接してくる。


「きしになる。おうまさんになって」


 俺は三歳児らしく見えるように、右手に架空の剣を振り回しながら言った。


 すると、シュタインの顔が僅かにゆるんだ。


 どうやら笑顔になっているらしい。


 意外と子供好きなのだ。


 少しばかり、俺の中の良心が傷んだ。


「さぁ、お乗りください。騎士ラーズ様」


 ためらうことなく四つん這いになってシュタインが言ってくる。


 俺はすぐにシュタインの背に這い上がり跨る。


「さぁ、いけシュタイン、ぜんしんだぁ」


 俺が命じると、シュタインは四つ足で前進し始める。


「いいぞ、シュタイン、てきはあそこにいるぞ、いけいくんだ!」


 俺は子供のノリを使いながら、廊下へと誘導する。


 マリーは俺のことを目で追っていたが、後を追ってくる様子はない。


 予測通りの反応だ。


 どんなに俺のことを甘やかしているようでも、その本質は怠惰なのだ。


 めんどくさいことなどしない。


 俺はシュタインを誘導して、屋内にある訓練場に到着する。


 中に入ると黙ってシュタインの背中から降りて、広い訓練場を見渡す。


 木刀や刃を抜いた模擬剣が置いてある場所はすぐに見つかる。


 さて、今の俺が扱える木刀を見つけなくては。


 ロングソードは論外。


 太すぎてグリップが利かないし、持てたところで振り回すことなど不可能。


 ショートソードならなんとかいけそうではあるが、今の俺にはそれでも長すぎてバランスがとれない。


 いろいろと探してみて、ようやく一本、ダガーサイズの物を見つけた。


 騎士がメインウエポンとして使用することはないが、鎧通しとして、止めを刺すときに使うものだ。


 その練習用に使うためのものだろう。


 ただ、それもマイナーなものではある。


 なので三本しか置かれていない。


 その中の一本を手に取ると、両手で持って振ってみる。


 空気を割く音がする。


 三歳児の俺でも、問題なく扱えた。


 両手持ちで、筋力はギリ足りたようだ。


 そこから俺は、俺の知る知識を元に短剣のモーションをなぞって動く。


 軽攻撃、重攻撃、ジャンプ攻撃からの切り上げ切り下げ。


 回避からの刺突攻撃。


 短剣パリィからの致命攻撃。


 基本モーションは問題ないようだ。


 さて、次は戦技である。


 この世界には幾つもの戦技と呼ばれる魔力を消費して放つことのできる攻撃がある。


 戦技は学習する必要があるのだが、一つだけ最初から使えることのできる戦技。


 基礎にして、最強格の戦技。まぁ、使いこなすことができればだが。


 それが戦技崩突。


 目線の位置で剣を前にして構え、タメを入れてから戦技を放つ。


 いったん下に落ちた剣身が、斜め上に突き出されるような形で発動する。


 いまので俺の魔力が三分の一ほど減ったが、問題なく放たれた。


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