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第一章 貴族転生 - 024

 俺は転がっている忌廃の王子アブファルの横に立つ。


 このまま放っておけば忌廃の王子アブファルは復活する。


 もちろん血樹の律も手に入らない。


 ではどうするのか……。


 俺は左の掌を上に向け自分の正面に掲げ、祈る。


 掌の上に白い光が上限の月のような形を作る。


 未生の弧。俺が掲げる無名の律である。


 他の律と違い俺の掲げる律には紋様がない。


 左手で無名の律を捧げ持ち、転がっている忌廃の王子アブファルの胸に右手を当てる。


 そのまま力を込める。ゆっくりと右手は胸に沈み込み、しばらくすると手の中に弾力がある何かに触れた。


 それを掴むと、右手に激痛が走る。


 無数の針に貫かれたような痛みだ。


 俺はかまわず掴んだまま、それを外に引っ張り出す。


 赤黒い球体が俺の手の中にあった。


 比喩ではなく、茨の棘のようなものが俺の掌をいくつも貫通している。


 球体の中には、そこには丸いリング状の物から無数の棘が伸びた紋様が浮かび上がっている。


 血樹の律の紋様で間違いない。


 俺は、棘に貫かれた右手に力を込める。


 首を失ったままの忌廃の王子アブファルの体が、もがき苦しむように床の上で跳ねていた。


 さらに力を入れると、軋むような音とともに、血樹の律に罅が入る。


 忌廃の王子アブファルの体だけでなく、落ちた首からも苦しげな声が漏れている。


 俺はさらに力を込めた。


 すると、ついに耐え切れなくなった血樹の律が俺の掌の中で砕かれる。


 その瞬間から、忌廃の王子アブファルの体からも首からも一切反応が消える。


 デミゴッドが死んだ瞬間であった。


 卑聖のメッシングとは訳が違う。


 褪金の律は薄まり過ぎていて、卑聖のメッシングを復活させることができなかった。


 卑聖のメッシングを倒したヤツは、律を奪いも砕きもしなかった。


 それがデバフになるため捨て置いたのだ。


 だから卑聖のメッシングはそのまま消滅した。


 だが、俺が砕いた血樹の律は訳が違う。


 神の直系の律であり、強力な律である。


 この後、影響はあるだろう。


 ただ、女王アイリスにより破棄された律でもある。


 どの程度の影響となるのかは、正直読めない。


 褪金の律の復活に使われればその力は格段に弱くなる。


 そう考えれば、影響は限定的なものとなる可能性もある。


 無名の律を消すと、砕いた血樹の律を欠片一つ残さないように気を付けながら袋に仕舞う。


 さて、帰還だ。


 今日は、さすがに疲れ切っている。ボス級二体の後にデミゴッド戦だ。正直、良く勝てたものだ。


 戦闘中に一度回復は入れたが、その後がっつりと削られている。


 おまけに祈祷無常の祈りの効果が切れてしまった。


 体が、一気に重く感じられる。


 幸いなことに、今いる礼拝堂の中に咒鵠の礎が発現している。


 さすがにカタコンベを登って帰るのは無理そうだ。


 俺は咒鵠の礎に触れて有効化する。


 権能を起動させる前に、着替えをすます。


 アーマー系の服ではないので簡単だ。今まで着ていた服は此処に捨て置く。


 俺の血で染まったこの服は、もう着ることはできないだろう。


 着替えが終わり、権能を起動させようとしたタイミングで、フリーダが姿を現した。


 背後が透けて見える。霊体だ。


「倒したわね」


 シンプルに話しかけてきた。


「予定より、だいぶ早かったですけど」


 俺もシンプルに返す。


「アイリスには検知されたわ」


 そう言ったフリーダの表情は、なんとなく楽し気に見えた。


「どうなりそうです?」


 今後のこともあるので、聞いておく必要がある。


 王族たち……いや、デミゴッド達の情報に関しては俺などより遥かに詳しい。


「たぶん、どうにもならないわ。……しばらくはね」


 フリーダは確信めいた口調で答えてくれる。


「それは?」


 どういうことなのかを俺は尋ねる。


「アイリスはこのことを秘匿するわ。アブファルのことは、存在自体を秘匿したいと考えていたのだから」


 なるほどと俺は納得する。


 女王アイリスが言及しなければ、デミゴッドたる忌廃の王子アブファルの死は誰にも知られることはない。


 もちろんこのまま女王アイリスが何の対応もしないなどとは思えないが、少なくとも表立って動くことはなさそうだ。


 ということは、すぐにエンデ・クリークが引き起こされる可能性は低そうだ。


「ありがとう。助かります」


 フリーダに礼を伝える。


「いいのよ、相棒だもの。それより、それ使わなくていいの?」


 フリーダが指摘したのは、砕いた血樹の律のことだ。無名の律を強化するのに使うことができる。


「僕は、僕の律に余計な混ぜ物をするつもりはありません」


 無名の律は全ての律を取り込むことができる。砕いた律を使えば強化することもできる。


 ただ、どちらにしても、他の律が混ざることになる。


 俺はそれを望まない。無名の律が無名であるからこそ、この世界の理と隔絶していられる。


 今は感でしかないのだが、そうでなければ『あれ』を倒すことはできないと思う。


 最終目標がそこを目指している以上、けして譲ることの出来ないことである。


「ふふっ、わかったわ。でもいいの? その先にあるのは、無名の王よ?」


 楽しそうに話されると、心配しているのかどうか判断が難しい。


「ええ、かまいませんよ。そんなの些末なことですから」


 でも俺としては当然そう答える。


「そう。まぁ、貴方の好きにするといいわ。貴方の進む先にしか、わたしの未来はないのだから。貴方の選んだ未来はすべて私のものよ」


 フリーダの言葉を聞きながら、俺は苦笑を浮かべる。


「今後もよろしくお願いします」


 結局の所、そう言うしかないということだ。


「あまり無茶はしないでね。今日みたいな無茶を繰り返されると心臓に悪いから」


 さすがに俺も、今日の連戦は無茶をしたという自覚がある。


「……気を付けます」


 俺は素直に答えておいた。


「それでは、また」


 別れを告げると。


「ええ、また」


 フリーダが答えたところで、咒鵠の礎の権能を起動する。


 周囲の光景が変化する。ハンターギルドの前にいた。


 咒鵠の礎から離れると、周囲の状況がはっきりする。


 どうも騒がしい。


 嫌な予感がして、魔術見えざる姿を使っておく。


 ハンター側の入り口付近に殺到している連中の間をすり抜けて中に入ると、原因が分かった。


 ルーカスのパーティが中心になり、その周りに人が集まっている。


 どうやら、猟醜の騎士討伐で騒いでいるようだ。


 俺は身をすくめると、そっと通り過ぎる。


 申し訳ないが、ここは人身御供となってもらおう。


 人混みを抜けると奥にある階段から二階に向かう。


 二階には事務手続きを行うための施設と共に、パーティに貸してくれる部屋もある。


 受付でルナに貸している部屋を聞くと、そこに向かう。


 入口でノックすると、すぐに反応があった。


「入って」


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