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第一章 貴族転生 - 023

 何度か落ちかけながらも、最後は石棺の蓋の上から飛び降りて無事に下までたどり着くことが出来た。


 今日はさんざん戦ってきたが、これが一番きつかったかも知れない。


 とはいえ、本番はこれからだ。


 カタコンベの大穴に続く出入口を見つけると、ゆっくりと歩き始める。


 持久力の回復を図るためだ。


 大きな扉があり、そこを押し開く前に、入手したばかりの螺旋の印を取り出す。


 祈祷、無常の祈り。無名の律を掲げる者のための祈祷。それは、力を与えられなかった者への僅かばかりの希望。その祈祷は、全てのステータスを僅かばかり底上げする。


 僅かばかりとあるが、その対象は全てのステータスだ。


 ステータスが五づつ増えるので、レベルに換算すれば、四十上がることになる。


 とんでもなく強力な祈祷である。しかも螺旋の印の影響で、効果時間が倍になる。


 この螺旋の印を入手したからこそ、忌廃の王子アブファル戦を決断できた。


 バフを掛け終わったところで、礼拝堂への扉を開く。


 礼拝堂の中はとても広くて明るかった。


 一番奥の正面には巨大な女神像がある。


 女王アイリスの像。神である。


 その像の足元に漆黒の鎧とマントを纏った男が跪き祈りをささげている。


 考えるまでもない、忌廃の王子アブファル。


 俺が初めて戦うデミゴッドである。


「不遜な者よ。侵入者よ。我が律を望むか?」


 ゆっくりと立ち上がりながら忌廃の王子アブファルが聞いてくる。


 ただそれは問いかけなどではない。


「貴様が何を望もうと、何が目的であろうと構わん。我が母の律を脅かす可能性のある者は全て排除する」


 ここに侵入した時点で、もう結論は出ているのだ。


「さあ、かかってくるがいい、穢れし者よ!」


 立ち上がった忌廃の王子アブファルは、今の俺の身長の倍以上ある巨体。


 右手に身長より長い『光なき聖槍』を持ち、俺を待っている。


 それだけなのに、とんでもない圧を感じる。


 とは言え、戦わないという選択肢はない。


 打刀を抜きながら、無造作に近づいていく。


 間合いに入ると、忌廃の王子アブファルが動き出す。


 上から『光なき聖槍』を叩きつけてくる。


 サイドステップで交わす。地面がひび割れた。


 忌廃の王子アブファルは止まらず、『光なき聖槍』を横なぎにする。


 バックステップで交わした直後、忌廃の王子アブファルに打刀を突き入れる。


 差し込まれたにも関わらず、忌廃の王子アブファルは左手の指を使い、空間を切り裂くしぐさをする。


 俺は、後ろに倒れこんでそれを避ける。


 空中に四本の火炎が生じ横に長く伸びる。


 俺は、そこからさらに後ろにローリングする。


 生じた火炎は、そのまま爆発を伴う火炎へと変化する。


 立ち上がった俺の顔に輻射熱が届いたが、ダメージは避けられた。


 俺は打刀を納刀し、魔力を流すと共に斬撃を放つ。


 戦技夢幻の月光。


 青白い斬撃が届き、忌廃の王子アブファルが僅かにひるんだが、すぐに行動を再開する。


 確実にダメージは与えたものの、倒しきるまでにはまだまだのようだ。


 戦技用にステータスを上げた上に、バフで底上げしたにも関わらず、こんな感じである。


 やはりデミゴッドは強い。


 知らず知らずのうちに、胸が熱くなってくる。


 嬉しくなっているのだろうな、俺は。


 だが、まだ戦いは始まったばかりだ。


 集中する。


 それから俺は、敵の戦技を交わし、その後の隙に戦技居合を差し込んでいくか、縦切りと横切りで小まめに切り込んでいくことを繰り返した。


 戦技夢幻の月光は、一度しか使っていない。


 まだ魔力量の少ない俺では、何度も放てないので、使いどころが問題になる。


 それでも、確実にダメージは与えている。


 その証明として、忌廃の王子アブファルの行動に変化が現れる。


 手に持った『光なき聖槍』を両手で持つ。


 その瞬間、世界が赤く染まった。


 血樹の律、その権能が発動した瞬間である。


 俺は躊躇うことなく、間合いを詰めて近接距離から戦技夢幻の月光を叩き込む。


 戦技居合のダメージと魔力による斬撃により、二倍のダメージが入っている。


 にも関わらず、忌廃の王子アブファルは動きを止めることなく、『光なき聖槍』を天に向けて突き上げる。


 俺の全身から血液が噴き出した。


 血樹の律による権能、不可避の血宴の発動である。


 これは、出血による割合ダメージで、一回で三分の一の生命力を削られる。


 つまり、二回は耐えられる。三回目で即死だ。


 その間に、俺は戦技戦技夢幻の月光を五回叩き込み、三回目の不可避の血宴が発動する前に黄金の雫を使って回復する。


 その直後に発動された不可避の血宴によって生命力は三分の一削られるが、構わずもう一度戦技夢幻の月光を叩き込む。


 その瞬間、体幹を削り切られた忌廃の王子アブファルの体が落ちる。


 さらけ出された弱点に、持ち替えた治癒の短剣を差し込んだ。


 綺麗に決まったが、忌廃の王子アブファルはそれで終わらない。


 立ち上がると共に、背後に跳ねながら血の色をした炎を周囲にまき散らす。


 俺はそれに合わせてバックステップで距離を取り交わす。


 忌廃の王子アブファルは飛び上がり、黒々とした羽を広げる。


 ついに正体を露わにした。穢れたる本質。


 全身が赤い光に包まれる。


 俺は腰を落とし、打刀の柄に手をかける。


 次の攻撃が最後となる。


 俺が受ければ一撃で命を削り切られる。一方、忌廃の王子アブファルもほとんど生命力は残っていない。


 開幕は忌廃の王子アブファルが待ち、俺が仕掛けた。


 最後は俺が待ち、忌廃の王子アブファルが仕掛ける。


 良い決着だろう。


 俺が待っていると、空に舞い上がった忌廃の王子アブファルが両手で『光なき聖槍』を捧げ持つ。


 大きな漆黒の羽を力強く羽ばたく。


 赤い軌跡を描き、忌廃の王子アブファルが突撃してくる。


 槍が俺の体を貫く寸前、サイドステップをする。


 ギリギリを狙ったため、槍の先が俺の胸を少し抉った。


 交わしたタイミングで空を飛ぶ忌廃の王子アブファルの首が目の前にある。


 俺の体は勝手に動き攻撃を叩き込む。


 戦技夢幻の月光縦切り。


 打刀の刃と共に青白い斬撃が首筋に入り切り落とす。


 頭を失った忌廃の王子アブファルの体が、礼拝堂の床に落ちで派手に跳ねながら壁にぶつかり停止する。


 落ちた頭は、ごろごろと床の上を転がっていき、大きなアイリス像の足元で止まった。


 俺は打刀を納刀すると、立っていられず片足をついてしまう。


 かろうじて勝ったはいいが、血を失い過ぎている。


 黄金の雫を使って一度回復はしたが、満身創痍の状態には変わりない。


 とは言っても、まだ終わりではない。


 膝に手を当てて、無理やり立ち上がる。


 足を引きずるように、壁にぶつかって止まった忌廃の王子アブファルの体がある場所に向かって歩いていく。


 それにしても、体が重い。


 いくら回復したからと言って、我ながら無茶をした。


 着ている服は俺の血で真っ赤に染まっているし、着替えないと外は歩けそうもない。


 幸い着替えは持ってきているのが幸いだろうか。


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