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第一章 貴族転生 - 022

 神聖騎士はさり気なく入口に立ったまま外を警戒している。


 職務に忠実なことで結構だ。


「あんた、なに……」


 言いかけたルナに手を上げて言葉を遮る。


「まずは、これを渡しておきます」


 俺は、背負っていた袋から『神支の聖根』を取り出す。


 それを見てルナの表情が変わった。


 喜んでいるというより、何かを決意したような厳しい表情だ。


 十歳そこらの子供にさせていいような表情ではない。


 もちろん、俺は除外だ。


「あ、ありがとう……」


 厳しい表情で『神支の聖根』を受け取りながら、ルナが礼を言う。


 さて、ここからだ。


「それで、このような場所で何を?」


 概ね想像は付くが、余計な憶測するより直接訪ねた方が確実だ。


「……」


 ルナは答えにくそうに俯いた。


 俺は黙って待つ。催促する必要はないだろう。


 しばらくの間、じっと何かを考えている様子だったが。


 顔を上げて、俺の顔を見る。


 どうやら決心がついたようだ。


「ここの底に行きたいの」


 どうやら俺の想像通りのようだ。


「忌廃の王子アブファルですか……」


 神であり女王でもあるアイリスにより、忌区の更に奥底にある地下迷宮へと廃棄された王子。


 最も神の血を濃く受け継ぎなからその存在を消されたデミゴッド。


 それでもなお、アブファルはただ母たるを愛した。


 悲劇的な業を背負ったデミゴッド。俺の倒すべき敵である。


「分かったみたいね……そうよ、忌廃の王子に会いたいの」


 やはり、もう律が持たないのだろう。


 褪金の律は最も薄まった律であり、本来ならとうに消え去っていたであろう律である。


 それが保たれていたのは、卑聖のメッシングが曲がりなりにもデミゴッドとして存在していたから。


 本来ならば、ルナが導きの巫女となり、強者と契約して律を掲げる。これが本来のやり方。


 焦って『咬暉の交じり枝』と『神支の聖根』を求めていたのもそのためだ。


 だが、もうそのための時間がなくなった。褪金の律は消えかけている。


 そういうことなのだろう。


 だから、最後の望みにかけて行動した。


「血樹の律を砕くのは、簡単ではありませんよ? 戦えば貴方は生きてはいないでしょう。律も潰えることになります。それでもやるつもりですか?」


 消えかけた律を蘇らせる方法。


 それは、強者を見出し律を掲げるという正攻法以外に、他の手段が存在する。


 非常に難易度は高いが、成功すればすぐにでも褪金の律は蘇る。


 その方法は、他者の律を砕き、それを持って自身の律を修復する。


 どんなデミゴッドであれ、自分の掲げる律が砕かれるのを黙って見ているわけがない。


 当然戦いになる。


 さて、どうしたものか……。


「しかたないわ、もうそうする以外に……あたしは巫女だもの」


 悲壮さを漂わせてルナが答える。


 律を維持する方法はもう一つだけ存在する。


 それは、無名の律に褪金の律を取り込むことだ。


 ただそれだけは絶対にしたくない。褪金の律なんて取り込んだら、せっかく高めた力が薄まってしまう。


 切れることのないデバフ効果だ。


 シャレにならない。


 そんなことをするくらいなら、まだ忌廃の王子アブファルと戦った方がいい。


 想定としては、少しばかり手を貸すだけのつもりだったのだが。


 これは、さすがに少しだけの範疇には入らない。


 俺は気づかれないようにひっそりとため息をつくと、ルナと交渉することにする。


 さずがに何らかの理由付けは必要だ。


 そうでなければ納得できない。ルナも俺も。


「ひとつ、取引をしませんか?」


 俺は交渉を始める。


「取引? 何よ、一体……」


 ルナは不安そうではあるが、少しばかり表情が明るくなった。


 不安と期待がないまぜになっている、そんな所だろう。


「僕が代わりに血樹の律を手に入れてさしあげましょう。その代わり、一つやって欲しいことがあります」


 俺は取引内容を語り始めると。


「あんたが……本当にできるの、そんなこと? ……いや、それより、やって欲しいことって、何よ?」


 疑っているようだった。でも、それを一旦飲み込んで条件を確認してくる。


「一回だけでかまいません。教区に出入りするための許可を取り付けてください」


 教区にも咒鵠の礎は存在する。一度でもそれに触れれば、以降何度でも利用することが可能となる。


 俺の条件を聞いて、ルナは呆気にとられたような表情になった。


 その表情はすぐに、苦悩するような表情となる。


 ルナに置かれた状況を考慮するに、かなり厳しい条件と思えるのだろう。


 恐らく、ルナ自身教区への立ち入りが制限されている。


 神聖騎士を一人付けられただけで、教区外での活動を余儀なくされている。


 使えるべきデミゴッドを倒され、今にも消えかかっている律を掲げている巫女などまともに取り合ってもらえない。


 そんな所だろう。


 ただ、それでも、だ。


「わ、わかったわ。なんとか……してみせる」


 悲壮な覚悟を決めてルナが答えた。


 俺は少しばかり助け船を出すことにする。


「安心してください。教区に入るのは血樹の律を手に入れてからのことです。褪金の律を修復した後でなら、なんとかなりませんか?」


 俺は助け船を出すように言った。


「そ、それなら、なんとか……」


 自信なさげにルナが言った。


 これはたぶん無理そうだな、と俺は判断する。


 教区に伝手がないのだ。十歳児にそんなものなどあるわけがない。


 追い詰められて、もう自分でも何をやっていいのか分かっていない。


 まぁ、そこら辺りはどうでもいい。俺にとっては単なる理由付けであるからだ。


「それでは、お引き受けいたしましょう」


 俺は背負っている袋の中からダールベルク家の紋章の入ったナイフを取り出す。


「これを持ってハンターギルドに行ってください。僕の名前を出せば、部屋を一つ借りれるはずです。そこで待っていてくれれば、要件が片付き次第僕も向かいます」


 ルナが受け取る。


「ハンターギルドね、わかったわ。約束、守ってよね」


 真剣な表情で俺の顔を見ながら言った。心配しているのだろう。


 悪い女の子というわけではない。素直になれないだけだ。


「もちろんです。では、のちほど」


 俺は別れを告げると、神聖騎士の横を通るとき、一言だけ声を掛ける。


「よろしく頼みます」


 すると、神聖騎士は重々しく頷いた。


 まぁ、ここから上に戻るだけなら、神聖騎士一人で十分守り切れるだろう。


 それほど心配はしていない。


 むしろ、心配なのは俺の方だ。


 成り行きとはいえ、デミゴッドに挑むことになってしまった。


 俺が無名の律を掲げる以上、いずれは戦うことは避けられないとしても、想定よりだいぶ早い。


 倒した後の影響がどうなるのかというのもあるのだが、そんなもの勝ってからの話だ。


 さんざん使い倒した月束の杖を取り出すと、見えざる姿を発動する。


 ここから最奥まで、全てのモンスターをスルーして移動する。


 まずはもう一度、地下水路へと移動する。


 そこから、カタコンベの縦穴へと入る。


 巨大な大穴があり、この最奥から続く礼拝堂に忌廃の王子アブファルはいる。


 降りていく必要があるのだが、階段など存在しない。


 壁にびっしりと並んでいる一人一人の墓を伝って降りていく必要がある。


 中には石棺の蓋が外に飛び出している物があるので、そこに向かって飛び降りればショートカットできる。


 少しでも失敗すれば、一気に下まで落下。戦う前に終了だ。


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