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第一章 貴族転生 - 014

 事情はそれなりに把握したが、ウザイな、これ。


「『咬暉の交じり枝』とお聞きしたしました。つきましては、私と交渉などいかがでしょう?」


 俺は持ち掛ける。


「はぁ? あんたバカァ? あんたのようなお子ちゃまになんて用があるはずないじゃない?」


 俺と同じお子ちゃまが何か言っている。


 まぁ、それはどうでもいい。


「『神支の聖根』はもう入手されたのですか?」


 俺は構わず話を続ける。


 自称貴族娘がフリーズした。


 一方、背後の神聖騎士は依然無反応のままだ、不気味ではあるがありがたくもある。


 などと考えていると。


「なんであんたが知ってんのよ?」


 復活した自称貴族娘が俺に向かって聞いてきた。


 ただ、さすがに声は抑えている。


 ある程度の理性はあるようだ。


「それも含めて、場所を移しませんか? 少々目立ちすぎている」


 俺は受付付近でこっちの様子を見ているギルド職員に向かって、軽く手を挙げて合図を送りながら提案する。


 ギルド職員はそれを受けて軽く頷いていたが、元の仕事には戻らず様子見している。


 まだ介入の余地を残しておく、という判断なのだろう。


 自称貴族娘は、俺と自分が絡んでいたハンターパーティを交互に見ていたが、すぐに俺の方へと視線を戻すと今にも噛みつきそうな目で睨みつけてきた。


 まるで野犬だな、などと俺が考えていると。


「わかったわ。さっさと案内なさい」


 いきなり命令してきた。


 立場もあるのだろうが、焦っているのが丸わかりだ。


 概ね事情は推測できたので、致し方ないとは思う。


 やはり十歳そこらの子供には荷が重すぎるのだ。


 俺は軽く肩をすくめると、沈黙を守っていたハンターパーティに向かって話しかける。


「私はラーズと申します。この場はこのラーズが引き取らせていただきますので、この件は無かったことにして頂けないでしょうか?」


 すると、パーティリーダーらしき男は、あからさまに大きなため息を吐くと、ようやく口を開いた。


「すまんな、ラーズ君。この場は君に任せるよ。もちろん、今起こったことは忘れよう……」


 そこで一旦言葉を切ると、パーティメンバーを見渡して全員が頷いたことを確認する。


「というわけで、後は頼む。私はガーゼル、このパーティのリーダーをしている。何かあったら力になろう」


 ガーゼルと名乗った男は、軽く手を振って離れて行った。


「いつまで待たせる気よ? 早くいくわよ」


 すぐに自称貴族娘が言ってきた。


 あんたの後始末をしてんだ、とか言うつもりはない。


 少なくとも、後始末をしている間、良く待てたもんだと感心しているところだ。


 若干かもしれないが、理性はまだ残っているらしい。


 などと、いささか失礼なことを考えながら、俺は交渉の場に使う場所を頭の中で検討していた。


 これからする話は、他人に漏らすわけにはいかない。


 自称貴族娘がどう思っているのか知らないが、俺としては余計な混乱を招くことはしたくない。


 絶対、この後の行動に支障がでるからである。


 短時間のうちにメリットとデメリットを検討しながら、候補を考え一つの結論に至る。


「すぐそこに、咒鵠の礎があります。そこにしましょう」


 俺の言葉にまた固まった自称貴族娘を放置して歩き出す。


「ち、ちょっと待ちなさいよ!」


 後からあわてて駆け寄ってきた。


 俺は無視してそのまま歩き、ついさっき使おうとしていた咒鵠の礎の傍で待つ。


「あんた、一体何者よ!?」


 明らかに不審そうな視線を向けながら、追いついた自称貴族娘が聞いてくる。


 俺は軽く手を挙げて言葉を遮ると、


「それより先に、咒鵠の礎を使いましょう」


 話しながら俺は赤金の粒子を放つ咒鵠の礎に向かって、右手をかざす。


 自称貴族娘も同じように右手をかざした。


 すると、咒鵠の礎が放つ光が僅かに増し、同時に周囲の音が遠ざかるような感覚になる。


 周囲の風景がぼやけ、俺と自称貴族娘に関心を払う者はいなくなる。


 俺と自称貴族娘を認識できなくなったのだ。


 それだけでなく、この状態になっている間、俺と自称貴族娘の声は聞こえなくなるし、触れることもできなくなる。


 世界の中にいながら、世界から切り離されたような状態。


 確か、幽世(かくりよ)と言ったか。二つの世界が重なり合うような状態である。


「さぁ、聞かせて。あんた、何者よ? なんで、咒鵠の礎を使えるのよ?」


 さっそく俺に詰め寄ってきた。


「ラーズと申します、巫女さま。咒鵠の礎を使えることに関しては、巫女さまの方がお詳しいかと……。それと、出来ればお名前をお教えいただけたら光栄でございます」


 俺は頭を下げながら丁寧に対応する。


「ちっ……ルナ・ナイトシェードよ。それじゃ、あんた導きの巫女が憑いているのね?」


 舌打ちしやがったよ、自称貴族娘……じゃなくてルナか。


「はい、仰せの通りでございます」


 深々と頭を下げながら慇懃に答えた俺に対して、ルナは嫌そうな顔を見せる。


「あんたねぇ。いい加減、それやめなさいよ」


 さすがにやり過ぎたようだ。


 とは言って、完全にやめるつもりはない、ほどほどにしよう。


「承知しました、ルナさま。そのように」


 今度は軽く頭を下げて答える。


「あんたねぇ……。まぁ、今はそれより、あんたよあんた。何者なのよ……ってか、あんたに憑いてる導きの巫女って、誰よ!?」


 いきなりぶっこんできたな。こっちの腹を探るようなことをしてこないのは助かるが、十歳の少女ではこんなものだろうな。


「そんなことより、今はもっと急ぐことがおありなのでは?」


 俺の予想する通りならば、今は本当に切迫した状況のはずだ。


 少なくとも、律を掲げる巫女にとっては。


「ふぅ……そうよ。あんた、持ってるの? 『咬暉の交じり枝』と『神支の聖根』を」


 俺の想定通り、ルナは話に乗ってきた。


「はい『咬暉の交じり枝』ならここに」


 咒鵠の礎の権能の一つである、瑕疵の木箱の中から『咬暉の交じり枝』を取り出す。


 俺専用のストレージであり、入れた物は全ての咒鵠の礎から取り出すことができる。


 瑕疵の木箱は俺が死ぬと無くなる。中に入っている物と共に、永遠にこの世界から消え失せる。


 だから、瑕疵なのだ。


「ふーん、確かに『咬暉の交じり枝』のようね。で、もう一つ、『神支の聖根』はどこよ?」


 俺が手にした『咬暉の交じり枝』を見ながら、ルナが言ってきた。


「さすがに『神支の聖根』の持ち合わせはありません。ただ……」


 交叉の樹獣を倒せば確率で入手可能な『咬暉の交じり枝』と違い、『神支の聖根』は古き神々の遺恨が残るダンジョン内の最深部でしか入手できない。


 つまり、最深部に巣くう神々の残滓たるモンスターを狩る必要があるのだ。


 当然のことながら、そいつらは強い。


 強いが、猟醜の騎士ほどに強くはない。


 俺にとって、勝てない相手ではないということだ。


 そして、幸か不幸か『神支の聖根』の在処を知っていて、たまたま明日そこに向かう予定がある。


 リーセブル河の洞窟、その最深部にそれはある。


「ただ、何よ? まさか、諦めろとかいうつもり?」


 それまでとは打って変わって、不安そうな表情をみせつつルナが聞いてくる。


「僕は明日、リーセブル河の洞窟に行きます。その最深部に『神支の聖根』は存在している。ですから、ついでに取ってくること自体はかまいません。ただ……条件があります」


 俺が口にすると、またルナは前のめりになり、食い気味に聞いてくる。


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