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バズってる

 学校の帰り道。

 幽奈は何度も伝えようとしては躊躇した自分を恥じていた。


 人見知りでコミュ障で、こんなことで将来生きていけるのだろうかと、我ながら思ってしまう。


(あれ?)


 そんな彼女の目に止まったのは、正門前で誰かを待っている女子生徒だった。


 足音に気づいたその少女は、振り返ると幽奈と目が合い、微笑を浮かべる。


「こんにちは」

「あ、こん……にちわ」


 少しして、その少女はまた背を向けた。朝シャム相手に感極まっていた、白鳥静である。


 幽奈は彼女のことを知っていた。とにかくシャムのことが好きらしく、あれこれと世話を焼きたがるのだ。


 そういう友達がいることが、幽奈にとっては羨ましくてしょうがない。


 ただ、今日に関しては少し可哀想な気がした。隣を通り過ぎようとした時、ぼそりと声をかけてみる。


「シャムちゃんなら、もう帰ったよ」

「え!? あれー、おかしいなあ。今日は部活があったはずなのに」

「……」

「そういえばあなた、シャムちゃんと同じクラスだよねっ! 教えてくれてありがと」


 満面の笑みを浮かべて、優雅な足取りで静は去っていった。まさにお嬢様というオーラに、内心では気圧されまくっている自分がいる。


(私なんかとは、全然違う)


 どんよりとした空気を纏いながら、なんとなく落ち込んでしまった陰すぎ少女は、一人ダンジョンに向かうのだった。


 ◇


 この日も、あのコンビニ駐車場にできたダンジョンへと向かっている。電車は今の時間帯はまだ空いていて、人もほとんどいない。


 幽奈は角のシートに座り、外の景色を眺めながら嘆息していた。


(外でも友達、欲しい……)


 中学時代から友人がいないはずの少女は、心の中で儚い願望を口にした。外でも欲しい、ということは何処かにいるのだろうか。


 実は友人はダンジョンにいる、そう幽奈は思っている。普通の人が聞けば、気が触れてしまったのではないかと疑う思考だ。


 さらにはダンジョンの中で、独り言をぶつぶつと呟いている。この女の子はおかしい、そう思われても何ら不思議ではない。


 電車に揺られながら、彼女は滅多に開かないスマホを開き、SNSのねこ動画を探すことにした。幽奈はねこが好きだった。


「ふふふ、可愛い」


 今日もお気に入り登録しているアカウントが、たくさんのねこ動画をUPしている。その姿に癒されていたが、ふと画面が奇妙な状態になっていることに気づく。


(え、え? なにこれ)


 通知マークが壊れていると、最初は疑った。九百を超える通知の数があり、メールにも同じ数が表示されている。


 試しにメールをタップすると、信じ難いほど沢山のダイレクトメールが着信していた。


 山のように送られてくるそれに、幽奈は頭の中がしばらく真っ白になった。


 ダイレクトメールの内容は、どれもイタズラとしか思えないものばかりだった。しかしどのメールにも、ほとんどシャムの名前がある。


 シャムを助けたのはお前か? そう誰もが自分に問いかけているような気がした。


(え、え! みんなシャムちゃんのこと聞いてる)


 しばらくして、意味も分からないままふらりと立ち上がり、混乱していたらいつの間にかホーム画面をタップしていた。


 すると、またしても異常な数値を目にする。昨日まで自分のアカウントをお気に入り登録していたのは、たしか二人。


 それが今では、二千万を超えていた。


「え、ええええええ!?」


 幽奈は思わず絶叫した。こんな大声を発したのは小学生以来だ。


 ハッとして周囲を見ると、わずかにいた客がこちらをチラ見していた。途端に顔を赤くして俯いてしまう幽奈だったが、スマホが気になってしょうがない。


(ど、どうして! どうして私のアカウントがこんなことに)


 軽い錯乱状態に陥りつつ、理由を考えてみる。


 気になったのは、大抵のダイレクトメッセージや、つぶやきのコメント欄にあるシャムの名前。


 つまり、あの時自分がダンジョンにいたことをみんなが知った。


 そしてこのアカウントが特定されたということなのだろう。


 しかし、Utubeのアカウントならまだしも、どうしてSNSのほうが見つかってしまうのだろう。


 そう思った幽奈はハッとした。次にタップしたのはUtubeのアプリ。タップして中を覗いてみると、またしても信じられない数字の山が目に飛び込んできた。


(登録者数……五百万人!?)


 信じられない画面だった。しかもアーカイブは全てにおいて数万回再生されており、多くて二桁だった数日前とは比較にならない。


「こ、こんな。こんなことって」


 幽奈は電車の広告あたりを見上げ、そのまましばらく固まってしまった。まるで魂の抜けたような表情になり、なにも考えられなくなってしまう。


 数分後、電車が目的地に到着してからも、頭の中は清々しいほどに白いままで、ただトボトボと無気力に改札に向かう。


 そしてしばらく歩いた時、ようやく消えかけた意識が戻ってきて、陰の者である彼女は慌てた。


(待って。今日ここでライブ始めたら……どうなっちゃうの?)


 ダンジョン配信はいつもどおりやりたいとは思う。しかし、ライブを開始したらどうなってしまうのか分からない。


 いきなり不特定多数の人に話しかけられたら、対応できる自信など一ミリもない。


 コミュ障の中のコミュ障である千川幽奈にとって、かつてない試練が訪れてしまった。


 しかし、もうダンジョンは目前だ。ここでフラフラしていると不審者認定されそうなので、ひとまず中に入ることにする。


 そんな地に足がつかない幽奈をよそに、今日もまた新たな挑戦者がダンジョンを訪れていた。


 噂のSS級悪霊を倒すという、並々ならぬ強い決意を秘めて。

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