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もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


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怖がらせないように

 その一室には、四つのベッドが置かれている。


 よくある病室であり、かつては普通に使用されていた場所であった。


「こ、このままじゃアイツが来る。捕まったら殺される」


 男は隠れる場所を探した。だがそうそう隠れ場所などあるものではない。


 もし隠れることができるとすれば……男は肩を振るわせながら、蜘蛛の巣が貼られたベッドの下を見つめていた。


 その時、足音が近づいてくるのが分かった。もう迷っている暇はない。白髪の男は地べたを這うようにして、狭いベッドの隙間へと潜り込む。


「ココ……」


 少女の声がして、彼は一瞬びくりと体が震えた。数秒して、軋んだドアがゆっくりと開かれる音が聞こえた。


(き、来た。来やがった、来やがった)


 暗い室内に幽奈が入ってくる。白髪の男の目線に、細くしなやかなふくらはぎが映った。


 もしここで見つかってしまったら。新しく芽生えた恐怖に男は発狂寸前。必死に叫ばないよう口を押さえ、彼女が去ることを待っている。


 幽奈は部屋の中を歩き、男を探していることは明らかだった。ベッドの上、その脇を探している様子が見える。


 こっちで同じことをされたらバレるかもしれない。


(は、早く! 早く去ってくれ。消えてくれ)


 まさかこのような惨めなことになるとは、男は想像もしていなかった。


 狭いベッド下から見える景色は、どこを見ても安らぎなどない。しかし、ようやく希望が見えてきた。


 細い体がドアへと向かっていく。男は希望を持ちかけた。しかし、なぜかここで彼女は足を止める。


 そして一歩、一歩と男が隠れるベッドへと進んできたのだ。


 とうとう見つかったのかもしれない。静かに腰を下ろし、あの顔が至近距離で覗き込んでくる光景が脳裏をよぎった。


(し、死ぬ。殺される。死ぬ、死ぬ、死ぬ)


 白髪の男は、初めての恐怖に翻弄され続け、正常な思考が困難になっている。


 それでも声だけは押し殺し続けた。靴の音が響いてくる。やがてドアが開かれ、不吉な音とともに閉じられる。彼女はいなくなった。


 白髪の男は安心とともに、盛大なため息を漏らした。殺されるところだったが、かろうじて気づかれなかったのだと思った。


 靴の音が遠ざかってゆくことを確認しながら、体の痛みを堪えつつベッドから這い出る。


(俺は助かったんだ)


 しかし、まだ終わってはいない。あの恐怖の権化に気づかれる事がないように、静かに下の階へと降りて、車に乗り逃げなくてはいけない。それは決して楽なことではないはずだ。


 白髪の男は慎重に、決して音を立てないように扉を開き、周囲を見渡した。


 女はいない。ピエロの笑い声も聞こえない。


(よし。このまま、このままだ)


 どうしても軋んでしまうドアの音。不快に思いつつ、ゆっくりと歩き出す。いつでも隠れられるように、祈るように廊下を進む。


 しかし、背後から何かを感じた。すぐに振り返るが、暗い病院の廊下には何もいないように映る。


 気のせいだろうか。滝のような汗と全身の悪寒を堪えつつ、彼は前を向いた。


 白髪の男は、心臓が止まりそうなほど衝撃を受けた。


 笑い声がしていないのに、すぐ近くにピエロの人形が迫っていたのだ。どうやら中にあった音声装置の電池が切れていたらしい。


 そして背後から音がした。即座に振り返ると、遠く廊下の突き当たりから、幽奈が横滑りするように現れる。


 最悪の事態が彼を襲っていた。


「あああああーーー!」


 もう男は黙っていられなかった。絶叫を上げながら走るも、すぐに幽奈に追いつかれることは明らか。


 捕まったら死ぬ。その恐怖が彼を無茶な行動に駆り立てた。


(え? まさか)


 幽奈は嫌な予感がして、即座にリモコンでピエロ人形を操作し、男に捕まろうとする。


 そして人形は抱きついたが、白髪の男は止まらなかった。なんと廊下の窓を突き破り、自ら外へと落下したのである。


「エ……エ?」

「うわあああああああ!」


 幽奈が唖然として窓の外を見つめると、男が悶絶しながら這うように動いていた。人形はどうやら無事で、すぐに立ち上がっている。


(えええ。どうしよう。おじさん、怪我してない? 物凄く錯乱しちゃってる)


 男は逃げることしか考えていなかった。ようやく立ち上がると、ふらつく足で走ろうとする。


 しかし体はヨロついたままだ。前方には水の枯れた井戸があった。男はポケットの中に手を入れ、車のキーを取り出して走り出した。


「俺じゃない。あいつらを殺したのは俺じゃない。もう追ってくるな。追ってくるな」


 早くこの場からいなくなりたかった。しかし足はよろけ、手元は狂う。あろうことか、彼は転びかけて車のキーから手を離してしまった。


「あ!?」


 あってはならない事が起きている。車のキーが井戸の中に落ちてしまった。


「お、おい。ふざけるな。どうしてこんな……ハヒィ!?」


 しかしその直後、彼はまたしても奇声を発して転んでしまう。何かが猛烈な勢いで、井戸に落下した衝撃に恐怖したのだ。


 落ちたのは幽奈だった。彼女は車のキーを拾ってあげようとしていた。すぐに光るキーを拾い上げると、ジャンプして戻ろうとしたが、ここで思いとどまる。


(いきなり飛び出しちゃったら、またおじさん怖くなっちゃうかも。じゃあ、ゆっくり。静かに出ていけば)


 そうすれば大丈夫。すぐに彼女は、以前ダンジョンに逆立ちをした時に使用した、水魔法を手足に付与すると、心持ちゆっくりと地上へと登って行った。


 この時、ピエロ人形のカメラはまだ生きていた。視聴者達は突然の飛び降りに驚きつつも、画面を食い入るように見守っている。


 男はすでに放心状態だったが、なんとかもう一度立ち上がり、その場から離れようとした。


(もう車なんてどうでもいい。逃げないと殺される!)


 立ちあがろうとした足は震え、上手くいうことを聞いてくれない。心が怯えきっていた男は、ある変化を前にして竦んだ。


「ア……リ……マ……シ……」


 声がする。井戸の中から。


 男は顔面蒼白になりつつ、井戸から目が離せなくなった。暗闇の世界にポツリと存在する古めかしい井戸から、無視などできない異様な何かが登ってくる。


 視聴者達もまた、白髪の男とともにその井戸をじっと見つめていた。なぜか、目を逸らすことができない。


 少しずつ、それは姿を現した。


 まずは白い手が、井戸からゆっくりと天に向けて伸びてくる。細い指先が井戸枠を掴み、続いて黒いものが徐々に登ってきた。髪だ。


 黒く艶やかな髪は、怪しい恐怖とともに前に垂れながら、のそのそと井戸から這い出てくる。


 白い服が、まるで呪われた何かのように見えてならない。


「はぅあ……ああ……あああ」


 男は傍目からも分かるほど、体全体が震え続けていた。


 前のめりの姿勢のまま幽奈は立ち上がり、白髪の男に微笑みかける。


「ホアアアアアーーーーー!」


 白髪の男と視聴者達は、悍ましい赤い瞳と半笑いを直視し、ほぼ同時に絶叫していた。


:ひいいいいいいいいいい!

:怖い怖い怖い怖い怖い

:せんちゃん、もうやめて!

:また漏れちゃったよおおおおおお

:ぎひーーーー!!

:やりすぎだってBA!!!

:一生のトラウマすぎる!

:あああああああああああああ

:ホラー映画のやりすぎだって!

:せんねこの目が怖い

:マジで無理

:死んじゃう

:おっさん生きてる!?

:あ、おっさーーーん!

:うお、なんか漏らしながら走っとる

:おおおおおおお!?

:今日絶対トイレ行けないよせんちゃん

:どうしてそんなに怖がらせるの!?

:今日一日で一生分絶叫したわ!!

:無理無理無理無理無理

:こんな怖い顔初めて見た

:せんちゃん、もう許して

:おっさんが死ぬ!

:あああああああああ

:最恐スギィいいいいい!


「ア! 待ッテクダサ、」

「イヤァアアアアア!」


 白髪の男はあまりの恐怖に、糞尿を撒き散らしながら走り出す。


(お、お漏らししてる!? 大変!)


 幽奈はとんでもないことになったと慌ててしまう。しかし、男はそのまま逃げ続けることはできなかった。


 希空が通報したことでやってきた警察が、病院から飛び出してきた男を逮捕したのだ。


 この時、なんと同接は一千万を超え、幽奈の配信は過去に例を見ない爆発的なヒットとなった。


 そして、視聴者達に史上最大級のトラウマを植え付けてもいたのだった。

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笑いと恐怖のどっちで読めば良いねんw
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