追跡と発見
(シャムちゃん、早くなんとかしなきゃ)
幽奈は焦っていた。一体どこに攫われたのかは不明だが、このままではシャムが、取り返しのつかない目に遭ってしまうかもしれない。
左隣にいた静は顔を俯せ、しばらく黙っていたが、希空が何か見慣れぬ機械を手に取っている様子が気になった。
「それ、何?」
幽奈もふと気になり、右隣に視線を送る。ちらっと希空はこちらに目をやったが、すぐに機械の操作を再開していた。まだ顔が赤い。
スマートフォンを横長にしたような機械で、液晶がほとんどを占めている。
「新しい、スマホ?」
幽奈が首を傾げていうと、希空は首を横に降った。
「これは魔力感知器。マップがいくつか光ってるでしょ。今魔力を使っている人がいるか、大体どのくらいの魔力が発生しているか、それが分かるってわけ」
「凄い……! 知らなかったです。それを使えば、シャムちゃんの居所が分かるんですか」
希空はある程度設定を終えたのか、魔力感知器をしまい、窓の外へと顔を向けた。
「分かればラッキーってとこ。大抵の魔力感知器は、その場で発生している魔力しか検知できない。でも、これはいいギルドから借りた特別製なんだ。二日以内なら、発生した魔力と、その魔力がどこに流れていったかが調べられるはず」
静はハッとした。
「じゃあ、シャムちゃんの魔力が検知されれば、どこまで運ばれていったかが分かるのね」
「あ、シャムちゃんの魔力……普通の人よりおっきいし、優しいから。分かりやすいかも」
「優しい?」
変わった表現だなと、希空はふと幽奈を見る。
「はい。たまにシャムちゃんの魔力を感じることがあるんですけど、その。とっても暖かくて、優しいんです」
「え? そういうの分かるわけ? じゃあ、あたしは?」
「希空さんのは、なんていうかその……寂しそうっていうか」
「……! べ、別に寂しいとかないし。ってか、ホント変わってるよね」
「え?」
希空の眼差しには、強い興味の色があった。一見すると怠そうにしているが、幽奈のことは普段から調べている。
「普通警察が調べてるんだから、じっとしてるものじゃない」
「……じっとしているのは、無理です。シャムちゃんは、友達なので。どうしても、じっとしてられないです」
幽奈は俯きながら、シャムのことを思い小さな手を握りしめていた。
「分かるよ。私も、友達のことは放っておけない」
左隣にいる静が、決意のこもった声をかけてくる。
「うん。なんとかしないとだね」
「やっぱ、変わってる」
希空が窓を眺めながら、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。タクシーはしばらく国道を走り続け、とある大きなギルドの前で停車した。
タクシーから降りた幽奈は、目の前に広がるビルと駐車場の大きさに戸惑ってしまう。
「ここが、シャムちゃんが攫われた時の」
「元々パチンコ屋だったらしくてさ、駐車場広いから、攫って車で逃げたのかもね。もうちょっと近づかないと、反応が出てこないか」
タクシーには一度ここで待ってもらうことにし、希空は魔力感知器を起動させながら、ギルドへと少しずつ近づいて行った。
「!?」
すると、急に希空が動揺して振り返ったが、幽奈を目にするとため息を漏らした。
「あはは。幽奈ちゃんの魔力も、出ちゃってるかもね」と、苦笑まじりに静が言う。
「え? そう、かな。私、知らず知らずのうちに——」
その時だった。希空はUターンして、すぐにタクシーに乗り込む。
「乗って! アイツと似た魔力のやつが、遠くのほうに行こうとしてる!」
「え、あ、はい!」
希空は今度は助手席に乗り込み、幽奈と静は後部座席に急いで滑り込む。タクシーはすぐに発進した。
魔力検知器のマップには、確かに大きな黒い光が画面端に映っている。
「この魔力……感知されてた過去の魔力に相当似てる。多分、本人で間違いないと思う」
「じゃ、じゃあその。アッキーさんなんですね。あの、追いついたらどうしますか」
「捕まえてはかせる。その後は警察に突き出して——消えた?」
希空は我が目を疑った。少しずつ近づいていたはずの黒く大きな魔力反応が、一瞬にして消えてしまったのだ。
「魔力を出すのをやめたの? っていうか」
そもそもおかしいと、今になって考えてしまう。どうして今この場で、魔力を使いながら去っていく必要があったのだろう。
もしかしたら、もう目で見える位置にいるのかもしれない。国道沿いのビルばかりの景色や、車を注意深く観察してみる。だが、希空の瞳にはそれらしきものは映らない。
「あそこ……いるじゃん! あんなとこに」
「え? あ」
「嘘……どうしてあんな場所にいるの?」
希空は急いでタクシーを停止させると、二人もまた足早に降りてとあるビルを見上げた。
十階建てのビルの屋上。微かに褐色肌の巨漢の姿が見える。男は堂々とこちらを見下しているようだった。
「待って。これってもしかしたら、罠かもしれないわ」
「ん。なんか誘導されたっていうか。騙されてる、かも」
静が警戒心をあらわにし、幽奈も同意していた。
「騙されているったって、もう行くっきゃないっしょ」
だが、希空は迷わない。静も同じ気持ちであった。
そう。結局これが仕組まれたものであるとしても、シャムを助けたいなら向かうしかない。
幽奈もまた、息を呑みながらも薄暗いビルの入り口へと入ろうとした。




