表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/46

幸せな日常

 雑談配信やダンジョン探索、そしてシャム達とのコラボをしたことにより、幽奈の日常は変わった。


 以前は教室にいても気づかれない空気だったけれど、今はクラスメイト達から話しかけられるようになった。


 他のクラスの生徒からも挨拶されることがある。ドギマギしながらも、その変化に幸せを感じていた。


 そんな毎日が続いたある日のこと。シャムは放課後になって、友達三人と一緒に幽奈をカラオケに誘ってきたのだった。


「か、か、カラオケは……ちょっと」

「えー! でも幽奈ちゃん歌上手そう」

「だよね! 一回行ってみない?」

「歌なんて自己満だよ!」


 友人三人の押しに幽奈は流されそうになり、トドメにシャムからの一言が来る。


「今カラオケで友達割っていうのやってるから、来てほしいなー!」

「友達……」


 幽奈は友達という一言に弱く、もう断る気になれないのだった。


 ◇


 しかし、もともと大人しい彼女にとって、やはりカラオケは厳しい。


 ほとんどみんなの歌を聴いているだけで精一杯であり、自分の番になるともはや死にそうなほど緊張してしまう。


 そんな様子に誰もが笑っていたのだが、シャムは何か普段と違っていた。


 カラオケの後はショッピングモールで買い物をして、あっという間に時間が過ぎていく。


 遊び回った五人は、モール中央にある噴水の前で手を振っていた。


「ウチらこっちだから、じゃーねー幽奈ちゃん、シャムちゃん!」

「じゃあね」

「おっすー! またね!」


 家の方向が違うので、三人とはここでお別れ。駅まで一緒に歩くと思いきや、ここでシャムから意外な誘いがあった。


「幽奈ちゃん、水族館好き?」

「え、うん」

「あとちょっとだけ、付き合ってくれない? ここの水族館、とっても凄いんだよ」

「うん」


 幽奈は水族館が好きで、一度は友達と行きたいと考えたことがあった。夢がまた叶った気がして、また嬉しくなる。


 二人は軽い雑談に花を咲かせながら、美しい海を生きる生物達を見て回った。幽奈が特に好きなのはペンギンで、泳いでいる姿を眺めているだけで楽しい気持ちになる。


 しかし、シャムは何か彼女らしくない、ぼうっとした表情を見せることが多くなっていた。


「凄いよねー。海の動物って。みんな小さくっても、なんか逞しい感じがする」

「そうだね。私も、ペンギンさん凄いなって思う時ある」

「……そういえば、前の探索仲間とも来たことあったっけ」

「!」


 シャムが以前探索で組んでいた仲間の話題がくるとは、幽奈は予想もしていなかった。


「ミナさんとっても詳しかったんだ。あたし、以前はまるで実のお姉ちゃんみたいに慕ってたっけ。結局、あたしから嫌っちゃったけど」

「シャムちゃん……」


 探索仲間であるミナが、先日謎の急死を遂げた。それは瞬く間にニュースとなり、二人の耳にも届いていた。


「もしかしてさ、次はあたしかもね。あーあ、短い人生だったなー」

「え、え! そ、そんなこと!」

「あ、嘘嘘! じょーだんだよ。あたしなら大丈夫! 何があっても、しぶとく生きてやるんだから。しぶといのだけが、取り柄だからさ」


 幽奈は知っていた。シャムは最近、登校の際にも除霊用の札や、多くの探索用アイテムを持参していることを。


 ミナが死んだことは、誰もが偶然とは思えないのだ。ネット界隈でも常に話題に上がっている。


 シャムがいうには、アッキーからはもう連絡がなくなったらしい。ニュースにもなっていないし、彼はいつもどおりSNSで呟いたりしているから、無事ではあるようだ。


 一連の死亡事件について、警察は必死の調査を続けている。しかし、容疑者と思わしき人物は見つからない。


 徐々に不気味な何かの足音が、自分に近づいているのではないか。そうシャムは思わずにはいられなかった。


 しかし、気丈な彼女はそれを態度に出さないだけである。だけど、本当に周りはそう思ってくれているのだろうか。雑談をしながら、ふとシャムはそのことを知りたがった。


「幽奈ちゃんには、あたしってどう見える?」

「え? えっと……凄い人に、見えるよ。なんでもできて、とっても明るくて、配信とか凄くって」

「そっか。なんか嬉しい。でもね、あたし……本当に欲しかったものは逃しちゃったの」

「本当に欲しかったもの?」


 二人はクラゲのコーナーに来ていた。なぜかペンギン達の姿が見えなくなり、違うところを見ることにした。


「うん。あたしね、前も言ったと思うけど、除霊師っていう職業の家柄なの。家系で一人だけ、正当な後継者っていうのがあってね。代々一人だけいて、その人が引退したら次の正当後継者を決める、みたいな」


 シャムは何か言いにくそうにしている。彼女にしては珍しいと、幽奈は思った。


「除霊師の後継者って、すっごい名誉なことだって、あたしは昔から聞いて育ったわけ。実際、とっても凄いなって肌で感じたよ。だから、あたしは絶対に後継者になるって決めてた。でも、なんかダメだったんだよね」

「ダメ、だったの?」

「親戚でね、あたしより優秀な子がいたから。その子が後継者でほぼ決まってるの。あんなに頑張ったのに……って辛かったけど、しょうがないんだよね」


 クラゲ達が見えなくなったので、今度は小さなサメ達が泳ぐフロアへと進む。


「そうだったんだ」

「ってか、実力もそうだけど、めっちゃやらかしちゃってさ。ある女の子の霊がいてね。変なペンダントに取り憑いてたの。除霊しなきゃいけなかったのに……霊に懇願されて、できなかった。あれが一番おっきなミスだったなー」

「……」

「ホントはね。ダンジョン探索者になったのも、事務所に入ったのも、後継者になるために挽回したかったの。でも、なんか裏目っぽい気がしてて、最近。全部、無駄かも」


 気づけばシャムの瞳には涙が溢れていた。


「シャムちゃん。無駄なんて、そんなことないと思う」

「ん。だといいよね」


 幽奈もいつしか泣きそうになっていた。その瞳に気づいたシャムはハッとして、無理に笑顔を作る。


「ああ、大丈夫! やっぱこれからだし、あたし! こんなこと話しちゃったの、幽奈ちゃんだけだよ。秘密ね」

「あ、うん。誰にも言わない」


 秘密を打ち明けてくれた。それは幽奈にとって、これ以上ないほど光栄なこと。すぐに心の中で秘密を守ることを強く誓っていると、シャムは妙なことに気づいて周りを見渡した。


「ってか、なんであたし達がくると、みんないなくなるの?」

「え?」


 少ししてシャムは、何かに気づいたようにハッとした。


「待って。さっきのペンギン、元の場所に戻ってる。ちょっと幽奈ちゃん、ここで待ってて」

「え? うん」


 ペンギンコーナーに戻った後、しばらくしてシャムは戻ってきた。


「今度は幽奈ちゃんが行ってみて」

「う、うん」


 よく分からないまま、言われたとおりペンギンのもとへ。


 すると、ペンギン達が一斉に彼女から逃げていった。小走りでやってきたシャムは、大発見とばかりに目を輝かせる。


「凄いよ幽奈ちゃん! みんな幽奈ちゃんから逃げてる!」

「……う……」

「あ、あーごめん! なんか、きっとあるんだよ。きっと!」

「うう……」


 大好きな海の生き物達からも恐れられていることを知り、幽奈の心は最終的にへこんだ。


 でも、代わりにシャムは少しだけ元気になった。気がつけば二人は、以前よりずっと親しくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ