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もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


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重ねられる死

「連れ出せなかった? それはいけませんなぁ」


 深夜のバーに、二人の男がいる。


 一人は先日シャムを連れ出そうとした褐色肌の巨漢。もう一人は、白髪のスーツを着た男であった。


「くそ! このままじゃマジでやべえってのに。それにアレだ、あの悪霊がマジでいやがったんだぞ!」

「ほう」

「完全に周囲に溶けこんでいやがる。ゾッとしたぜ」


 アッキーはウイスキーを飲み干し、勢いよくグラスをテーブルに叩きつけた。苛立ちと恐怖を発散させる為、とにかく酒に頼っている。


「一つ、大きな誤解をあなたはしていますよ。あなたを狙っている悪霊は、他にいます」

「は!? なんでそう思うんだ。じゃあ誰なんだ?」

「悪霊には二種類ある」


 白髪の男は立ち上がり、グラスを持ちながら、褐色の逞しい男の周囲を歩き始めた。


「一つは、誰の目にも分かる存在。魔力を撒き散らし、暴れ回る猛獣の如き者。これは分かりやすい。しかし、もう一つ」


 彼はアッキーの背後に立ち、耳元で囁くように話を続ける。


「ある種、選ばれた存在にしか視認できない悪霊がいます。霊感を持つ存在にしか目に見えない。それらは物理的な干渉ができず、呪うことのみで命を奪う。あなた達を狙っているのは、目に見えぬ怪物ですよ」


 悪寒が全身を走り回っていた。ギルドの中でも勇猛かつ大胆、若い頃はやんちゃで有名だった男が、今は震えて縮こまっている。


「まあ、ことによると、影くらいならあるかもしれませんがね」

「次の標的はミナだったよな? それは間違いないんだな? まだ俺じゃないんだよな」

「ええ、今はまだ。奴はより厄介な存在を、後に残すでしょうからね」

「とにかく、アンタがいれば除霊できるんだろ? さっさと取り憑かれてるシャムを連れてこなきゃいけないってのに!」


 白髪の男は、グラスに入った酒を眺めながら退屈そうにしている。二人の温度差は明らかだった。


「チャンスはそうはありませんよ。もしかすると、今日にもミナさんは闇に葬られ、明日にもあなたを襲ってくるのかも。私は除霊の儀式を用意しておきます。しかし、儀式の場にシャムを連れて来れるのは、あなただけ」

「分かってる! なんとかする。今度は力づくでも連れてくる。最短で準備終わらせておいてくれよ。頼んだぞ」

「かしこまりました」


 アッキーは札束をテーブルに置いて、足早にバーから出ていった。男は酒を一口飲んだ後、小さくため息を漏らした。


「馬鹿な奴ばかりだな」


 彼はシャムの元マネージャーと最後に会った男。あの時、廃墟で彼の近くにいた黒く大きな影は、今日はその場にはいなかった。


 ◇


 一時間後。すっかり夜も更けた頃、一台のステーションワゴンが人気のない駐車場に停まっている。


 彼は先ほどまで、バーで白髪の男と酒を飲んでいた。あの男とこの褐色肌の巨漢が知り合ったのは数日前のことだ。


 彼はシャムの元マネージャーが死んだ理由が分かっていると言う。


 そして自らを悪霊師と名乗り、悪霊を呼び出すことで大昔より利益を得ていた一族の末裔だなどと、にわかには信じがたい話を続けてきた。


 実はダンジョンで起こった悪霊の件は、自分とマネージャーが仕組んだものだったという。ライブをバズらせるために、マネージャーはその男を雇っていたと。


 アッキーは、まともに取り合うつもりなどなかった。しかし、男が懐から取り出したスマートフォンから、録音が流れ出した時、全てを理解する。


 どうやら男は、交渉の一部始終をこっそりと録音していたようだ。それらをどう使うつもりだったのかという意図は置いておいて、声は確かにあのマネージャーである。


 白髪の男は、今や呼び寄せた悪霊はとんでもない力を手にしており、自分以外には除霊できそうにないこと、次に殺される人も、順番も掴めていることを告げる。


 男はどういうわけか毎日アッキーのもとを訪れ、繰り返しことの重大さを語り続けた。


 話を聞くうちに、いつもは豪胆なスキンヘッドの無頼漢が、徐々に恐怖に震えるようになった。


 あまねが殺されることも事前に予告していた。男の予告では、今度はミナが殺されるという。ミナの次に殺されるのはアッキーであり、最後はシャムであると。


 アッキーは運転席でタバコを吸いながら、チャットで連絡を取り合っていたミナがやってくるのを待っていた。


 具体的な理由は語っていないが、とにかく早く来てほしいのだという。少々都会から離れた場所であり、彼女の住まいはこの近くにある。


(なんでこんな時間に、急に連絡なんてしてきやがるんだ。まさか、もう襲われていたり——)


 考えを巡らせている途中、急にスマートフォンが振動して彼は驚いた。普段ならなんでもない少しの音、少しの振動に、今は過剰に反応してしまう。


 液晶を見れば、ミナの名前が表示されている。心臓がドラムのように高鳴る中、通話ボタンをタップした。


「おう。俺、」

『今来てる!? どこなの!』

「でけえ声出すんじゃねえ。もう駐車場にいるっての。どうしたんだよ?」

『来てる。あいつが来てる』


 少しだが騒音が聞こえる。ミナはこちらに向かっているようだ。アッキーの額から汗が滲んでいる。


「あいつって誰だ」

『だから、あの……きゃああ!?』

「お、おい。どうした」


 突然の悲鳴。騒音がより激しくなったような気がした。恐らくミナは走っている。


『助けて! あいつが来た! 殺される!』

「もう駐車場にいる! 今どこまで来てる?」


 この問いかけに明確な返答はなかった。ミナの声が言葉になっていない。悲鳴なのか、何かを訴えているのかも分からない。


 ただ一つ確かなのは、彼女は今必死に逃げているということ。


(なんてこった! 何から何まで、あいつの言うとおりじゃねえか!)


 アッキーはフロントドアを開け、ひとまず外に出ようとした。しかしその時、背後から何かが近づいてくるのが見えた。


 あれはミナだと、すぐに理解できた。だが、その後ろから妙な気配を感じる。それはアッキーには見えていない。


「おい! こっちだ! 急げ!」


 必死に手を振りながら叫ぶ。女はヒールが脱げ、もはや裸足でこちらに向かっている。


 恐らくは、「助けて!」と叫んだのだろう。それが言葉にならないほど、恐怖で目が見開かれている。


 そして、車にあと少しでたどり着くと言うところで、彼女は転んでしまった。


 この時、アッキーがなんとか急いで距離を詰めていれば、結果は変わっていたのかもしれなかった。


 あっという間に悲鳴は激しさを増し、尋常ではないほど全身が痙攣している。数秒もしないうちに泡を吹いていた。


 その光景は恐れを知らないはずの大男を震え上がらせてしまう。見えない何かに、彼女はあっという間に呼吸まで止められてしまった。


「う、うわああああ!」


 気がつけば、車を走らせていた。どうにかその場を逃げ去ったが、恐怖が止まらない。


 次は俺がやられる。そう彼は確信し、理性を失い始めていた。

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