怖いのが苦手
「はぁーい! じゃあそれぞれ自己紹介していこうね。じゃあまずはあたしから、じゃーん!」
軽快にひっくり返されたフリップボードには、以下の内容が書かれていた。主に探索者としての自己紹介と言える。
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名前:
シャム
血液型:
A
好きなもの:
甘いもの、カラオケ、水泳
嫌いなもの:
ねずみ、G
探索の得意分野:
除霊
回復魔法
レイピア
探索で苦手なもの:
虫っぽい魔物が苦手
Dダンジョンに挑戦したい?:
機会があれば是非!!
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シャムのフリップボードが表示されると、視聴者達のテンションが大きく上がっていった。
:もうお馴染みだけど、やっぱ良いね!
:レイピア使いのヒーラーって貴重だわ
:分かる。ねずみは俺もダメ
:親の顔より見たデータw
:実家のような安心感
:シャムちゃんならDダンジョンだって余裕
:シャムちゃんのDダンジョン探索みたい!
:今度水泳配信してほしいです
:やっぱハイスペックだわ
:すげー
:回復魔法とバフ系って大事だよね
:シャムちゃんほどの実力者でもGは苦手か
:カラオケ得意ってだけでハイスペ
:ぜったい高校生活楽しい
:シャムちゃんと登校したい。もうおっさんだけど
:いいね!
:かっこいい
:Dダンジョンへの強い意志を感じる
「まあ、あたしの自己紹介はもうお馴染みって感じだよね。あはは! じゃー次は希空ちゃんいっとく?」
「ん、はい」
続いて希空が、抱いていたボードをひっくり返す。
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名前:
希空
血液型:
O
好きなもの:
お好み焼き、パンダ
嫌いなもの:
特にない
探索の得意分野:
剣、殴る、バフ
探索で苦手なもの:
ない
Dダンジョンに挑戦したい?:
まあ、機会があれば
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:お好み焼き好きなんだ
:得意分野がとても分かりやすいです
:自分でバフかけれるってデカいよなぁ
:だからソロでも活躍できるんだ
:パンダが好きだったのかw
:パンダ情報は初
:Dダンジョンに挑むとこ見たい!
:やっぱゴリゴリのパワータイプ感ある
:シャムちゃんとは明確にタイプ違うよね
:Dダンジョンは人数制限で挑めないか
:質問! なんでいつもソロなんですか?
「あ、あたしも気になってた質問あったー! ねえ希空ちゃん、どうしていつもソロで潜ってるの?」
シャムは画面を見つつ、気になった反応を拾っている。希空は足を組みつつ、面倒そうにしていた。
「別に。なんか合わない人多いからさ。一人のほうが気楽ってだけ」
「ふーん。あ、じゃあ気の合う人を見つけたら、パーティ組みたいって感じ?」
「どうかな。まあ、考えないこともないけど」
「そっか! じゃあ次はせんねこちゃんだね!」
「は、は、はい」
幽奈は慌ててフリップボードをひっくり返したが、シャムは笑っており、希空は「あれ?」という顔になっていた。
「あはは! せんちゃん、上下逆だよ」
「あ、ごめんなさい!」
幽奈のフリップボードには、下のような内容が書かれている。
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名前:
せんねこ
血液型:
B
好きなもの:
石、花、ねこ
嫌いなもの:
怖い話
怖い映画
探索の得意分野:
石を探すこと
服を汚さない魔法
探索で苦手なもの:
配信が苦手です
Dダンジョンに挑戦したい?:
すみません。Dダンジョンが分かりません。
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ボードが表示されてから数秒後、コメント欄が賑わい始める。カードに目を通した視聴者達は、それぞれがツッコミどころを見つけてはコメントをしていった。
:なんか普通w
:石を探すの得意なのか
:配信苦手って探索界ではきついよね
:案外普通な感じ
:Dダンジョン知らないの?
:血液型Bなんだ! Aだと思ってた
:怖い話嫌いだったのか!
:せんちゃんが一番怖いのに
:怖い話嫌いなのに、一番怖いw
:ダンジョンのほうが怖いでしょ
:せんちゃんかわいい
:ってか魔法が得意は納得
:あの魔法ってオリジナル? 全然他で見たことない
:衣服汚さない魔法ってめちゃくちゃ便利
:あの爪とかチェーンソーとか、武器も独特過ぎるところ好き
:普通に剣とか使わないの?
:あの長い爪で貫かれるところ想像すると怖い
:石どのくらい集めてるんですか?
:ダンジョン歴は?
:ってか、ダンジョンクリアしたの前回が初なの?
:すっごい気になるプロフ
「おおーー! せんちゃん、リアクションすっごいきてるよ。あたしも気になってることあったし、いくつか質問しちゃおっかな。まず武器だよね? あの爪みたいなのとか、どこで手に入れたの?」
幽奈は数秒ほど固まっていたが、どうにか頭を働かせて答えた。
「えっと。あれは、私が使いやすい武器を考えているうちに、こういうのが良いかなって作った物で。魔石を使ってるの。なんか剣とか槍も使ってみたんだけど、合わなくって」
「え? 自分で作ってるの!? 他には何があるの?」
「斧とか、糸とか、ハサミとか」
「は、ハサミ!? えーすっご! ってかそんなにあの袋に入るの」
「……うん。袋はまだまだ入る」
「へー! ちょっと見たいかも。石も見たいなぁ! 今度見せてよ!」
「……うん。今度持って行くね」
興味を持ってもらえた。その嬉しさのあまり、千個を超える大量の石を持ちこむことを決めた幽奈の考えを、シャムはまだ知らない。
ここで黙っていた希空が、つい我慢できず口を開いた。
「ところでさ。この前ダンジョンクリアしてたよね? 今までどのくらいクリアしたことあんの?」
「えっと……何度か」
すると、無口でぶっきらぼうに見える少女が、ぐいっと前に出る。
「何度か!? って具体的に何回くらい? ってかどういう規模のダンジョン? 階層は? タイムは?」
「え、え、えーと」
「希空ちゃん! せんちゃんが困ってるでしょー。また今度お話ししようよ。それより、Dダンジョンってディープダンジョンっていう場所なんだよ。知らなかったんだね」
「うん」
シャムは希空の質問の数々をさえぎった。ディープダンジョンについての話題に持っていきたいという意図が、実は配信前からあったのだ。
「ディープダンジョンって、世界でも稀に見られるとっても深いダンジョンなの。魔物も報酬も、階層の深さも別格なんだよ。まさに王道ダンジョンっていう感じなんだけど、不思議な仕掛けがあるんだ。どういうわけか、最低でも四人のチームじゃないと挑むことができないようになってるの」
ディープダンジョンについての説明は、幽奈以外は誰もが一度は聞いたことのあるものだった。
最高の報酬と最強の敵。そして一度でも消滅させることができたなら、一生の栄誉を得られると言われる。
しかし、今の彼女達はいずれも、その条件を満たしていない。
「まあ挑戦資格は他にもあるんだけどね。とにかく、そもそも入口が開かなくなっちゃって入れないわけ。あたしも、前はギリギリ入れたんだけどねー」
希空はそっぽを向いており、幽奈はきょとんとした顔のままだった。
(よし。ここで、アプローチしてみよ)
シャムは静かに深呼吸をした。そして幽奈の顔を真っ直ぐに見つめる。
「幽奈ちゃんどう? 興味湧かない?」
「あ、うん。なんか、面白そう」
「でしょー! でも、幽奈ちゃんこのままだと入れないよ。それってすっごくもったいないことだと思わない?」
「ん……ん」
「だよねー! ちょうど私も今、フリーになっちゃったし。ね、良かったら行ってみない?」
突然の誘いに、幽奈は目を丸くして驚いていた。




