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もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


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怪物と怪物

 この事実は当初こそみな曖昧ではあったが、分かる者にはすぐ分かる快挙だった。


 希空は一瞬にして自らの記録を超えたことに、驚きと嫉妬を覚えずにはいられない。シャムはただただ感心するばかりであった。


 しかし、幽奈が深層の一本道を曲がったところで、事態は大きな変化を告げる。


「あれ? もしかして、ここで終わりかもです」


 そう言いつつ進む彼女は淡々としており、特に今までと変わらないように思えた。


 だが視聴者達はそうではない。唐突に飛び込んできた閃光が、カメラを横切ってダンジョンの奥にあった壁すら破壊してしまう光景を、まざまざと目にしたからだ。


 当たれば即死、としか思えない危険な砲撃の如き一撃は、一瞬の出来事でしかなかった。


 幽奈はその閃光を前にして、どう対処したのか。


 もしかしたら直撃して、探索者としてその命を散らしたのかもしれないと、悲観的な予想がちらほらと浮かぶ。


 結果として、彼ら彼女らが予感した最悪の予想は外れた。しかし一瞬の危険すぎる奇襲よりも、幽奈の姿のほうが異常であった。


 彼女は天井に立っている。髪が逆さになり、足元だけが水色の光を発していた。


:せんちゃん!?

:生きてる?

:良かった。死んでない!

:ってか、それどうやってるんだ!?

:逆さで立ってる

:忍者ですか!?

:どうやったらこんな芸当できるんだろ

:えええええええ

:ってか、さっきの光は何!?

:もしかして、バスターじゃね?

:ああああああ!

:いきなりすぎてビックリしたわ

:深層のボス的なやつかもしれん

:もしかして初っ端からボス!?

:ヤバすぎ


「あ、これは水魔法の一種です。これで壁を登ったり、立ったりできます」


 そんな魔法は知らない。大抵の人が思ったことであり、驚愕するのも無理はなかった。


 こうしている間にも、一定時間ごとに強烈な光線が撃ち込まれてくる。それは深層でもボスクラスと評される、バスターと呼ばれる魔物に違いなかった。


 何十メートルも離れた場所から、一定時間ごとに常人なら即死してしまう光線を放ってくる怪物だ。


 ワームのような姿で、一つ目と口だけがあり、末端がダンジョンと同化しているような見た目である。


 人間を丸呑みできそうな口に魔力を溜め、数秒おきに攻撃してくるそれは、深層の序盤に登場するボスとして知られていた。


 だが、こういったボスは層の最初に現れることはまずない。


 このダンジョンが特異なものであることを、画面越しでシャムは改めて実感していた。


「ここ、一本道じゃん。幽奈ちゃん、マジやばくない……」

「ゆうな? あいつ、ゆうなっていうの?」

「ん、うん。ってか、逃げないのかな」


 シャムと希空は同じ配信で、同じことを思いながらも、幽奈がたった一人でどうやってバスターの対処をするのかが気になっていた。


 もはや心配ではなく、何かをやってくれるのではないか、という期待のほうが大きい。


 当の本人は、いたって変わらない様子だ。


 静かに天井から地面へと降り立ち、ただすたすたと歩き出した。


 砲撃を繰り返す魔物を前にして、自殺行為としか思えない行動だった。


 チャット欄では混乱している者、止めようとする者、期待する者で溢れかえっている。


 そして数秒の後、とうとう次の閃光が彼女めがけて放たれた。まさに直撃、誰もがそう感じた爆音と輝き。


 されど眩しすぎる閃光は、すぐに消え去ってしまった。


:ファ!?

:え

:あ、あああ?

:消えた?

:なんで消えたの

:ええええええええ

:せんねこ、何をした!?

:これはいったい

:どういうことだってばよ

:あの一撃を浴びて無傷って

:当たってたよな!?

:涼しい顔で進んでる

:あ、また来た!

:また消えてる!?

:ええええええええええ


 一定間隔で繰り返される死の砲撃。それが彼女に当たったかと思うと、すぐに消えてしまう。


 この現象に誰もが戸惑い、誰もが理解できなかった。ちらっと幽奈は画面を目にして、説明しなくてはいけないことに気づく。


「あ、えあっと。ドレインで吸ってます」


 魔力を吸い取る魔法であるドレインで、光線を吸い取っている。その説明は、多くの人間の理解をまたしても超える。


 しかも魔法を使う際は、杖や手を向けて放つのが基本だが、幽奈はただ歩いているだけにしか見えなかった。


 よく見れば、確かに濃厚な光線が吸い取られていることが分かる。ドレインでそんな真似ができるなど、誰も聞いたことがない。


 やがて歩き続けるうちに、バスターの本体が姿を現していた。


 ダンジョンと同じ模様をした、一眼のワーム。大きな口に魔力を集めては、一心に吐き出している。


「石もないようなので、ここで終わらせようと思います」


 さらりと告げ、幽奈は半身になって右手を前に出した。開かれた手には、黒い輝きが溢れ、その姿は怪奇とされたあの悍ましさを取り戻す。


 バスターは傍目から見ても動揺していた。無機質な魔物と思われていたが、このような反応を示すことがあるということも、多くの視聴者が知らないことだった。


 戸惑いつつも、決められた行為を止めることができない。そう言わんばかりに、バスターは渾身の光線を吐き出した。


 それは今までよりもずっと太く、大きく、まさに捨て身の一撃であっただろう。


 だが、必死になって作り上げた殺しの閃光が、一人の人間が放った黒魔法に塗りつぶされていく。


 幽奈が放ったのは、闇そのものであった。


 黒く巨大な光が、膨張しながらバスターが放った光線を丸ごと飲み込み、そのまま突き進んでいく。


 深層の魔物が放った渾身の一撃よりも、遥かに大きな闇が、画面いっぱいに広がっていた。


 そして猛烈な闇の閃光が消え去る頃には、バスターはおろか突き当たりの壁まで消し去り、一本道だったフロアがまるで大部屋のようになっていた。


:なんだ今のおおおお!?

:すげえええええええええ!

:え、え!?

:闇魔法っていうか、バスターの魔法ごと消し去ったやん

:信じられない

:化け物はここにいた

:こんなヤバい魔法使える子、他におる?

:うおおおおおおおお

:また漏らしちゃった

:あああ

:ダンジョンごと破壊してる

:強すぎだろ

:バスターの魔法を飲み込んだ感じかな

:ひーーーーーー

:もはや兵器だわ

:凄すぎ!

:まじかよ

:バケモンだああああ

:え、このまま深層クリアしちゃう感じ

:いやいやいや、ソロでしょ!?

:もしかしたら、凄まじい快挙を目にしてるかも

:おおおおおおおおおおおおお


 この姿に驚かずにいられなかったのは、シャムと希空も同じだった。


 二人とも配信画面を見たまま固まってしまい、言葉がでない。


 そして彼女達は程なくして気づいた。


 目前の駐車場にぽっかりと開いた階段。それが消え始めていることを。

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