ダンジョンを進む
「うっわー! すっごいムードあるじゃん」
一行が辿り着いた先に待っていたのは、コンビニの大きな駐車場にぽっかりとできた地下へと続く階段だった。
ダンジョンが出現した場所は、普通であれば人が寄り付かなくなる。だがSS級悪霊の噂が立って以来、むしろ野次馬が増え続けていた。
「よりによって、どうしてこんな所に出来ちまうんだろうな。ってか、もう配信すんのか?」
「うん。みんな、ちょっとだけ待っててね。マネジ、スタートして!」
「オッケー」
ストリーム配信用のカメラを起動させ、しばらくして配信がスタートした。
「こんシャムー! みんなのヒロイン、シャムでーす! さあ、やってきたよ噂の現場。超怖い悪霊が出るっていうダンジョン!」
:こんシャムーーー!
:シャムちゃーーーーん!
:今日もかわいいよシャム
:こんシャムシャム
:こんばんわー
:うへえええええ! 挨拶の爽やかさと背後のギャップが草
:こんシャムーーーーーーーー
:こ、このダンジョンは!!
:うわー!
:キターーー!
:あの悪霊がいるっていうダンジョンじゃん
:そういえばダンジョン回だったっけ!
:きゃああああ
:おおお
:きちゃー
:怖い怖い
:楽しみすぎる!
元気に手を振りながら背後にある階段を紹介していると、みるみる視聴者数が増えていった。
既に同接数が十万を超え、マネージャーはカメラ越しに笑っている。
アッキーを含む三人は、彼女の近くでカメラに手を振っていた。自分達を宣伝するチャンスを逃すまいとしていた。
「さっそく突撃したいとこだけど、まずは今日の探索を手伝ってくれる、超イケてるみんなを紹介しまーす! こっちのマッチョがアッキー! 隣にいるイケメンがあまね君、こっちのお姉さんがミナさんっていうの。みんな改めてよろしくね!」
三人がそれぞれカメラにリアクションを取り、チャット欄はさらに盛り上がりを見せていく。
:おおおおおお
:強そうな仲間だわ
:ってか、以前の探索でも登場してたよね
:ランクどのくらいだろ
:めっちゃ頼りになりそう
:真ん中イケメン
:これは最深部まで踏破しちゃう予感!
:スキンヘッドニキごっつ!
:ショートカットお姉さん好き
:バランス良さそう
:悪霊なんて一発だ
:かっこいいーーー
「お! みんなもアガってるね。じゃあ早速だけど、潜っちゃいまーす。応援よろしくね!」
挨拶もそこそこに、五人は地下へと続く階段を降り始めた。先頭をシャムとアッキーが並んで歩き、後ろに三人が続いている。
五人はそれぞれ武器や防具を身につけていた。ダンジョンに潜る場合に限ってのみ、武器を携帯して問題ないという法律の改正があり、剣や槍を手にして潜ることは基本とされている。
しかし、銃火器については法律で禁止されたままだ。もっとも、ダンジョンの中では不思議なことに銃火器が使えなくなるという現象が発生しているため、買えたところで役に立たない。
階段を降り切った後は、淡々と一本道を進んだ。洞窟そのものといった見た目をしており、一般的なダンジョンのイメージそのままであった。
途中いくつか分岐があったものの、下へと続く階段には容易に辿り着いた。さらに下へと降りようとしたところで、ゴブリンが数匹襲いかかってくる。
「おわ!」
マネージャーが軽い悲鳴をあげたが、四人は驚くこともなく淡々と小さな魔物を倒していった。
「地下一階は、全然普通だねー」
「ああ。さすがに上層には、例の化け物は出ねえだろうよ」
シャムは手にしていたレイピアでゴブリンの急所を正確に貫き、アッキーは剣で胴体ごと切り飛ばしていった。
他二人も同様に、冷静に対処して最初の戦いは終わる。マネージャーは落ち着きをなくしているようだったので、シャムは少々驚いていた。
「ねえ、大丈夫ー? まだ最初だよ」
「え? ああ、平気平気。久しぶりだったから、ちょっと驚いただけだ」
「ふーん。無理はしないでね」
他三名は彼のことを気にしている様子もなく、淡々と奥へと進み階段を見つけた。
とにかく地下一階はあっさりと終わり、地下二階、地下三階も同様に事が進んだ。
そして地下四階に降り立った五人は、少しだけ空気が変わったことに気づいた。
「お! これってもう中層来ちゃったかもね。ほらほら見て、ダンジョンの壁とかさっきと色が変わってるっしょ?」
「中層だな。ここからは骨のある奴が出てくるし、気をつけねえとな」
茶色だったダンジョンの壁に、やや黒みが増している。通路は枝分かれをしており、より複雑化していた。
先ほどまでは他の探索者と時折出会っていたが、もう人の気配は感じられなくなっている。
ダンジョンは上層までは一般人もよく入るのだが、中層と呼ばれる場所に踏み込む者はほとんどいない。
その理由は、明らかにこの先は死の危険が高まるからだった。
しかし、逆にいえばお宝が残っている可能性が高くなるため、稼ぎや配信の取れ高も上がる場所である。
一行は中層程度の攻略には慣れていた。そして迷路をいくつか進み、開けたフロアに出た時、魔物の集団と鉢合わせをしたのである。
「あ、歓迎の挨拶が来たみたいだよ。さてと、面白くなってきたじゃん」
「おうよ! お前らも気合い入れろよ」
背後にいた無口な二人はうなづいたが、マネージャーは狼狽えて返事を忘れていた。
彼らの前に現れたのは、巨大な幼虫や、骸骨の剣士、ゼリー状の体をしたスライムに、人と同じ大きさの蜂。日常生活では見られない怪物だらけだ。
「みんな、行くよ!」
:やっぱこの虫気持ち悪いよなぁ
:普通にトラウマになるわ
:まあでも、このくらいからダンジョンって感じだよね
:ガイコツと蜂は舐めプするとやばい
:シャム、がんばれー
:いけるいける!
:スズメバチって普段でも怖いのに、こんなデカくなったら無理
:ひえー
:ここからが面白い
:いけ!
:ガンバ!
:ワクワクしてきた
:ウェーイ
視聴者達も、このあたりの魔物を相手にする配信は見慣れていた。
一向は特に苦戦することもなく、十匹以上いた魔物達を倒し、価値ある素材部分だけを回収すると、また下の階へと降りていく。
次の階も同じような流れになるだろう。シャム達一行も、視聴者達もそう思ったのだが、ここで異常なほどの魔力が検知される。
シャムの顔が一瞬だが強張り、周囲に緊張の波が伝染していった。




