表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/46

鋼鉄の熊

 下層からはプロの領域。

 ネットでも現実でもよく聞く言葉だった。


 事実、下層からは一気に魔物の強さも、凶悪さも様変わりする。誰もが警戒を余儀なくされる危険な場所であった。


 しかし幽奈は、紫色になったフロアを歩きながら、傍目から見れば呑気な空気を放ったまま。


 これで大丈夫なのかと、視聴者達が半ば心配になっていたところで、彼女を歓迎する魔物が姿を現した。


「あ、やっと。逃げない魔物さんに会えました」


 それは地上では決して見ることができない、異様な体格だった。


 軽く三メートルは超えるであろう背の高さ。銀色に包まれた体。不自然なまでに伸びた爪と、大き過ぎる歯。鋼鉄熊と呼ばれ、多くの探索者に恐れられる怪物が立ち上がり、少女を見下ろしていた。


:やべえ、鋼鉄熊じゃん

:え、もう出てくんの?

:一人じゃやばくない

:もうちょっと下じゃないと出ないはずだけど

:せんねこ、逃げろ!

:これやばくね!?

:洒落にならない奴とエンカウントしたな……

:物理攻撃じゃ無理っぽいよな

:鋼鉄の体で馬より早く走るから、逃げても無駄かも

:あれ、もしかして詰んだ?

:でも熊だし、死んだふりすればなんとかなる

:逃げると追う習性があるらしいですよ!

:ソロじゃ流石にキツ過ぎる


(幽奈ちゃん!)


 シャムは画面の中にいる幽奈を見て、絶句するとともに後悔していた。


 鋼鉄熊と言えば下層でも脅威の存在であり、ベテラン探索者でも苦戦することがある。


 しかし、鋼鉄熊は下層の深いところまで潜らないと出現しないと思われており、こういった危険すぎる存在とは、まだまだ出会うことはないと考えていた。


 シャムは自分の予想の甘さを恥じた。同時に、焦りが身体中を駆け回っている。


 まして今、彼女はたった一人。どう考えても殺される可能性が高い。悪霊がどうとか疑い、結果的にクラスメイトを死に追いやってしまったら……考えるほど脳内に警鐘が響く。


「く!」


 もう間に合わないと予感つつ、シャムは家から飛び出して駅へと走った。


 全てが自分の勘違いで、幽奈を殺させてしまったら……急いで手にしたレイピアと少しの武器を携帯し、とにかく全力で駆け続けた。


 ◇


「嘘! この時点で鋼鉄熊が!?」


 時を同じくして、ダンジョンに駆け出した少女はもう一人いた。足立希空……先日悪霊に完敗し、復讐を誓うソロ探索者であった。


 あれから幽奈のUtubeチャンネルに辿り着き、アーカイブを隅々までチェックしていた。そして今回のライブも、最初から今までずっと注意深く視聴していたのだが。


「あいつが……アイツじゃなかったら。ちぃ!」


 希空が考えていたことは、シャムと同じだった。誰が人が殺されるところをむざむざ観たがるだろう。


 もう少ししたら強めの魔物と遭遇して帰るのではないか……そんなことを考えていたのが甘かった。甘過ぎた自分に怒りすら感じる。


 希空はスマホを視界に入れながら、ただ走る。自らにバフ魔法をかけ、常人では到底考えられない速さで現場へと急いでいた。


 ◇


 幽奈と鋼鉄熊はただ見つめ合っていた。


 捕食者と獲物が同じ空間にいれば、行われることは決まっている。


 巨大な熊は他を圧倒するような咆哮を上げると、四つ足になりそのまま少女めがけて疾走した。


 巨大な体を持ちながら、どうしてここまで素早いのか。熊という生き物が魔物化し、鋼鉄の装甲を手に入れたというのに、スピードは以前より上がっている。


 瞬きする間に、銀色の怪物は幽奈の側まで接近し、そのまま覆い被さろうとする。


 開かれた大口から、数多の獲物の血が飛び跳ねた。そして殺意に溢れた牙が、白い肌に食らいつこうとしたその時、視聴者達は気づけば目をつぶってしまった。


 彼ら彼女らは、人間が食われる姿を見たかったわけでは決してない。普段とは違う冒険を目にしたいのが大半である。


 だからこそ、目を開けた時に映った光景に驚いたのかもしれない。誰しもが一分に満たないその時間に、何もすることなく画面を見つめていた。


 全身が鋼鉄の如き装甲に覆われた熊が、空に浮かんでいる。最初はそう見えた光景が、少しして勘違いであることに気づく。


 鋼鉄熊は、仰向けの状態で手足を必死にバタつかせている。それは確かに浮いているようだが、実は持ち上げられているようだ。


 小さな両肩に大きな背中が乗っているが、びくともしていない。両手は胴をしっかりと掴んでおり、熊は完全に無力化している。


:ええええええええ!?

:おおおおーーー!

:嘘だろ……

:なんで持ち上がってんの!?

:何百キロあるのあれ?

:こんな細い子が、ってか大男でも無理だろこんな芸当

:すげえええええ

:せんねこ人間じゃなかった

:アルゼンチンバックブリーカーじゃん

:見た目と戦い方が違い過ぎる

:はあああ!?

:なんで立ってられる??

:どうやって持ち上げたんだよ

:人間じゃねえ

:悪霊でもこんな芸当できんだろ

:やば過ぎ!!!


 視聴者達が混乱する中、当の本人は至って呑気な顔のままだった。だが、その姿は徐々に変わっている。


 体から紫と黒の靄が溢れ出している。以前使用していた、衣服を汚さないための魔法だった。


 しかし、視聴者達からすれば、異様な変化に見えて仕方ない。そしてこの変化は、何より希空を愕然とさせた。


「間違いない! あたしと戦った時の、アイツだ!」


 急いでダンジョンに向かいながら、つい彼女は叫んでしまう。とうとう確信に変わった。


 そんな周囲の驚愕に気づくことなく、魔法で汚れを気にする必要がなくなった幽奈は、あっさりと事を進めた。


 ただ、折って曲げただけ。


 それだけで鋼鉄の体を持つ危険過ぎる大熊は、悲鳴とともに絶命した。


 腹は大きく裂け、吹き出した血が流れ続けたが、魔法により汚れない状態にしていた幽奈は特に容姿が変わらない。


 そして軽く投げ飛ばされ、地面が陥没して他の魔物達が恐れ慄く。


:い、一発で終わったのかよ!?

:楽勝すぎるだろ

:ええ

:信じられない

:俺が思うより、あるいはヤバすぎる悪霊だったのか

:あの細い体のどこにあんなパワーが!?

:力強過ぎて絶句

:すげえええええええええ

:ヒーーーーー

:おいおいおいおい

:真っ二つに折ってる

:プロレスラーだってできねえよ!

:超ビックリなんだけど

:ってか、この姿は希空と戦った時だ

:悪霊と噂されてた女と同じ

:繋がったな

:え、じゃあ何? 普通の人間なの?

:悪霊じゃなかったんじゃね

:こんな凄い探索者がまだいたなんて

:ど、同接が大変なことに

:悪霊じゃなくても怖すぎる

:ひいいいいいい

:観てるだけで怖くなってくる不思議

:この後もソロで潜るの?

:ええええ

:見た目と戦い方にギャップあり過ぎ

:武器使わないんだ……

:まさかの素手

:真のモンスター出現


「あ、コメントが……凄い。えっと、もうちょっと進みますね」


 幽奈は気づいていないが、この時同接数は二百万を超えてしまっていた。


 そしてあまりのバズりっぷりに気づくことなく、さらなる燃料を投下してしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ