表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/46

幽奈とゴブリン

 広いとはいえ、その通路は一本道。もはやどちらも気づいていないはずはない。


 しかし、事態は視聴者達にとって不思議な方向へと進んだ。


「ギャギャ、ギャーギャ」

「ギャギャギャ? ギャ、ギャ」


 ゴブリン達はそれぞれが剣や棍棒、槍に弓といった多彩な武器を携帯していた。数も十匹以上はおり、たった一人の人間相手なら恐れはしない。


 すぐさま目をギラつかせて襲いかかってくる、そう誰もが思っていたはずなのに。


「私、やっぱり気づかれてない……」


 幽奈は寂しげにボソリと呟いた後、静かにゴブリン達の横を通り過ぎていく。


 凶暴かつ知性に優れた魔物は、たわいのない世間話をしているように見える。彼女とすれ違っても、特に気づく様子もなかった。


 背後から襲われるか? そう心配した視聴者達も多くいたのだが、そのまま何事も起こる気配がない。


:え?

:なんで気づかないんだ?

:いやいや、気づいてるんじゃねえの

:襲われてないってどういうこと?

:普通ここで殺し合いが始まるんですけど

:分からん

:せんちゃんってば空気過ぎ!

:目の前にいるのに気づかれないって……

:信じられん

:なんで? なんで?

:分からん

:怪異やろこれ


 コメント欄も疑問符だらけ。当の配信主は、慣れたそぶりだがどことなく寂しげだ。


 画面の外で眺めていたシャムは、この異常な光景に目を丸くしていた。正面にゴブリンが大勢いるというのに気づかれないなど、ありえるのだろうか。


「私、いつもこうなんです。でも、戦わないなら、それに越したことないです……あ」


 その時だった。すれ違いざまにゴブリンが、ふと剣を落としてしまったようだ。微かに手が震えていたことに、気づいた者はほとんどいない。


「ギャ、」


 この時、剣を落としたゴブリン集団の最後尾が微かに声を漏らした。


「落としたよ」


 なぜか剣を拾って魔物に渡そうとする幽奈を見て、持ち主は固まった。


 そして次の瞬間。


「ギャギャアアアアーーーーーーー!」


 絶叫しながら必死で走り出してしまった。


「あ」

「ギィイイイイ!? アアアーーーー」

「ギヒュウウウウウウウウ!」

「ギャギャギャギャーーーーー!」


 幽奈が剣を手にしたままぼうっとしている間に、恐怖が魔物の集団に伝染していく。いつの間にか全てのゴブリン達が、我先にと暗闇の中に走り去ってしまう。


 実はゴブリン達はとっくに気づいていた。しかし気づかないフリをして、この場をやり過ごそうとしていた。


:w w w w w w w

:なんだ今の!?

:草

:こんなゴブリン達初めて見た

:戦わずして勝ったんだね

:演技だったんかい

:そりゃ目の前にいて気づかないわけないよね

:逃げ足早過ぎ!

:もはや大草原

:みんな笑ってるけど、これすげえ現象だぞ

:w w w

:ってか、戦う前からあんなにビビらせてんの凄くね!?

:普通誰相手でも戦うと思うけど

:ゴブリンからも悪霊だって思われてる

:せんちゃん

:必死のゴブリン演技が崩れ去った瞬間

:魔物だってビビるんだから、やっぱ悪霊だよ

:ひいいい

:草すぎ

:もしかしていつもこうなの?

:普通に戦うとこ見れると思ってたら予想外

:やべえ!

:ゴブリンだって怖いんだよ


 チャット欄はこの珍事に盛り上がっていたが、シャムだけは見る目が違っていた。どんなに強い探索者でも、初見のゴブリン達は普通に戦っていたはずだ。


 なのに、奴らは幽奈には決して挑もうとしていなかった。


 シャムの額に冷たい汗が流れ落ちた。彼女はやはり悪霊ではなかったかもしれない。しかし、もしかしたら、それ以上に……。


 多くの思惑が交差する中、さっきよりも悲しい顔になった幽奈は淡々と奥へと進んだ。


「まるで化け物を見るみたいに……。ひどい。でも、いつもなので、慣れてきましたけど。け……ど!?」


 幽奈はチラリと配信用の機材を見て固まった。いつの間にか同接が百十万を超えている。


「ま、まだ増えるの!? 怖い」


:あたしはせんちゃんのほうが怖いよ

:同接数にビビってるのかわいい

:こうして見ると可愛い女子

:ギャップやば過ぎ

:本当にこの子が希空を蹴散らしたん?

:実際強いのかはまだ未知数だけどな

:がんばれせんちゃん!

:全然強そうには見えないけど

:応援してるぞー

:やっぱ悪霊なんだって

:怖い怖い怖い

:謎が謎を呼びすぎ

:声がなんとも涼しげ

:ビビりなのか勇気あるのか分からんw

:どんどん降りよう

:これからがマジ楽しみ

:がんばれー!


「あ、あわわ」


 動揺とコミュ力低の低さが相待って、いよいよ何を話していいか分からなくなってくる。しかし、ここで配信を終えるわけにはいかない。


 だがここで、彼女を鼓舞するかのようにスマホが振動した。


シャムちゃん:幽奈ちゃん落ち着いて! 今のところ超いい感じだよ。ここで辞めたらもったいないよ

:うん。がんばる


 初めて友達になってくれそうな女の子が、自分を応援してくれている。幽奈はダンジョンの下へと降りる決心をした。


 次から次へと魔物は現れるが、いずれも逃げてばかりという異常な光景が続いていく。視聴者達にとっても、信じられない現象ばかりだ。


 そして気がつけば、下層と呼ばれる危険水域に踏み込んでいた。たった一人で。


 先程まで逃げるだけだった魔物はいなくなり、ここからは殺意に溢れた魔物ばかり。


 シャムは喰いつくように画面を注視している。問題はここからだ。


(幽奈ちゃんの正体も、ここなら分かるはず)


 紫色の通路に降り立った少女を、幾つもの凶暴な瞳が睨みつけていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ