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もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


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シャムの元マネージャー

 こんな筈ではなかったのに。


 全てあいつのせいだと、彼は強い憤りで胸をいっぱいにしていた。


 幽奈が雑談配信をした日の深夜。とある汚い路地裏のビルに、一人の男が小走りでやってきた。


 周囲を見まわし、人目がないことを確認してから入ったビルの中。暗く汚れた廃墟の中を、彼はただ歩き続ける。


 そして広い部屋の真ん中まで来ると、ソファに腰掛けている男に、鼻息を荒くして詰め寄った。


「おい! 一体どうなってんだよ!」

「おや、これはこれは。敏腕マネージャーさん」

「お前のせいで、俺はマネージャーをクビになったぞ。どういうことだ! 話が違うだろうが」

「おや、元敏腕マネージャーさん、とお呼びしたほうが良かったかな」

「黙れ! どういうことなんだって、聞いてんだよ!」


 彼は二階堂シャムのマネージャーだった男である。


 というのも、先日のダンジョン配信でシャムを捨てて逃げ出したことで、出勤するのも怖くなった彼は無断欠勤を続け、会社をクビになっていた。


 しかも今回のことで、運営上のスケジュールを変更しなくてはならなくなり、その損害賠償も請求されるかもしれない。


 会社をクビになった上でどういった損害を被ることになるか、またその損害を回避することができるのか、ハッキリとしたことは分からない。


 だからこそ、彼は不安と憤怒で身を焼かれる思いだった。


「話が見えませんなぁ。どういうこと、とは?」

「あ? 惚けんじゃねえよ! ちょっとした悪霊をけしかけるって話だったろうが。それがなんだよあれは! シャムやあいつらが手も足も出ねえレベルの化け物を寄越しやがって!」

「ククク……なんだ。そんな話でしたか」

「ああ? お前舐めてんのか」


 ソファに座る男は、元マネージャーがいくら凄んでも態度一つ変化がない。適当に用意したテーブルに置かれたウイスキーのグラスをあおりながら、ただ笑うのみだった。


「あれは私のミス、とあなたはお考えのようですが、それは間違いです。私はたしかに相応の悪霊を呼び寄せる術を用いて、あの舞台をセッティングした。しかし、舞台には想定外の出来事が起きることは、回避し難いことなのです。誰のせいでもありませんよ」

「ふざけんな! いくら払ったと思ってる」

「値段に応じた……いいえ。値段を超える仕事をしたと思っていますがね。あの噂の存在がいなかったら、悪霊は融合などすることはなかったでしょう」

「融合?」


 マネージャーには、男の話していることが理解できない。話を逸らして誤魔化そうとしてるに違いないと、頭から決めつけるばかりだった。


「私が呼び寄せた術式では、本来呼べる悪霊の数は四体が限度でした。しかし、あの噂の悪霊がいたことで、他にいた多くの悪霊達が逃亡を図り、無数の融合をするという……これはまた。過去類を見ない現象が起こってしまったわけですな。いや、私も不謹慎ながら興奮しましたよ。あのような現象をお目にかかれるなんてね」


 男が淡々と話を続けるなか、元マネージャーは震えていた。これが怒りによるものか、土砂降りの雨に濡れたせいかは自分でも分からない。


「何をごちゃごちゃ言ってる。お前が失敗したことは変わらないぞ! どう責任を取る気なんだよ」

「責任? 私になんの責任があるのでしょうね」

「はあ!? お前が失敗したも同然ってことじゃないかよ!」

「おやおや。話を聞いておりましたかな。もしや、あまりにもお辛い現実を前にして、冷静な判断が欠けてしまったのではないでしょうね。いや、あなたの近況を思えば、同情しないこともありませんがな」

「この野郎!」


 男は堪えきれず笑った。とうとう怒りを抑えきれなくなった元マネージャーは、片手で胸ぐらを掴み、思いきり殴りつけようとする。


 しかし、握りしめた拳は、振りかぶられたままで動かない。殴ろうと振りかぶったままで止まっていた。


「が……あ」


 男はただ、睨みつけているだけ。しかし、その奥から滲み出る怨みの波動が、元マネージャーの心を震え上がらせていた。


 気がつけば手を離し、異様な雰囲気を持つ男から後ずさっている。逃げ出したい、そんな恐怖が脳裏を掠めた。


「野蛮な真似はおやめなさい。お互い、立派な社会人なのですから」

「り、立派な社会人だと! どの口が言ってやがる。日陰者の悪霊師なんかがよ! 覚えていろ、このままじゃ済まさないぞ。お前のことをリークしてやる。絶対に後悔させてやるからな。もう土下座したって許してやらねえぞ!」


 元マネージャーは渇いた口で、精一杯の否定をした後、逃げるようにビルから走り去った。


 男はなんのことはないとばかりに、残されたグラスを飲み干した。


 だが、影はもう一つある。ビルの柱に隠れていたそれは、静かにソファの男へと語りかけた。


「口止め、する?」

「……」


 男はただ黙っていた。


 彼は根っからの日陰者であり、公に知られることは許されない存在。悪霊を浄化するのが除霊師なら、彼は対の存在とも言える。


 元マネージャーは一つのつてがあり、この男に裏で仕事を頼んでいたのだ。シャムの配信をこれ以上ないほどにバズらせる為、彼女には内緒で仕込みを入れたいと。


 その暗躍が仇となり、元マネージャーはこの日、短い生涯を終えることになった。

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