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もはや都市伝説と化した最恐探索者、超有名アイドル配信者を救ってバズり散らかしてしまう  作者: コータ


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蘇る恐怖

 その後、シャムは少しの間だけ幽奈から時間をもらうことにした。


 どうしても確かめたい。近くにある人気のない公園で、二人は話の続きをすることにした。


 幽奈はブランコに座り、あの時のことを淡々と語り始めた。


 一つ下の階にいたら悲鳴が聞こえてきたこと。見に行ってみたらシャムが捕まっていたので、悪霊を倒したこと。そして一人っきりになり、カメラを拾ったこと。


「大丈夫? って声かけようとしたんだけど、ごめんね。怖かったよね」

「ああ……あの時、心配してくれてたんだ。……って、ちょっと待って! やっぱり信じられないよー!」


 幽奈が嘘をつくとは、どうしても思えない。しかしあの時見た女と、今の彼女はまるで別人だ。


 今でも鮮明に思い出せる、あの禍々しい姿。確かに髪は長いし身長も同じくらいだが、本当に同一人物なのか。


「どうやってあの悪霊をやっつけたの?」

「ん……ドレインっていう魔法」

「え? それって魔力とか吸収する魔法でしょ。あたしも知ってるけど、あんなに吸収できたりしないはずだよ」

「なんか、いつの間にか吸える量が増えたっていうか」

「吸える量が増えた?」


 辿々しい説明に、隣でブランコを漕ぎながら聞いていた少女は戸惑ってしまう。


 ドレインとは魔力を吸収する珍しい魔法だ。ダンジョンでは魔力が重要になり、魔法を使う時は必ず消費してしまう。


 ドレインさえあれば多少は魔力を補充することができるため、便利ではある。


 だが、一度に吸収できる魔力量は微々たるものであり、しかも使用した後は一定の時間が経過しないと再使用できない。


 使い勝手が悪い魔法の代表とも言われている。


「じゃあ、あの姿は?」

「えあっと。魔法を使っている時とか、ああなっちゃう時があるの」

「ふーん。今も、あの姿になれたりする?」

「……うん」


 ここでシャムは徐々に高さを増していったブランコから飛び降りて着地すると、幽奈に手招きをした。


「見たい。見せて」

「え、え!? ここで?」

「うん。今なら誰もいないよ」

「でも……」

「大丈夫大丈夫! ちょっとだけ見せてくれたらそれでいいの。あたし、ここまできたら見ないと帰れないよ」


 ブランコに座ったまま、もじもじしている幽奈は、クラスメイトの押しに結局負けた。


 周囲に人がいないか確認しながら、ゆっくりとシャムの前に足を運ぶ。


 気がつけば、二人はまるで果し合いでもするかのように向かい合っていた。


 あのダンジョンで見た光景を思い出し、シャムは緊張で笑顔が消え去り、幽奈は下を向いて無表情になっている。


 いつもクラスで隠れるように過ごす少女は、今はだらりと体を前傾させ、脱力しきった奇妙な体勢になった。


「変わった構えだね。それでそれで?」


 シャムは余裕の笑みを作っていたが、思わず体が構えてしまう。無意識に何かを感じているのだ。


 しかし、特に何も変わった様子がない。幽奈はただぶらんと腕を前に出して、だらしない姿を晒したまま。


 もしかしたら、このまま何もないのかも。夜風が公園に吹き、わずかに肌寒さを感じた。


(全部あたしの勘違いだった? 幽奈ちゃん、もしかして魔法できないのに頑張ってる?)


 しかし、もし幽奈が普通の女子であったなら、自分よりも下の階層に一人で潜れるだろうかと、シャムの悩みは膨らむ。このままでは、いたずらに時間だけが過ぎる気がした。


「緊張しちゃってる? ごめん! やっぱりやめ——」


 止めようとしたその時だった。周囲の土が微妙に揺れている。わずかに吹いていたはずの風が徐々に強さを増している。


 夜の闇が濃くなった気がした。ありとあらゆるこの変化は錯覚なのか。シャムは少しずつ、目前にいる少女から魔力の息吹を感じ始めた。


「——は……?」


 思わず息を止めてしまう。渦巻く黒炎のようなオーラが、細く頼りなげな幽奈の体から湧き上がっているようだった。


 それは徐々に青と黒の奇妙な雷と瘴気に変化し、瞳は赤く輝いている。あの時ダンジョンで出会った……いやそれ以上の悍ましさを、幽奈はさらけ出していた。


 一瞬のことだった。ただの一瞬で、シャムが測りえる魔力の大きさを超えた。


「あ、あああ」


 脳裏に蘇る地獄。悪夢は何度見ても悪夢だ。


 気がつけば怪物となった少女から目を離せないまま、地面にへたり込んでしまった。


「エ、ダイジョウブ?」


 魔力を止めて普通に戻った幽奈が駆け寄るも、しばらくは呆然としたまま動けない。


 シャムは理解するしかなかった。幽奈がダンジョンで出会った脅威の存在であることを。


 ◇


 電車が優しく揺れている。もうすぐ最寄駅に到着するという頃だった。


 さっき別れたばかりのクラスメイトから、一通のチャットが届き、友達に飢えていた少女はハッとしてスマホのロックを解く。


シャムちゃん:さっきはぼんやりしててごめん! ってか、幽奈ちゃんマジ? やばすぎでしょ


 こういうチャットが来たらどう返せばいいのだろうか。よく分からないまま、幽奈はそれでも嬉しくてすぐに指先を動かす。


:ううん。とっても楽しかった。私、やばい?


 すると、シャムからすぐに続きのチャットがくる。


(と、友達……になれたのかな。私)


 ただ少しのやり取りだけで、もう幸せで胸いっぱいになっていた。


シャムちゃん:ヤバすぎ! そういえば、あのバズってる噂のアカウントも、幽奈ちゃんなの?

:バズってるアカウントって?


 数秒して、UtubeのURLが送られてきたので開くと、自分のUtubeアカウントが表示された。


:これ私の!

シャムちゃん:ビンゴ! ねえ、あれから配信してないみたいだけど、やんないの?

:ちょっと、怖くなっちゃって

シャムちゃん:なんで?

:急にみんな観るようになったの

シャムちゃん:えー、いいじゃん! きっと楽しいよ。ねえ、ちょっとだけ、配信してみたら?


 幽奈は迷った。もうログインもやめよう、そう考えていたアカウントだ。


シャムちゃん:観たいなー!

:雑談とか、ちょっとなら

シャムちゃん:いいじゃん! やろー!


 戸惑いつつ、幽奈はその提案に応じることにした。シャムをがっかりさせたくない、そう思う気持ちが勝ってしまった。


 この時、彼女は高校で初めて親しくなったクラスメイトのことしか頭になく、自分がまた大きな騒ぎを起こしたことなど知らない。


 実は先ほど街中で見せた膨大な魔力が、周囲に一時的に停電や地震といった怪現象を起こしていたのだが。この事はまだシャムも気づいていない。


 騒ぎは確実に大きくなり、実は幽奈のUtubeアカウントは猛烈な勢いで登録者が増え続けている。


 いずれもまだ知らない。本人は先ほどのシャムとの会話を思い出して、一人ニコニコ笑っている。


 そして次の日、彼女はなんの前触れもなく、唐突に雑談配信を始めることにした。

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