表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

01-4

それは「持ってはいけない」記憶



…波の音がする。

ゆっくりとセオが目を開けると、そこは見覚えのある景色だった。

いつもそこにあった、今日も部屋のベランダから見えていた、あの景色。


「…家の前の海だ…」

記石に残された記憶、それは海であった。

どこまでも、ただ必然のように存在する、青く澄んだ、海。


「…はっ」

気づけば自然と息を吐いていた。いや、詰まらせたというべきか。

これが、こんなものが、


「あんたが『もっていかなかった』記憶だとでも言うのか!!!ふざけんな!!!」

たまらず目の前の海を蹴りつける。怒りのままに。あるいは悲しみのままに。


「なぜこんなものを置いていった!?なぜ!?!?あんたが置いていくべきだったのは…!こんなもんじゃ…!!」


そのままセオは項垂れ、膝が砂と密着した。砂浜に流れてくる海水にズボンが汚れる。その感覚すらも妙にリアルで、ますます苛立ちは増すばかりだった。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


カイキシャの魂は、海によって浄化され再び生まれ変わる。

しかし人の本質は変わらない。

生前好きだった本があるとするなら、生まれ変わってもその本を好きになる。

動物が好きだったなら、再び犬や猫を飼う。そんな風に。


ただし一つだけ例外がある。記石だ。

カイキシャたちが残していった記憶に紐づくもの、つまりその時好きだったものや己の性質を記石に残した場合、それはなかったことになる。

簡単に言えば、好きな本の記憶を残していったのなら、次の人生では本に興味を示さない人生となり、犬の記憶が残されていたならば、その者は次の人生で犬には関わらない日々を送ることになるだろう。


記石は、ある意味ではその者の本質を一つ消してしまう忘却の石のようなものなのである。



「あんたは…海が好きだったじゃないか…」

セオは項垂れたまま、力なくつぶやく。


飯凪慎一郎(いいなぎしんいちろう)という男は、海を眺めるのが好きな男であった。

いつも暇さえあればベランダ近くの椅子に腰かけ、太陽の光に、あるいは月の光に照らされる海を、ただじっと見つめていた。

「慎一郎は海が好きなのか?」

幼い頃、まだたどたどしい言葉でセオが聞くと、慎一郎はうっすら笑って、

「そうだね、海を見ていると落ち着くんだ。君も一緒に見るといい」

とセオを抱き上げ、二人で海を見つめる。

「いいなー!僕も抱っこして!!」

「いいよ、皆で見ようか」

そう言って、駄々をこねるルカも抱き上げる。細くて白い、自分たちを育てた手。

「あはは、二人ともまた重くなったね」

と穏やかに男は笑う。

「兄さんよりもまた背伸びたからね!いつかおっさんよりも大きくなるよ!」

「なっ!俺だってまだまだでっかくなるんだ。大体弟が兄より背高いなんておかしい!」

「えー!おかしくないやい!兄さんはいつもそうやって『なんくせ』付けてくる!」

「つけてないだろ!」

「つけてるもん!」

言い合う幼い双子を、慎一郎はじっと見つめた後、

「そうだね、いつか二人が、僕よりも大きくなる日が来るといいね」

「そこは『僕よりも大きくなってね』って言うべきところだろ慎一郎!」

「ほらー!そうやっておっさんにも『なんくせ』つけるー!」

「だから違う!」「違わない!」と、再び小競り合いを始める双子を、男は優しく見守る。

その顔が、そのぬくもりが、なんでもないその時間が。ずっと、


「…あんたが置いていくべきは、俺たちの記憶だった。」

セオは、残されるのなら、きっと自分たちの記憶なのだろうと思っていた。

人間ではない、意味の悪い双子の記憶。

「…どうしてなんだよ…!あんたも…!大家だって…!!」

何で皆、俺たちを忘れようとしないんだろう。

知りたいのに、聞きたいのに。一番真意を問い質しかった男はもういない。


あの日、いきなり海に行けと言われた日。まさか数年も家に帰れなくなるとは思いもしなかった。

否、帰ろうと思えば帰れたんだ。けれどそうしなかったのは自分だ。

意地を張っていた部分もある。勝手に捨てられた気分になっていた。その苛立ちから、慎一郎に会いに行こうとはしなかった。


でも、本当はずっと怖かった。本当は慎一郎は俺たちの存在が邪魔で、だからあの封筒が来たことをこれ幸いとして自分たちを追い出したんじゃないかと。

本当は自分たちの事なんて、どうでも良かったんじゃないかと。


「…っ!」

服に、水滴が染み込む。

声を殺し、拳に力を込める。


そこにあるのはただの海。当たり前のように存在する、どこまでも青い海。

それが何を意味するのか、セオには分からない。

ただ少なくとも、自分たちが「消したい記憶」ではなかったことに安堵してしまう自分に、何も聞けなかった自分に、どうしようもなく、腹が立って仕方がなかった。






お疲れ様です。柏田です。

…えーお分かりの通り前回言ってたこと何一つ守ってないですね!!!ごめんなさい!!!

え!?慎一郎の真意は!?双子の容姿は!?!?となった方、本当にすんません。

書いてるうちになんか違うなと思ってしまってですね…最初に言った通りの見切り発車ぶり、生かされちゃってますね。良くないですね。

その時の気分でここ書いちゃってるんで、あんま参考にしない方がいいです。はい。

次回も双子の容姿挟めそうになかったらここに書いちゃいますね(傲慢)


慎一郎についても、多少書くことにはなると思います。でも彼の過去がどうこうっていうのは、あんまり詳細に書くつもりはないです。もちろん考えてはあります。


ちょくちょく修正とかも入るかもなんで、温かく見守っていただけますと幸いです。

最近少しずつ読者の方が増えているようで大変嬉しいです。いつも励みになってます!ありがとうございます。


次回へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ