第一章-5
店を出て直ぐに抱き上げられたミナは、慌てて体を叩き抗議をしてロディの腕の中から快く下ろしてもらった。
曰く、食べたばかりで揺らされると気持ち悪い。
仕方なくロディが妥協して手を繋ぎ、ロディとミナは祭りの賑やかしへ戻った。祭りは変わらず人々の笑顔と喧騒を引き起こしている。
周囲が自分たちに注目していないことを確認して、ミナはようやく気になっていた「色付き」とやらについてロディに聞いた。
「ロディは知ってる? 色付き」
店主の物言いから良くないものであることは察せた。それがどの程度かは分からないが、少なくともあのまま店でその話をする雰囲気ではなく、店の者だけでなく客までもが視線をミナ達によこしていたのでミナは直ぐに聞くことをやめたのだ。
あそこでそのまま話をする度胸はミナには無かった。
ロディは少し間を置いて、あいまいな返事をする。
「……一応。言葉を理解した時に、ある程度はその意味を解らされた。気味は悪いが、重宝してる」
「言ってたね……すっごい便利。なんか人間の私よりも物知りだもん」
「そうか?」
「えっと、それで?」
ロディは答えない。
ミナが焦れて繋いでいる手を引くと、遠くにあった顔がミナの方を向いて少し近づいた。意図を察したミナが足をゆっくりと道のはしに寄せて止まる。
ロディが背中を曲げて唇をミナの耳に寄せた。息がくすぐったい。
「……定義だけを言うなら、髪に強く色がついた者の事だ。街に入る前の列にも居ただろ」
「薄いピンクとか水色の髪の人?」
「まあ、そうか? 色の度合いは知らないが、とにかく髪に色がしっかりと着いていたら、色付きと呼ばれる」
「へえ…」
そのままのネーミングセンスで分かりやすい。髪に色がついているから色付き。
ミナは布に隠れているロディの髪色を見上げて、「ロディは?」と聞いた。
「俺か?」
「ロディは色付きになるの?」
「ーー違う」
怒気混じりの明確な拒絶に、ミナは思わず手を離した。ミナの反応にハッとしたロディが追いかけるようにミナの手を直ぐに絡めとって、そっと謝るように背中を撫でた。
一瞬開いた距離が、すぐに詰められる。
「ごめん」
「あ、いや……ご、ごめんね?」
訳が分からないままでも、ミナの言った言葉が癇に障ったのは明らかだった。悪い意味だと知っていて、考えればわかる事だったのに軽率に何も考えずに口にしたのだ。
悪気が無いことなんてロディも分かっていて、ミナの身体を撫でながら首を振る。少なくとも、ミナに怒った訳じゃない。
「色付きは、蔑称なんだ。ミナにその意図が無いことは分かってる。……俺が気にしすぎた」
「なる、ほど。そっか……神様の色だから白い髪に誇りを持ってるんだもんね」
「俺は理由が少し違うが、そうだな。人間はそこに重きを置いている」
今度はロディの言葉をちゃんと噛み砕いて、頷いた。
そう言えば月と太陽の神様を信仰している彼らは、白い髪を大切にしているのだろう。そんな髪が他の人とは違って白くないと、何かしらの疎外感や絶望に襲われるものなのかもしれない。
道のはしから往来を見上げると、そこかしこに白髪の人が歩いている。遠目からはみんな綺麗な白にしか見えない。そんな中にも色付きだと分かる人は稀に居て、ミナは彼らの表情がどこか暗かったりフードや帽子で隠していることにようやく気づいた。
ロディもそう思われているから、布を目深に被ってもそこまで異端の目で見られないのだろう。
黙っているロディを見上げて、こちらを見ていた目と目が合う。
じゃあ、と続けかけた口は先程の怒気混じりの言葉を思い出して止まる。そのかわりに、手のひらを強く握った。
「お店、見に行こ!」
お祭りの華やかな雰囲気を取り込むように明るい声を出して笑う。
少しわざとらしがったが、ロディは何も言わずに乗ってくれた。
そのまま1番近くにあった店を覗き込んで立てかけられているコルクボードの雑貨を見る。
小さなリースが3つ連なるように編んであり、周囲を色々なもので飾ってあるストラップだ。少し大きめなので壁に飾ってもいい。
「うわぁ、可愛い。これ、うろこ?」
リースを飾るキラキラとした宝石のような石は、先端に穴を開けて編み込んだうろこのようだ。ほかにもラメがかかったものや花の飾りもある。
「おっ、お目が高いねぇ! ウチはちゃーんと本物の人魚のうろこを使ってんだ。他とは違う一級品だよ!」
男が嬉しそうにミナの見たストラップを手にして、うろこを見せる。
ミナはそれを覗き込んで「人魚…」と異世界ならではの生物に思いを馳せた。
「人魚のうろこ、綺麗ですね」
「そうだろう、そうだろう! これはまだ小さな人魚のうろこを贅沢に装飾用に加工してるからなあ。その辺のとはこだわりが違うんだよ!」
「小さな……。何が違うんですか?」
「そりゃお姉さん、色が違う。ほら、見てみな、淡く透明感のある澄んだ色をしてるだろ?」
「おお…」
上手い営業トークにミナは引き込まれるように「確かに…」なんて騙されやすそうな返事をする。
でも確かに、見れば見るほど綺麗だし色が美しい。差し込む太陽の光は反射してミナの顔にうろこの影を映した。
値札をみてお祭り価格らしく少し高めではあるが、払えないものでもないことを確認する。
ミナはロディを振り返って「ロディはいる?」と聞いた。
「…買うのか?」
「うん。せっかくだし、綺麗じゃない?」
「そうだな……、俺はいい」
優しく頭を撫でたロディに頷き、一つストラップを買う。つける物もないのでこのままバッグでも買いに行こうかと店を探すことにする。
「何か欲しい物とかないの?」
ストラップは確かにロディが持つには可愛すぎるし、今更つける場所に悩むミナを思うと二つあっても困ったかもしれない。そうなると、ロディにも何か買ってやりたい気持ちが湧いてミナは聞いてみた。
必要なものは沢山あったが、それよりもミナはもっと必要じゃないけど欲しいものを買いたかった。
「……じゃあ、ミナの服を買いに行こう」
「え?」
「そこら辺の人間を見る度に思ってたんだ。ミナの着飾った姿が見たい」
「……ええ?」
予想だにしないロディの明け透けな言葉に押し黙る。本気?なんてつい顔を見て、直ぐにやめた。前にもこうやって後悔した気がした。
顔が赤い自覚があったミナは手を繋ぎながらもそっとロディの後ろに隠れるように歩幅を遅らせた。
全くこのドラゴンは!なんて悪態を吐きながらも恥ずかしくて何も言えずに変な感嘆だけを呟き、ミナはどうにか「ロディのもね」と返した。




