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09 ヴァイブセイバー

「おほぉん! 頭が高ぁい! 麻呂は時の大将軍、麻呂植上時端芽まろのうえのかみときはめにおじゃるぞ!!」


「いや、あの、さっき聞きましたけど…」


 最新話しか見に来ない読者のために、時端芽は再度名乗りを上げる。


「そして此れが麻呂の愛馬! “パカ之進”におじゃる!」


「ヒームヒムヒムヒム!!」


(……馬?)


 時端芽のやや後ろにいた白いアルパカみてぇなのが痰唾を吐きながら大爆笑する。


「あの、王様なんですよね?」


「左様。麻呂は紛う事なく、このアハハーンの城の名代にして超幕府、征夷関白大将軍におじゃる」


「……」


「王様ですぞ」


 胡乱な顔をしているピエルロに、大臣がこっそりと耳打ちした。


其方(そのほう)、大魔王ネギトロドンなる悪鬼羅刹を討伐しに参った勇者と聞くが本当かえ?」


「ハッ! ここに履歴書がございまする!」


 ピエルロが答える前に、大臣が懐から件の茶封筒を取り出す。


「ほう。どれ、拝見してしんぜよう」


 時端芽が袴をずって前に進み出ると、大臣は履歴書を開き、よく見えるようにと近づけていく。


「ムムッ!?」


 時端芽の最初からどこかにイッてしまわれている双眼が、さらにどこかにイッてしまわれるほどに寄り目になる。


 そして、ダラダラと大量の汗が額から揉み上げを伝わり、なんなら白化粧も落とさんばかりの濁流となりかける。


「殿?」


 大臣が不思議そうに尋ねるのに、ピエルロは「やっぱ殿様じゃん」とは思いはしたが口には出さなかった。出しても良いことはなさそうだったからである。


 さてはて、時端芽がなぜ固まったかと説明しなければなるまい。


 時端芽はピエルロの経歴に、『モノホンの王族』とあったからこそ固まってしまったのだ。


 そう。もはや説明するまでもないが、時端芽は実は異世界転移者であり、とある悲しい事故によりこの世界へと飛ばされ、とある家電屋の息子として生活していたのだが、かつては雅な貴族な暮らしをしていた時端芽には接客業などできるわけもなく、単3電池と単4電池の違いも知らぬまま、仕事もできない穀潰しだと親に虐待される陰鬱の日々を過ごしてきたわけで、そんな絶望する日々の中、王様の弟の双子の妹の隣に住んでいたババアの知り合いの家電屋の息子という奇跡的な血縁事情に気付き、真の王族を隠すために影の王として今の地位を確立したわけなのである。


 そして屈辱の人生から一転、過去の世界のような超幕府を立ち上げ、威光を取り戻してこれから…という、今はそんな大事な時だった。


 ぶっちゃけ、今の地位が惜しいのだ。


 八時頃に全員集合させとけば満足するチョロい臣下たち。その他のことは目をつむり、時端芽がしたいようにさせてくれる、そんな黄金に輝く蜜月の日々だった。


(ゆ、許さぬッ。どうしてこんなポッと出の小童が正当な王族だなどと認められようものか! これも偽造履歴書に相違ない! 麻呂の地位は盤石にして不動! なれば、勇者としてとっとと旅立たせてしまうが超吉におじゃる!)


「あ、あの…」


 小1時間ばかり長考あそばされている時端芽公を不審に思ったピエルロが声をかける。


「おっほん! なんの後ろ盾もないのに大魔王退治とな? まっこと天晴におじゃる!」


 てっきり誅されるのかと思っていたピエルロはわずかにホッとする。


「なにかと入用であろう! どこぞ異国の王のように、木の棒切れと50円だけなどとしみったれたことは言わぬでおじゃる! じい!」


「は! これに!」


 大臣が玉手箱を掲げ、「これは南蛮より取り寄せたる〜」などと口上を並べ立てまつるが、それを無視して時端芽は玉手箱をパカンと開く。


 さてはて、70〜80年代にアニメーションにあるあるの如く、玉手箱の中からレーザービームの照射音と共に、黄金の光が放射線状に吹き出した!


「こ、これは…」


「伝説の剣“ヴァイブセイバー”におじゃる!」


 玉手箱からゴージャスチックな黄金の両手剣を取り、時端芽は宣われる。


「ゔ、ヴァイブセイバー…」


「ここを押すと振動する!」

 

 時端芽が柄のボタンを押すと、ヴゥーインという安っぽいモーター音と共に刀身が震える。


「こ、これはよく物語で出てくる、超振動でなんでも斬れるようになるという…」


 ピエルロはSF小説の知識を披露したが、時端芽も大臣も揃って小首を傾げる。


「そんな機能はない。これは戦いの疲れを癒すリラックスマッサージ機能におじゃる」


「殿! 某に近づけては…あんッ♡ ンギモヂィィィッ♡」


 大臣の肩にヴァイブセイバーを当てると、大臣はアヘ顔ダブルピースで痙攣する。

 時端芽は弱・中・強の切り替え方法を説明するが、ピエルロは唖然とした顔でそれを聞いていた。


「あ、あの…」


「それと金子5,000円を渡す! これで装備を整えるがよいでおじゃる!」

 

 時端芽は新札を懐からピッと二本指で取り出すと、わざわざ頭上に持ち上げて、ピエルロの足元に向かってヒラヒラと落とす。


「あ、あの…」


「それとこの町には“ダールイの盛り場”があるでおじゃる! 日々、欲求不満を抱いている燻った♂♀がたむろしておる! そこで仲間(性的な意味も含む)を探すでおじゃーる!!」


「あの!!」


 「はい! 解散!」と叫ぶ時端芽に被せるようにピエルロが大声を上げた。


「……なに?」


 時端芽は心底嫌そうに尋ねる。


「あの、実は、僕は祖父に王族の血筋だと言わ…」


「おだまりゃぁッ!!!」


 時端芽は怒り狂った!


「そんなことは大魔王を倒してから言うでおじゃる!! 王族になってハメを外して贅沢三昧したいとは片腹痛い!! 勇者はそんな事は考えてはいかーん!!」


 自分を棚に上げて、時端芽は怒り狂う。


「た、確かに…」


 なぜかピエルロが納得したのを見て、時端芽は(あれ? コイツ、チョロくね?)と思う。


「よし! では行くでおじゃる! ぴ、ピエルロ……なんとか! 鬼討伐…もとい、大魔王ネギトロドンの首を見事、麻呂の前に献上したまえ!!」


「はい!」


 ヴァイブセイバーを背中にかけ、5,000円札を握り締め、はじめてのおつかいにでも行くようにピエルロは立ち上がって行った。


(ほー。これでよし。あとは大魔王があの勇者をブチ頃してくれれば安泰におじゃる!)


「アヒーッ!! もう、ら、らめぇー♡ 大臣、おかしくなっちゃうぅぅッ///」


「ヒームヒムヒムヒム!!」

 

 大臣の喘ぎ声と、パカ之進の哄笑が響く中、時端芽はそんなゲスなことを考えて額の汗を拭ったのであった。

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