08 麻呂植上時端芽
その後、ピエルロは案内される大臣のバナナ滑りから始まり、ご近所商店街、秘境探検隊、剣術道場、住居倒壊といったドタバタ劇を魅せられ、最後に合唱隊のビブラートで締めくくられたわけであった。
おおよそ5時間後、ようやくのことで王の間へと案内されたピエルロはゲッソリとしており、対して大臣の顔はツヤツヤと輝きスマイリングであった。
「さあ、ここが王座でございますよ。“勇者”殿」
「なぜ僕が勇者だと?」
大臣はニヤリと笑うと、懐から履歴書を取り出す。
そこにはピエルロの祖父が慣れないMic●osoftのW●rdで懸命に打ち込んだ、均等割付もできておらず、変なところでスペースが入ったり、半角や全角がごちゃ混ぜになったピエルロ・ガバチョスの経歴があり、志望動機にはもちろん“魔王討伐”と書かれていた。
「“階段オチ”の時に転がり落ちたのをですな、チョロっと拝借したのでありますな」
そういえば、さっき木製階段を昇らさせられている時に、急に階段がフラットになり、ピエルロと大臣は転がり落ち、なぜかさっきの衛兵たちや駕籠持ちたちも一緒に「ズコー!」と言いながら下で倒れていたのだが、疲労困憊なピエルロはそんなこと気にする余裕もなく、茶封筒に入った履歴書を落としてしまったのではあるまいかと推察できた。
「さて、あすこに王様が…!」
「あれが王様?」
王座に座る恰幅のよい男を見やり、大臣は「あ!」と目を見開く。
「この野郎! またそんなところで居眠りこきやがって!」
「え?」
王座に座っている恰幅のよい…いや、そんなポリコレに配慮した言い回しは止めよう。そこに居たのはデヴだ。トランクス1枚で鼻水とヨダレを垂らしてイビキをかいているクソデヴがいたのである。
「あれが王様じゃ…?」
「そんなわけあるか! あれは我が国の負の遺産だ!」
激昂する大臣がピーッと笛を鳴らすと、衛兵たちと駕籠持ちたちが幕間から現れる。
「テメェ! 俺達が必死に働いてる時になにやってんだ!」
「この野郎! この野郎!」
全員で一斗缶やお玉で殴るが、デヴは一向に起きる気配がない。やがてソーメンを鼻から食べさせようとしたり、ドジョウをトランクスの中に流し込むが、それでも一向に起きる気配がなかった。
「チッ! もういい! つまみ出せ!」
痺れを切らした大臣がそう叫ぶと、男たちは王座ごと持ち上げて幕間の方へと運んで行った。
「まったく!」
「いったいなにが…」
「あいつの持ちネタは居眠りギャグなんですが、これがすこぶる面白くないんですよ。あんなのに給与払うのかと思うと泣けてきますよ。胸糞悪い。もう忘れて下さい」
「は、はぁ…」
「では、ゴホン! 改めまして! 王様のおなぁりぃ〜!!」
ドンドンドンという太鼓の音と共に、王座の後ろにあった襖がパァーンと開かれる!
そして、白い紋付き袴に大銀杏髷を結った“上様”が七色の後光に照らされつつ、ご登場あそばされた!
「あ…う…」
絶句するピエルロ。
「妖しい奴におじゃるな!」
甲高い声でそう叫ぶ! 「お前に言われたくねぇよ」とピエルロが言いそうになったのは言うまでもない。
「…おじゃる?」
よく見たくはなかったが、よく見てみると、その顔は白粉で真っ白になっており、まん丸の眉におちょぼ口の紅にお歯黒…とどのつまり、そりゃバ○殿風だったのであーる!!
「おほぉん! 頭が高ぁい! 麻呂は時の大将軍、麻呂植上時端芽におじゃるぞ!!」
印籠を取り出して「カァー!」と御威光をお示しあそばされる!!
「……これが王様?」
王様ってか、殿様や、大将軍に副将軍、そして武家と公家などが色々とごちゃ混ぜになっていたのであった。