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07 アハハーンの城

 アハハーンの城。


 ピエルロは自宅から3本道を挟んだ隣町にある城へと来ていた。


 そこは地元では有名な銭湯町であり、煙突からは煙が立ち、活気に溢れており、陽気な音楽と共に「えんや〜こらや〜」とか聞こえてくるが、中でなにをしているかは誰にもわからない。


 さて、そんな銭湯の隣にゴシック建築のバカでかい白亜の城がおっ建っていた。

 門構えですらピエルロが5人縦に並んでやっと届くかという風であり、大理石を組み上げて造られた荘厳華麗な見る者を圧倒せんばかりであった。


 そして、どうやって吊り下げたんだろうと思わせる巨大な厚手の垂れ幕。1枚だけでも数十…いや、数百キロはあるんではなかろうかと思われるそれには『超幕府』という隷書体の文字が金文字刺繍されていたわけだが、あいにくとピエルロには読めなかった。


「そこで止まれ! なんだキミは!?」


 グラサンをかけた駄菓子が好きそうな衛兵が声を掛けてくる。


「え? 僕はピエルロ・ガバチョスで…」


「なんだキミはってか! そうです! 私が変な衛兵ですw」


 なぜか派手なパジャマを着た隣の衛兵が答えた。


「え?」


「「ダッハッハッハッ!!」」


 衛兵たちが大爆笑してピエルロはキョトンとする。


「古典的な伝統のジョークだよ! そんなんじゃこの国でやってけないぞ!」 


「そうそう! 冷たいオデンを当てられても、冷水風呂に入っても『アッチャー!』というリアクションを取ることが求められるんだ!」


 そう言いつつ変なパジャマが天上からぶら下がっている1本の紐を引っ張る。


 ガンッ! ガンッ!


「「うんももすッ!!」」


 大きなタライが落ちてきて衛兵の頭に直撃したので、ピエルロは目をまん丸にして驚く。


「ええっ!?」


 衛兵はその場で昏倒していたが、なにやらやり遂げた満足そうな顔をしていた。


「おっと、来客かい? それならこの駕籠(かご)に乗っておくんな!」


「は?」


 ピエルロの後ろから登場したのは、ハチマキにたすき掛けといった出で立ちの天パーと黒縁眼鏡の二人組の男だった。なにがそんなに楽しいのかというぐらいにニコニコとしている。


「カゴって…」


 ピエルロが見やると、男たちは長い1本の棒を肩に担いでおり、その中央に竹で編んだ簡素な籠が括り付けてあった。


「乗れってこれに…」


「いいからいいから、俺たちに任せて下さいよ」


 男たちは棒を下ろすと、ピエルロを無理矢理に籠へと乗せる。


「こ、これって一体なにを…」


「ヨイショ!」「アラヨ!」


 人の話を聞かず、男たちは駕籠を持ち上げ、その場で足踏みしだす。


「行くぞ!」「あいよ!」


「わっわっわっ! 揺れる! 思ったよりも揺れる!」


 オイッチニーオイッチニーの掛け声と共に前進する。そして倒れている衛兵たちを踏みつけにし、垂れ幕の下を潜って行く。


「? 水? なんでこんなところに水が!?」


 てっきり大回廊でもあると思いきや、安い入浴剤でもぶちまけたような淡い緑色をした堀みたいなものがど真ん中にあり、男たちは迷いもなくその中に入って行く。


「ちょっとちょっと!」


「お客さん! 大丈夫です! アタシらが担いでるんで!」


「ええー!?」


 そういや男たちは下は股引だ。濡れてもいい覚悟をして堀の中を進んで行く。


「ぃよいせ!」「ほいせ!」「ぃよいせ!」「ほいせ!」


 威勢のよい掛け声と共にバシャバシャと水をかき分けて入っていくが、足首だった水が進むにつれてふくらはぎ、太腿の辺りへと深く…


「ちょっとちょっとちょっと!!」


 やはり当然、籠の中のピエルロも濡れる!


「大丈夫です! この道、10年のベテランですから!」


「信用してくださいよ! お客さん!」


「もう濡れてるから! それにお客さんじゃないから!」


「平気平気、こんなの慣れ…ガァボッ!」


「超江戸っ子の日常茶…ガァボッ!」


「顔までッ…ガァボッ!」


 3人は仲良く顔まで水に浸かり、髪だけが水面に浮く。


 そして…


「ブェヒャーッ! ゲェホゲェホッ!」


「ンブーフゥッ! ンゴベッゴホッ!」


「ンボッボフォオッ!!」


 堀の出口は入って来たところと同じくらい浅かったらしく、3人はびしょ濡れで咳込み、水から出たところで突っ伏す。


「な、なんなんですかこれぇ!」


「ぶ、無事で渡れてよかった…」


「よくないですよ!!」


「まあまあ、お客さん!」


「だから、お客さんじゃないって!!」


 さすがの人の良いピエルロも、無理矢理水没させりれて怒るが、ふたりはやり遂げたハツラツとした顔でいた。


「な、なんなんですかもう! 僕は王様に会いに来ただけなのに…」


「えー、秋は食欲の秋と申しますが、わたくしめはやはり読書の秋。これにつきますな」


「え?」


 渡った川の向こうの側から、また見慣れぬ初老の…タラコ唇のオッサンがやって来る。


「あ、あなたは…」


「わたくしですか? そりゃ、わたくしはこの国の大臣でございますよ」


 なんだかサイドがクルクルにカールした髪を弄びながらそう言う。


「大臣?!」


「そうしましたら次のコントは…」


「コント!?」


「『王様と乞食』…どうぞ御覧ください」


「乞食って誰? ま、まさか僕!?」


 なにがなにやらよくわからないまま、ピエルロは大臣に連れられて「次に巻いてってみよー」とか言われたのであーった!!

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