14 詐武救会員
こうしてツギギーの町を手中に収めたワシたちじゃ。
しかーし、ここで終わりじゃない。まだやることが残っておる。
ワシらは町の入口の繁みの中で、この町を目指して来る冒険者を見やっていた。
そう。この世界には当然、ワシら以外の冒険者もおる。勇者なんてもんは国家資格でもなんでもない。ちょっと腕が立って、モンスターを倒せれば簡単に「俺、勇者です!」って名乗れるわけじゃ。
ぶっちゃけ、自分を勇者とか言っているヤツの九割九分九厘が“詐欺師”と言っても過言ではない。
そもそも“勇者”ってなんやねんって話じゃ。“勇気ある者”って意味なら、別に大魔王カンケーなくね?
AVに出演する女優だって相当な覚悟があってやってるんじゃろ。若くして裸を大衆に晒すだなんて、大魔王を倒すよりも大変なことじゃ。
それならAV女優の持つものこそが“真の勇気”じゃ。彼女らこそ勇者であると言ってもいい。
だからこそ大枚をはたいて買う価値がある。違法DLなど卑怯者のやることじゃ。大魔王以下のクソ以下のクソみたいな所業じゃ。
と、話はそれたが、ちょうどいいところにボンクラどもが歩いておるわい。
どうにもモンスター退治してレヴェルアッポー(巻き舌)して、「ちょっと宿屋でHPとMP回復しよっか♡」なんて言うて戻ってきたに違いないわい。
「ベンドラゴンはん。よろしゅうたのんおま」
「わかっとるわい。【ファイアーベースボール】!」
ワシはオーバースロー投法で剛速球を投げる!
世界一の大魔法使いともなれば、当然、音速を超える!
大谷●平も真っ青じゃ。各社メーカーにはワシをイメージキャラクターに変えることを推奨する。
ワシの投げた球はあまりの速さに炎が消失し、仲間たちと「今日の晩飯なににするー? 魔物倒してお金も入ったし、カニしゃぶにでもしちゃうー?」なんて会話をしていたであろうリーダーらしき男の方へ、そしてその側頭部、こめかみを貫き、向こう側の側頭部から「あばよ!」と言わんばかりに、速力を失わずに向こうの山の方へ消え去った。
仲間たちは「どうしたんだ!?」と、倒れたリーダーの周りに集まって騒いでおる。
そこでワシらの出番じゃ。
ビビルゲリンが「待てい! 触るんじゃぬぁい!!」と鬼の形相で近づいて追い払う。
ビビルゲリンは「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」と倒れた男に耳元で声を掛け、目線を相手の胸の位置と水平にして「意識及び呼吸なし!」と言い、「あなたは救急車を! あなたはAEDを持ってきて下さい!」と的確に指示をし、人工呼吸と心肺蘇生(最近じゃ心肺蘇生だけでもいいらしいが)を始める。
バカのくせに応急処置としては完璧な動きだったが、もちろんこれは演技じゃなく、本気でこのバカはやっている。
汗だくになりながらも心臓マッサージを止めず、「じいさん! ダメだ! 戻ってこない!」とか言うてるが、当たり前だ。頭に大穴あいておるんじゃから即死に決まっておるじゃろ。
ってか、コイツがそんなことをするもんだから、脳味噌やら脳漿やら色んなもんが飛び散って大変なことになっており、仲間たちがさっきから「やめてぇー!」とか叫んでるのに、ボンオドリが「まあまあまあ」とか言うて邪魔しとる。
「誰がこんなことを!?」
仲間の戦士らしき男が聞いてくる。
「きっと大魔王の仕業じゃな」
そう言うと、「なん……だと」みたいな顔しとるが、ワシがやったに決まっておるだろ。
「すぐに寺で復活させなければ……」
「無理じゃ。ひどく呪われておる」
「なん……だと」
「このまま復活させても、ゾンビビスになるだけじゃ」
「なん……だと」
これでよし。後はボンオドリがあることないこと、ゾンビビスとかいうワシがでっち上げた嘘に尾ひれはひれ、胸毛スネ毛をつけて、不安と恐怖をモリモリに盛り上げてくれる。
そして、最後にボンオドリは「でも、アナタたちはとーっても運がいいのね!」とニカッと笑ってチラシを各人に手渡す。
「こ、これは……」
「この方の復活プランでっせ!」
「復活プラン……さ、350万!?」
商売のコツは、恐怖と不安じゃ。安心と安全を買うためなら、手厚い補償のクソ高い保険や、どこぞの身体にいいクソ高いウォーターサーバー、無農薬をうたうクソ高い野菜にだって金を払う。
『死ぬまでなら生きられますよ!』という詭弁を、奴らは安心と安全の皮をかぶせて売りつけとるのじゃ。
バカどもは自分が死ぬことを顧みないからこそ、なんともならんことを金でなんとかしようとする。
ワシぐらいの大魔法使いなら寿命操作もわけないし、怪我も病気もなんら影響ない。
つまり何が言いたいかというと、そんなワシ以外には価値はないから、コイツらの存在意義はせいぜいワシのために大枚をはたいてご奉仕することしかないということじゃ。
「ローンも可でっせ!」
「あ、あのちょっと……」
「生き返らせなくていいんでっか?!」
「まあ、待てい」
ワシはボンオドリの肩を叩く。
「ワシらも鬼じゃない。同じ冒険者仲間じゃ。この場は無料で助けてやろう」
「ほ、本当ですか?!」
「ただし、これに署名してもらう」
ワシは1枚の紙を差し出す。
「え? 今後、倒した魔物の実績、手に入れた金額を……毎月、一定額で納める?」
「そうじゃ。ただ支払うだけじゃない。そこのチャンネル登録で、“勇者ピエルロ・ガバチョスの勇者講座”も見放題となるお得な話じゃ」
ワシが幻術魔法で創った偽物の動画(フェイク動画)で、適当なことを言わせてるだけじゃがな。
「チャンネル登録って……」
「詐武救会員になってもらうということじゃ」
「毎月ってのが……」
「解約は次の月から簡単にできる」
嘘じゃ。解約方法なんてないわい。電話しても、『ただいま電話回線が混み合っております』が延々と繰り返されるだけじゃ。
仲間たちは話し合う。「350万は無理でも…」「これなら…」とかコソコソ言い合っている。
そう。バカは目先のことにしか頭が働かない。
「これにはワテも涙涙ですわ! 気前よすぎでっせ、べンドラゴンはん!」
とか殊勝みたいなこと言っとるが、これがどんなに結末になるか知っていて、心の中で下卑た顔で笑っとるに違いない。
言ったじゃろ。勇者なんてほぼ九割九分九厘が“詐欺師”じゃ。
騙される方が悪いわーい!




