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01 ヒーロークレイマー

「この薬草は腐っとるな…」


「え? そんなことは…」


「そんなことは? よく見てみぃ。葉が萎びて黄色くなっておる」


「いや、この程度は普通ですよ。品質にバラつきはどうしても生じますし。それでも効果はありますよ…。大丈夫です…」


「ほお? この道具屋はこんな物を“普通です”って言って客に売るのか?」


「あの…。もし、お気に召さないのでしたらお取替えを…」


「いや、これでいい。“普通”で“効果はある”と、お前さんが保証してくれるんじゃろ?」


「そ、それは…」


「いま大丈夫って言ったじゃろう? これで健康被害を受けたら、ちゃーんと責任を取ってくれるんじゃろな? ええ? ダンジョンの最奥で腹を下しでもしたら命に関わることじゃしな?」


「ちょ、ちょっとお待ち…」


「あー? “待て”だ? たった150円の薬草を買うのにこの道具屋は客を待たせるのか!?」


「そ、それは…」


「お前じゃ話にならん! 責任者をだせぇ!」


 こういうのは最初が肝心じゃ。ワシはカウンターをドン! と、叩く。


「店長はいま不在で…」

 

 店長不在は知っとる。そのタイミングを見計らって来たんじゃからな。


「そんなのワシの知ったことか! まずは謝罪じゃろ! お客様の気分を害したんじゃぞ! 基本中の基本! 謝ることもできんのか!!」


「え、え…あ、そ、その」


「こういった時にどう対処すべきかのマニュアルもないのか! カー! まったくの殿様商売じゃのう! 問題が起きても、売った先の責任は一切ないってか!?」


「そ、そこまで言っては…」


「薬草ひとつで命を失うこともあるんじゃぞ! そういう“お客様目線”で商売してないから、ちゃんとした品質管理もできとらん! こんな腐った薬草を仕入れて恥ずかしげもなく売ることができるんじゃ!」


 ワシはカウンターを何度も叩く。


「あそこに並んでる聖水も見てみぃ! ちゃんと規定量は入っとるんじゃろうな?」


「キテイ、量…? そ、それはもちろんで…」


「じゃあ、なんで水量にバラつきがあるんじゃ! 見ろ! これとこれと水かさが違うじゃろうが!」


「そ、そんなほんのちょっとの差で…」


「はぁん!? ほんのちょっとの差で死人がでるんじゃぞ! 量による効果時間の保証はあるんか!?」


「それは…」


「カー! 保証もなしに、なんでこれで同じ値段で売れるんじゃ!!」


 ワシは聖水を持ってきて、ここぞとばかりに店員の顔に押し付ける!


「答えてみぃ! 答えてみぃよ!」


「あ、う…。わ、私が作ったわけじゃ…」


「はぁーん? で・ま・し・た! 私が作ったわけじゃない? でも、これを仕入れて売っとるのはお前だろうが! 責任はないとは言わせんぞ! 客を馬鹿にするにもほどがある!! お客様は神様じゃ! ゴッド様なんじゃー!!」


「うっ、うう…」


 よし。女店員が泣いた。もうひと押しじゃな。


「泣けば済むとでも! ああん!? 女はすぐに泣けばいいと思いおってからに!!」


「ウアアーン!!」


 う、うひー!


 泣き顔がたまらーん!


 ワシの思ってた通りじゃ! この気弱な娘の泣き顔はサイコーじゃーい!


 ワシの反応しなくなって久しい“ムスコ”もピコっておるわーい!


「…フゥフゥ。はー。しかしな、ワシも鬼ではない。この道具屋のためを思ってちぃと言いすぎてしまったわい」


「うっうう…」


「次回から気をつけてくれればいいんじゃ。とりあえず、ごめんなさいしよな?」


「わ、わかりました。も、申し訳ございません…」


 ワシに謝る若い娘! た、たまらぁん!


 ふー! ふー!


 まあ、こんなとこかのぉ。


「あの、薬草は…」


「あ。いらん。ワシのパーティには、蘇生魔法も使える僧侶がおるから。今さら薬草なんて使わんし」


「へ?」


 ワシはなにも買わずに道具屋を後にした。


 うーん、スッキリ!


 今日の日課もつつがなく終わったわーい!




◯◎◯




「おや、へンドラゴン様。こんなところに…」


 道具屋を出ると、ちょうど、金髪、顔だけイケメソな美青年が話しかけてきた。


「ええ。道具屋に立ち寄っておりましたが、ワシらに旅に役立つ様な目ぼしいアイテムは残念ながらありませんでしたのぅ」


「大魔法使いへンドラゴン様のお眼鏡に適うアイテムなど早々ないでしょう」


「いやいや、“勇者様”。それはわかりませんぞ! こういう場末の道具屋にこそ掘り出し物があったりするのです!」


 あるわきゃねーだろ。こんなクソみたいな品揃えのつまんねー道具屋に。


「新たな町に来たら、隅から隅まで練り歩き、他人の家のツボを放り投げて叩き割って、中までくまなく確認する! それが勇者としての鉄則ですぞ!」


「なるほど! さすがはへンドラゴン様!」


 馬鹿勇者は今の適当に思いついた話に感銘を受けたらしい。


 いやぁ、“パーティを牽引する年長者”としての威厳は見せつけられたようでなによりじゃわい。


 こんなところで店の娘をイビって興奮しておる変態ジジイだとは夢にも思うまい…ウヒヒヒ!


「さて、では宿に戻りますかのぅ! ピエルロ殿!」

 

「はい!」

 

 本当に返事だけは立派だな。この馬鹿勇者は…


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