第3話 吐露
「いつからだ? 。。。いや、こんなことをいきなり聞くものじゃねえ。俺から言うべきだな」
首を静かに振り、紫煙をたゆらせながら火が言葉を紡ぐ。
「いいんだ。あんたをここに呼んだのは俺だ。俺から話すのが筋だ。
少し長くなるがいいか?」
「ああ」
グラスを揺すり、褐色の液体が波立つのを眺めながらvahohoが応えた。
「俺の表の職は医師だ。患者の一人の遺伝子疾患が人為的に引き起こされたのではないかという疑念が俺の中で芽生えたんだよ。
医師会を通して、理研の教授に相談した。そして、患者のDNA情報を調べてもらった」
火の吐きだす紫煙に視線を向けながらvahohoが呟くように問う。
「教授とのつては、その時に出来たのか。で、結果は?」
「遺伝子疾患の原因は、突然変異細胞の影響であることが分かった」
「突然変異細胞? がん細胞のような?」
「性質は異なるが、そう考えてもらっていい。だが、特質すべきは、その突然変異細胞は自然のものでは無く人工物だったんだよ」
言葉と共に紫煙が漂った。
「人間が造ったと? そいつはもはや生物兵器じゃないか」
頷きながら火が続ける。
「そいつの出所を、教授と共に探った。どこだったと思う?」
「まさか。。。」
「場所は中国。当地を治める八騎士”陽”が管理する研究施設だった」
火の言葉を受け、両眼を閉じたvahohoがゆっくりと尋ねる。
「そのことを、あの男は把握しているのか?」
「あんたも分かっているはずだ。八騎士の関係性を。知らんはずがなかろう。
そして、俺の患者の体内に人工突然変異細胞を注入したのも、あの男の差し金だった」
vahohoが使った”あの男”という極めて危険な呼称。それが、vahohoからのサインであることに気付いた火は自らも使う事で自分の立ち位置を明確にした。
「なんのために?」
首を左右に振りながら、
「恐らくすべてを知るのはあの男だけだろう。計画に関連しているとは思うが、彼女がなぜ、そんな目にあったのかは分からん」
「彼女、、女性なのか」
痛々しい顔つきでvahohoが吐き捨てる。
「玉五郎 麗。まだ、二十歳の女性だよ」
同じ顔色で呻いた火の言葉に、vahohoが鋭く反応した。
「待て、たまごろう れい、だと。その名知っているぞ。
俺は、計画に関連する人物のリストを作成する任についていた。そのリストにその名があったはず。確か。。」
vahohoは、宙に過去に作成したリストを思い浮かべ、見えない手でページを繰っていく。
「そうだ。クリスタルタワーで十年前に行われたメンテナンス工事担当の一級建築士 玉五郎 明の長女が 玉五郎 麗だ」
vahohoの言葉を聞いた火の眼に飯綱が走る。
「なるほど。繋がったか。クリスタルタワー上層階の構造を熟知する一級建築士の娘を謂わば人質にして、不測の事態に備えたわけか」
「ああ。俺が作ったリストによって何人もの人間が人生を狂わされているってわけだ」
グラスを両手で強く握りしめ、vahohoが短く吠えた。
数秒の沈黙の後、火がvahohoに静かに話しかける。
「俺は火を辞め、計画を妨害しようと思う。一緒にやらんか、金、いや鉄壁のvahohoよ」
「ふふん。俺が言いたいことを先に言われたようだな。
奴等八騎士のやり方には大義がねえ。特にあの計画には。
俺の信念は、情・理・法。法律よりも合理性よりも何よりも大義を優先する。その信念に従い、金を辞め、あの計画を潰す。
共にやろう、獄炎のhuzedよ」
同じ方向を向く二人の周りの空気の温度が上がった。