『口に合わない』と『不味い』の違い
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
食の酷評回です。
ボロクソに言ってるので、なんでも許せる方向け。
『口に合わない』と『不味い』は全く別の言葉です。
口に合わない、美味しくない、不味い。まぁ色々味のマイナスについての言葉があるが、彼女にとって、口に合わない、と、美味しくない、不味い、は全く別の意味を持つらしい。ニュアンスという領域を超えた、言葉であるらしい。
この間、一緒にカレー屋に行った時である。雑誌で結構有名で、なんなら開店前から行列も出来ている人気店だった。彼女と俺はその人気NO.1のカレーを選んで食べていた。
スープはサラサラ、具は全てスープにとろかして、鶏肉だけを入れ込んだシンプルなカレー。彼女は興味津々で全方位から眺めた後、スプーンでまずは一口。軽く頷きながら、ちみちみやり始めた。そうして完食を終えて店を出た後に、ぽつりと一言。
「どうだった?」
「んー……一緒に来てもらって申し訳無いけれど、私の口には合わなかったかな……。不味くはないんだよね。普通に美味しいとは思う。だからこれは好みの問題。やっぱりご飯に塗るカレーが好きだから」
そう、眉間に皺を寄せる事もなく、淡々とそう答えた。何が合わないかを分析して、その結果を話しているようだった。
「君的には満足?」
「あぁ。また行きたいと思うくらいには」
まぁ、口に入れた時の好みなんざ、人によって異なるだろう。
それから数ヶ月後、共に旅行に出た時の事である。海鮮が有名な店を彼女は口コミ、雑誌から研究して、選び抜いた店。その店に訪れる事になった。
俺と彼女は蟹飯を頼み、まずは一口。米が多分の酢を吸って、べちゃべちゃと口の中を転がり回る。蟹の身はしっかりしていたが、如何せん旨みがない。海の生臭さがだけが口に広がる。それを誤魔化す為に出されたお冷で流し込む。お世辞にも、口に合うとは言えなかった。
彼女の反応を見る。まず、目が死んでいる。丼に入った米を掬いはするが、口に入れるのを拒む様に腕が止まる。段々と眉間に皺が寄り、カク付いた動きで首を傾けた。
それでも何とか完食して、会計を終えた後の事。彼女は徐に口を開く。
「あれは不味かった。今まで食べた丼物の中で一番不味かった。まずは酢を入れ過ぎ。ご飯べちゃべちゃ。蟹の臭みも取れて無かったし。ズブの素人でも分かる。あれは冒涜」
はっきりと、死んだ目で猛毒を吐いた。
かなり、珍しい事だった。例え口に合わない時でも、そこまで完全に拒否をする様な真似はしなかったから。まぁそれ程までに彼女は絶望したという事で。
「『口に合わない』とは言わないんだな」
「あれは『不味い』。大抵誰が食べても嫌悪感示しそうなものだった。だから『口に合わない』とは言わない。食べてて体が拒否して吐き出そうとするのを『口に合わない』とは言わない。それをしたら『口に合わない』ものの冒涜になってしまう」
その時の般若の顔を、俺は忘れない。
オマケ
「うぅ。コンビニスイーツ美味しい。企業努力が見える……。キャラメルのほろ苦さが冷凍でもちゃんとある……!! アイスの品が良い……。上質なミルクが口に広がる。プリンじゃなくて、アイスでも合うんだなぁ。プリンでもやって欲しいなぁ」
何かを食べて『不味い』と言った方に、『言葉を選べよ!!』、『そういう時は、「口に合わない」と言え』と仰る方がいらっしゃいますが、私から言わせれば全く別の言葉です。
『口に合わない』って、食べてみて『好みではなかった』というニュアンスに近いと思います。
『良いという気持ちもある。けれども好きとは違う』
そんな気分で使ってます。
『不味い』という意味はまず、体が全力で拒否します。
言い方悪いですが、胃から食べ物が迫り上がる感じ。
『憎悪、嫌悪。遺伝子レベルで嫌う、口に合わない』。
これを『不味い』と称してます。
個人的にはそれくらい全く別の言葉。