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魔法銀の悪魔の救済  作者: 緑名紺
第二章 それぞれの成長期
24/40

24 剣士への道 第一歩

 


『俺のせいだ。俺のせいでみんな死んでしまった……守れなかったっ』


 記憶の底から蘇った強い悔恨の声。

 自分であって自分ではない誰かの涙。

 大切なものを守れず、託されたことを成し遂げられず、自分の存在そのものが無意味に思えて消えてしまいたかった。


 その嘆きが他人事とは思えず、ルギは同じように悲しんだ。

 しかし、泣いてばかりはいられない。


 ――強くならなくちゃ。


 今度こそ大切なものをこの手で守るために。


『お願い。私を救けて』


 大切な人の願いを叶えるために。






 ルギは青々とした稜線を見上げて、小さく息を吐いた。

 トレモロ王国の北西に位置するドレンテ山脈――リュード流剣術の修行の地である。


 ――なんか、すごい。


 目の前には朱色の門と、山の奥へと続く歪な石造りの長い階段。

 飛獣で上空から見た時、山の中腹に立派な御堂が建てられていた。ルギの目的地はその御堂だったが、入門者の飛獣での乗り入れは禁止されており、必ずこの階段を上がらなければならないらしい。


 山の方から強い力を感じる。事前に聞いていた話によれば、ここには大地の命脈が通っているが、魔物が異様に多いために魔石の採掘地にはなっていない。

 リュード流の門下で魔物を間引くことを条件に、国から一帯の山を預けられているらしい。一般人の立ち入りが禁止されている特殊な場所なのだ。


「ジオの推薦状と寄付金は持っているな。後は一人で行けるか?」

「うん」

「まぁ、上手くやれ」

「ありがとう」


 ここまで送ってくれたレムナンドは、とくに名残惜しむこともなく再び飛獣に乗って去っていった。

 ルギの手元には、僅かな荷物とフクロウの鳥かごが残された。


「よし、行こう。シュシュ」


 黒と白のまだら模様のフクロウのシュシュは、「ほー」と高い声で鳴いた。

 屋敷の雑用の一環で世話をしていたので、ルギにも懐いている。とても賢い子だ。一緒に来てくれて心強かった。


 とはいえ、シュシュは困っていても助けてはくれない。ルギは一人で行動するのも、ルナーグの領地の外に出るのも初めてだった。

 見知らぬ土地で初対面の人間に会うどころか、これから共同生活していかなければならないのだ。


 ――俺、頑張るから。一日でも早くミシュラのところに帰れるように。


 胸元に隠れたネックレスを握り締め、ルギは覚悟を決めた。

 緊張と急勾配に汗をかきながら、一段一段しっかりとした足取りで長い階段を登っていった。


「はぁ、着いたっ」


 階段の上に到着し、息を整える。

 御堂の前の門をくぐると、近くにいた老齢の男性がルギに気づいた。


「よく足腰を鍛えておるな。感心感心」

「え?」

「地上からここまで、一度も足を止めずに登ってきたじゃろう。休んだり、ゆっくり来た者にはその門はくぐれないようになっている。入門試験じゃよ」

「…………」


 もちろん何も知らなかったルギは冷や汗をかいた。余計なことを考えずに愚直に足を動かしていて良かった。


「今は特に入門者が多いからのう。選別が必要となる」

「そうなんですか?」

「おや、何も知らずに入ってきたのか。まぁ、事情はそれぞれか」


 意味深なことを言う老人に案内され、ルギは御堂に通された。


「――――!」


 庭にも道場にも男たちの気合の入った声が反響していた。ものすごい熱気である。確かに、かなりの人数の門下生が修行に励んでいるようだ。

 御堂は土足厳禁で、小部屋の木の床の上に座るように促された。独特の文化にどぎまぎしながら、ルギは老人に倣う。


「さて、紹介状を拝見しようか」

「はい」


 ジオが用意してくれた手紙を渡す。中には数枚の金貨も一緒に入っている。

 寄付金という名目にはなっているが、住み込みで剣を習うにあたって、数年分の生活費と心づけを支払うのが道理とのことだった。大金にもかかわらず、ルナーグ家の面々は「魔物討伐の礼」と快く用意してくれた。

 現状は甘えるしかなかったが、いつか必ず返そうとルギは密かに誓っている。


 老人は楽しげに文面を眺めた。


「ここには『本人が望むだけ強くしてやってほしい』とあるが、誓って間違いはないかな?」


 ルギが深く頷くと、老人はますます目を細めた。


「何か、おかしいですか?」

「いや、純粋な強さを求める者は逆に珍しいんじゃ。貴族の推薦で来る子だと、ウチの流派を名乗れるようにして箔を付けさせたいだとか、曲った根性を叩き直してほしいとか、今だと“龍剣”の継承を強請ってきたり、いろいろ面倒事があるんじゃよ」

「……龍剣?」


 ルギが首を傾げると、老人は説明してくれた。


「リュード流では、剣士の他に剣そのものも育てていてな。開祖が遺した剣を、その時代で最も腕の立つ者に継承しているんじゃ。それが“龍剣”……三百年にわたり、数々の剣士が魔力を込めて鍛えてきたその剣の、現代の継承者がサクラバ殿じゃ」


 知っている名前が出てきて、ルギは息をのんだ。

 老人は窓の外を指さす。山脈の中央にそびえる最も大きな山。その中腹に似たような御堂があるのが見えた。


「今がちょうど継承者の選別の時期なのじゃ。それで入門者が殺到しておる。見込みがある弟子だけ、向こうの本山でサクラバ殿が直接見ておられるよ」

「え。サクラバ様は、こちらにはいらっしゃらないのですか?」

「ああ。こちらに来るのは数か月に一度、入山試験のときだけじゃ」


 戸惑うルギに、老人は声を出して笑った。


「どうやらお主は龍剣目当てではなさそうじゃが、サクラバ殿の指導を受けたいなら、試験に合格して本山に入らねばな。どうする? 強くなるだけなら、比較的魔物の少ないこちらの山でも叶うじゃろうが」


 確かに、ルギの最も大きな目的は“強くなること”である。

 しかし、修行の地にリュード流を選んだのは、サクラバに師事して、エヴァンが魔剣に関わらないように見守るためだ。


 ――多分、“エヴァン先輩”はもう本山にいる……。


 ミシュラは、エヴァンの師はサクラバだとはっきりと言っていた。数年後に世界最強格の剣士になる少年ならば、早々に直弟子になっているだろう。


 ――でも、ものすごく強いのに、先輩は龍剣を継承しなかった? それとも、もしかしてその龍剣が魔剣?


 ここで考えても答えは出ない。ルギは早々に思考を諦めて、老人に向き直って頭を下げた。


「俺も本山を目指したいです。よろしくお願いします」


 求める強さに制限はない。最強に近い場所まで行かなければ、胸を張ってミシュラの許に帰れない。

 こうしてルギは、剣士になるための一歩を踏み出した。






 最初の十日間は目まぐるしく過ぎていった。ほとんど記憶がない。

 まず新入りは炊事や洗濯、掃除などの雑用当番を多く割り振られる。残った時間も全て走り込みや筋トレなどで、剣を握らせてももらえない。あれこれと言いつけられているうちに、あっという間に一日が終わってしまった。分かったのは、やはりエヴァンがこちらの御堂にはいないということだけだ。


 ルナーグの領地にいる間に身に付けたことが活きた。

 雑用当番は慣れたものだし、ミシュラと一緒に基本的な鍛錬をやっていたおかげで、体力づくりにもなんとかついていけた。


「やってられるか!」

「俺にはもう無理だっ」


 しかし、ルギと同時期に入門してきた若者たちは、数日で音を上げて自らの意志で山を下りていった。

 特に貴族や富裕層の子息たちは雑用当番に文句を言って、平民たちと同じ扱いをされることも嫌がっている。


 個人の部屋もなく、板の間に固い布団を敷いて雑魚寝をしている状態だ。ルギは人の気配を感じられる方が安心できるが、それでも隣に寝相が悪い者や、いびきが酷い者が来た日は、少し困った。日中に疲れ切っていなかったら一睡もできなかっただろう。


 ――女の人がいないからかな。


 劣悪というほどではないが、なかなかに厳しい環境だった。

 全体的に汗臭いし、掃除も行き届いてはいない。食事の味も当番のさじ加減によって、酷いものになる時がある。空気が常にひりついており、喧嘩もよく起こっている。


 ルギは入門者の中でも幼く、大人しくしていたせいか絡まれにくかったが、それでもたまに邪険にされる。

 時折、ルギの顔立ちから貴族だと勘違いして擦り寄ってくる者もいたが、遠回しに否定してからは、声をかけられることも減っていった。


 ただ黙々と日課をこなす単調な日々。寂しかった。

 シュシュに話しかけに行ったり、ミシュラとロアートへの手紙の文面を考えたり、そんなことだけがルギの心の支えになっていた。


「ボクは別の流派では、免許皆伝の腕があるんだ! 入門のためにいくら積んだと思っている! さっさと試験を受けさせろ!」

「……では、少しだけ試してやろう。一太刀でも入れられたら、師範に話を通してやってもいい」


 ある日、資産家の息子だと自慢していた少年が師範代と試合をすることになった。剣すら握らせてもらえない現状に鬱憤が爆発したようだ。

 結果は無残なものだった。最初から最後まで目を覆いたくなるような試合で、少年の剣は一度も届かず、師範代に滅多打ちにされていた。

 結局彼はボロボロの体を引きずり、泣きながら去っていった。無様であり、可哀想だった。


「見栄えを気にするばかりの剣技など通用しない。ここでは魔物や人を殺す技術を教えている。心身ともに未熟な者に、剣は持たせるわけがなかろう」


 この試合は見せしめとなり、また多くの者が辞めて行った。


 ルギにも焦りの気持ちが芽生えていた。剣を習いに来たのに、試験どころかそれらしい鍛錬を何もさせてもらえない。


 ――でも……。


 正直に言って、ルギはまだ剣を握ることを怖がっていた。

 奇色化した魔物と、無我夢中で戦った時のことをまだ鮮明に覚えている。

 魔物の血の温度、肉を抉る感触、一瞬で命が奪われるかもしれない切迫感。目の前の敵を殺すことばかり考えていた。


 何より、自分の力が怖かった。ルギは自らの手のひらを見つめて、ため息を吐く。

 魔物との戦いの中、体のどこに眠っていたのかと思うほどの大量の魔力が、バリバリと音を立てて溢れた。


『ルギちゃんの魔力は、雷みたいだね。強力だけど、制御が難しいと思う』


 ミシュラに相談して、自分の魔力の性質を知った。

 剣を媒介にすることで、魔力が雷状に変化する。これを思う通りに操れるようになれば、自身の固有魔法にすることができるかもしれない。

 運が良かったとはいえ、奇色化した魔物すら倒せてしまったのだ。恐ろしい力だ。制御できなかったら、周囲にどれほどの被害が出るだろう。


 ――頑張らないと。克服しないと。


 ミシュラの役に立つためにも、戦う力は欲しい。

 そのためにここに来たのだ。いつまでも剣を恐れてはいられない。


 しかし、ルギの意気込みも虚しく、その後も雑用と体力づくりだけで終わる一日が続いて行った。

 できることと言えば、剣の指導を受けられている兄弟子たちの稽古を見ることだけ。

 師範代たちの剣筋は洗練されていて、兄弟子たちのそれも、力強く活き活きとしている。


 ――かっこいい。


 剣を振るう彼らたちの姿は、美しかった。

 熊の獣と戦った時の自分は死に物狂いで、醜い獣のような動きをしていた。思い返すと恥ずかしくなる。鍛錬を積めば、いつか彼らのように剣を振るえるのだろうか。

 少しずつ少しずつ、恐れが憧れに変化していった。


「よし、お前も今日から剣を持っていい。まずは素振りをしてみろ」


 雑用当番と体力づくりのトレーニングを早めに終わらせ、じっと稽古を見続けるようになったルギに、とうとう師範代から声がかかった。

 入門してから二か月が過ぎていた。






 ついに試験の日がやってきた。

 ルギは素振りから先に進めておらず、まだ試験を受けられる段階ではなかった。ただ、見学は許されたので、ドキドキしながらその時を待っていた。


 本山からサクラバと弟子が数人やってくる。

 その中にエヴァンがいるかもしれない。


『すごく問題児だったけど、そこがまた格好良くて……ルギちゃんも絶対憧れると思う』


 ミシュラはエヴァンのことをとても尊敬しているようだった。エヴァンを語る時の彼女の熱のこもった声を思い出すたび、ルギは複雑な心境になる。


 他の門下生たちと一緒に出迎えのために外に整列すると、裏の階段から一団がやってきた。

 中心にいるのは、濃紺の長い髪を束ねた壮年の男性。柔らかい微笑みを浮かべ、師範代たちを労っている。彼がサクラバだろう。

 腰に差している剣には奇妙な存在感があった。


 ――あれが、“龍剣”……。


 サクラバの物腰柔らかな態度と、龍剣の気配が入り混じって、ルギは落ち着かない気分になった。


 サクラバの両脇には二人の少年がいた。

 一人は筋骨隆々で元気いっぱいな少年、もう一人は小柄で知的な眼差しの少年。後者の年格好はルギとそう変わらないようだった。


 ――エヴァン先輩っぽくない……?


 なんとなく、見た目の印象でそう思った。今回彼は同行していないようだ。


「今回の受験者は五名ですか。早速始めましょう」


 サクラバの声に、受験する者たちが返事をして前に出る。

 その時、いくつもの影が上空を飛び交った。


「なんだ!?」


 突如、飛獣の群れが庭に降りてきた。数体は上空に残り、旋回している。

 飛獣に乗っていたのは柄の悪い男たちだった。


「龍剣を渡せ! さもなくば――」


 地上の男たちは槍や斧を、上空の男たちは弓矢を構えて門下生たちに向けた。

 動揺する間もなく、中央にいた男が赤い石を投げる。


「逃げなさい!」


 そばにいた師範代に引っ張られ、ルギは転がるように縁の下に滑り込んだ。

 爆発音とともに、悲鳴が飛び交った。襲撃犯の男たちと、リュード流の剣士たちの立ち回る足元が見える。矢が降り注ぎ、飛獣も戦いに参加しているようだ。


 ルギは乱れる呼吸を落ち着かせようと必死になった。

 龍剣を狙った襲撃だ。今日サクラバがここに来ることを知っていたということは、最近山を下りた者の仕業だろうか。


 ――これも、俺がここに来たせいだったらどうしよう……。


 そう考えて、ルギは首を横に振る。特に目立った行動はしていないはずだ。

 ミシュラからの手紙で再三、何か事件や事故が起こっても気にするなと言われてきた。答えの出ないことで頭を悩ませず、今できることをすべきだ。

 ルギは泣き出しそうになるのを堪えて、這うようにして縁の下を進んだ。地上での乱戦に加わるのは無理だ。技術が足りず、足手まといになる。


 ――でも、もう逃げるだけなのは嫌だから……。


 上空から降り注ぐ矢の雨を止めなくては。

 納屋に狩猟用の弓矢があったはずだ。レムナンドに習って、的に当てるだけの心得はある。飛獣を狙って落とすことができるかもしれない。


 人気のない場所から這い出て、こっそり納屋に向かった。

 弓の弦の強度を確認し、矢筒を手に取る。指が震えて、なかなか矢を抜くことができなかった。


「おい」

「っ!」

「へへ、貴族のガキだな。ちょうどいい!」


 太い腕が首に回され、一気に動きを封じられる。そのままルギは元の庭へと引きずられるように連れて行かれた。


「止まれ! このガキがどうなってもいいのか!」


 庭では、ほぼ決着がついていた。襲撃犯たちと飛獣のほとんどが倒れ伏し、大量の血を流している。リュード流の圧勝である。


 首を絞めつけられ、眼前に短剣を突き付けられると、ルギは身動きがとれなくなった。

 ルギを人質にした襲撃犯は、動きを止めた剣士たちを見てにやりと笑った。


「へへ、形勢逆転だな。武器を捨てな! 龍剣を寄越せ!」


 剣士たちは厳しい顔をして、お互いを見やる。

 サクラバは無言のまま剣を払って血を飛ばすと、静かに鞘に収めた。


「師範!」

「サクラバ先生! 何を!?」


 慌てる同門の剣士たちに、サクラバは朗らかに笑った。


「子どもが死ぬのは嫌なので」


 龍剣が静かに地面に置かれた。

 サクラバの行動はルギにとっても意外だった。見ず知らずの他人のために、三百年も受け継いできた剣を襲撃犯に差し出すなんて考えられなかったのだ。


 ――俺が、邪魔になってる。


 ルギは絶望で頭が真っ白になった。容赦なく見捨てられた方がマシである。


「だ、ダメだ。渡しちゃ――」

「うるせぇ、てめぇは黙ってろ!」


 襲撃犯がルギの首をさらに強く締め上げる。一気に意識が飛びそうになった。


「やめなさい。子ども相手に」

「うるせぇ! 動くなっつってんだろ! こいつの家族を怒らせたくなかったらな!」


 朦朧とする意識の中で、その言葉がルギの心を突き刺した。


 ――家族。


 ルギに家族はいない。

 ただし、それに準ずる者、それ以上に大切な者たちはいる。

 最初に脳裏に浮かんだのはミシュラの可憐な笑顔。そして、優しいルナーグ家の人々やロアートの顔を次々と思い出して、激しい衝動にかられた。


 ――俺のせいで、ミシュラたちにも迷惑がかかる? そんなの……許せない。


 ルギは、自分に突きつけられた短剣を握り締めた。皮膚が切れて血が流れるのも構わずに。


「――っ!」


 そのまま、ありったけの魔力を短剣に込める。

 青白い光が空気を裂くような音を立てた。

 元々込められていた襲撃犯の魔力を押し出し、刃が溶け出すほどの熱を発する。


「ひっ!」


 電撃の余波を受け、男はルギを突き飛ばして後退した。

 ルギが倒れるのと同時に、


「スズ」

「はい」


 サクラバの横に控えていた小柄の少年が、剣を抜いて地を蹴った。

 ルギは目の端で血飛沫を捉えた。ルギを人質にした男の首が、驚愕の表情のまま宙を飛ぶ。

 それを合図に剣士たちが動き出し、残りの襲撃犯たちの動きを封じていく。


 スズと呼ばれた少年は頬についた返り血を拭い、たった今人を殺したようには思えない静かな瞳でルギを見下ろした。


「……馬鹿みたいな魔力やな。動けるんなら、さっさと立って手伝い」


 ふん、と冷たい一瞥をくれて、スズは去っていった。独特なイントネーションの言葉に、ルギは返事をするタイミングを見失った。呆然とその背を見送る。

 周囲を見れば、師範代や長く弟子をしているほど、平然と後片付けをしている。このような襲撃に慣れているようだ。


 ――なんか、やっぱりすごいところだ。


 ルギは乏しい語彙力でそう結論付けて、大きく息を吐いた。


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