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「ご機嫌いかがですかな、マルガレットご夫人」


 入口の上階で、ひとりの男性がワイン片手に、シンデレラの義母に挨拶している。


「久しぶりね、ルイ男爵」


「本当に久しいですなあ。貴殿が辺境で隠居を始めてから一度もお会いしておりませんから、実に七年ぶりになりますかな?」


「わざわざ数えていないわ」


 義母は一口赤ワインを飲んで、階下を見下ろした。


「アザレアもクリティアも、美しく育ちましたな」


「そうね、誇らしい限りだわ」


「しかし、三人目……あんな美人な娘がいるとは聞いておりませんぞ」


 ルイ男爵は義母と肩を並べて、一緒に階下を見下ろしている。見ているのは間違いなくシンデレラだろう。


「ふん……厄介な荷物よ」


「荷物? あれが?」


 義母はまたグイッとワインを飲んで、空になったグラスを手すりの上に置いた。


「本当に……厄介な荷物」


「………?」


 口では厄介と言いつつも、どこか意味深な目でシンデレラを見ている義母。その真意が分からず、ルイ男爵は少し困惑していた。


 シンデレラはテーブルをあっちこっち移動しては、料理をちょっとずつ楽しんでいる様だった。上流階級にある者としてはあるまじき行為。誰もが田舎もんであると一瞬で見抜いていたが、それでも見惚れるものは多かった。ルイ男爵もそのひとりである。


「ご夫人、彼女の名はなんと?」


「シンデレラよ」


「それは……本名ですか?」


「さあね。どうだっていいわ。それより貴方、あの子を狙っているの?」


 義母は道ゆくウェイターを呼び寄せ、ワインを注がせる。男爵はグラスを揺らしながら答えた。


「狙うという言い方は好みませんが、ええ。とても魅力的な女性ですね」


「はあ……やめておきなさい。そんなんだからいつまでも男爵止まりなのよ」


「はい? いやぁ……あの、どういう意味でしょう?」


 義母は、注がれたばかりのワインをグイーッと飲み干した。瞬間、階下にいるひとりの女性が、階段の方を見て言った。


「王子だわ!」


 途端に全員が階段に視線を向ける。美味しそうな料理を選別していたシンデレラも、自然と階段を見やった。


(あれが、王子)


 容姿端麗という言葉で片付けてしまうのが憚られるくらいの、絶世の美男だった。王族らしい煌びやかな金髪に、予想と裏腹に鋭利な瞳をしている。王城にこもっているにしてはガタイが良く、背も背後に連れた一段上にいる従者と並ぶくらい高い。誕生日のパーティにしては大袈裟な式典用の正装を身に纏い、主役らしく堂々と階段を下っている。時折従者の方を振り向いて、小声で話をしていた。


 会話の最中、なぜか王子はチラチラとシンデレラを見て、その度すぐに目を逸らしていた。


(……? 顔に何かついていたかしら)


 ふと口元を確認する。さっき食べた肉のソースがついていたので、急いで拭い取った。


「楽しんでいただけているかな? 諸君」


 どうやら主催者の挨拶が始まったらしい。全員が手を止めて、王子の言葉に耳を傾けていた。


「本日はお集まりいただき感謝する。挨拶が遅くなって申し訳ない。何せこの数だ、丁寧に回っていたらこんな時間になってしまった。しかしまあ、改めて私から言うことはないだろう。どうか残された少ない時間を、有意義に過ごして欲しい」


 そこまで言うと、深々とお辞儀をした。大きな拍手が起こり、シンデレラもつられて拍手を送った。


 実に端的な挨拶を終えた王子は、再びシンデレラを見た。そしてまたすぐ視線を逸らして、挨拶回りを始めた。


(まだ顔に何かついてたのかしら)


 念のためさっき拭った場所をもう一度指で拭って、シンデレラは食事を再開した。


(あれが王子様……お目にかかるのは初めてね)


 フォーク片手に王子をガン見する。一つ一つのテーブルに長くとどまることはせず、さっきの挨拶みたいに、参加者たちに軽い挨拶をして回っている様だ。笑顔は作り笑いの様に薄っぺらく、どのテーブルについても何も口にせずに、本当に淡々と回っているだけ。


「……なんだか、つまらなさそうね…」


 ボソッとこぼして、シンデレラは目線を料理に落とすのだった。


(あら? ちょっと待って……?)


 しかしすぐに顔を上げる。そして気恥ずかしそうに周囲を確認する。


(このテーブル、どうして私以外誰もいないのかしら……!?)


 話しかけくれたのはさっきの公爵だけ。他のテーブルには二組以上の男女がいる。このテーブルにも他に人がいたはずなのだが、いつの間にか移動している。何かやらかしたのかと、急に不安になってきた。


(というかこのままでは、一人で王子様と挨拶を?)


 突如シンデレラを襲う極限の緊張。フォークを持つ手が僅かに震え、変な汗をかき始めた。ゆっくりと顔を動かし、王子の方を見やる。すると、王子と目が合った。


「……!」


 王子は狙いを定めたかの様に視線を逸らさず、真っ直ぐ歩き出した。


「アイアス王子! ご機嫌麗しゅう……」


 横から挨拶した若い女性を、王子は片手であしらっていた。


 目の前まで来ると、王子はテーブルの料理をちょこっとだけとって、シンデレラの皿によそった。


「これがこの場の暗黙の了解だと聞いているのだが、間違ってないか」


「え、ええ……」


 あまりに自然に、王子との会話が始まった。


「レディ、名前は?」


「シンデレラ……と申します」


「……それは、本当にシンデレラという名なのか? それとも……まあいい」


 王子は皿を取って料理をよそり、先ほどまでのシンデレラの様に貪り始めた。


「やはりパーティなんか開くんじゃなかったな。腹が減ってしょうがない」


「……えっと、よろしいのですか? そのようなこと」


「いいんだ。どうせ誰も咎めはしない。睨んでやるだけでどいつもこいつも黙りこくるんだから」


 王子とは思えない乱暴さで、肉をどんどん口に運んでいく。男にしても大食いなその姿に、シンデレラは呆気に取られていた。いつの間にか、極限の緊張も勝手にほぐれていた。


「料理だけは一流だな。すごくうまい」


「そうですよね。美味しくて、止まらなくて……」


「はは、とは言え品性は大事にしないとな、レディ・シンデレラ? 先程みたいにソースを口につけてる様じゃ、周りの人間に舐められるぞ」


「あ……気をつけます」


 照れを隠す様に、フォークを動かすシンデレラ。王子と田舎もんのレディが並んで、作法を無視してむしゃむしゃ食事に勤しむという異様な光景が繰り広げられているが、誰もツッコむことはしなかった。


「君はどこの家のものだ? 縁のない者に招待状はいかないはずだ。届きようがないからな」


「私は……その……」


「あくまで名乗らないつもりか。不遜にも程があるな」


「す、すみません……」


 この会話を盗み聞きしていた周りの貴族たちは、それはもうヒヤヒヤで汗が止まらなかった。この王子、やる時は殺る男として有名だから、この田舎から来た美女も処刑されてしまわないか不安だったらしい。


 しかしそんな懸念とは裏腹に、王子の機嫌はなぜか良さげであった。


「そうだな……この国で赤毛を持つ者はそう多くない。グレゴリー家か?」


「い、いえ……」


(どなたかしら、グレゴリーさん……)


 シンデレラは料理を口に運ぶことを止めずに王子の質問に答え続ける。


「違うか。ではヴァレンティンか?」


「いえ」


「違うか……ふむ、アンダーソンだろう。あそこは人が多い。一人ぐらい赤毛の誰かを娶っていてもおかしくはない」


「いえ、違います」


「なに? そうか、違うか……」


(アンダーソンさん、王子に認知されている……やっぱり偉い人なのね)


 そんな小童並の感想を思い浮かべながら、シンデレラはフォークを置いた。皿が空になったのだ。


「あそこでもないとなると……さてはどこかの養子か、義娘だな?」


「………!」


 不意に核心を突かれて、動きが止まった。何か言って誤魔化そうとも考えたが、うまい言い訳が思いつかず、肯定とも取れるような沈黙が流れてしまった。


「図星か。当たらぬわけだ。せめて家名ぐらいは言ったらどうだ?」


「いえ、その……」


 シンデレラは俯くだけだった。王子は無言で圧力をかけてくるが、それでもシンデレラの口は開かなかった。


「そうか。あくまで名乗るつもりはないか」


「……失礼は承知しております。けれど、こればかりはどうしても……」


「いやいい。家系など瑣末なことだ」


 王子はフォークを置いて、高そうな真っ白のハンカチーフで口を拭った。


「さて、シンデレラ。既に十二時を過ぎているが、まだパーティを楽しむ気はあるか?」


「それは、もちろん。まだお食事しかしていませんし……」


「それは良いな。喜べ。メインイベントはこれからだ」


 王子は従者に合図を送り、テーブルを片づけさせ始めた。突然慌ただしく人が動き回るものだから、シンデレラはその場に棒立ちになってしまった。


 従者だけでなく、その場にいた貴族たちもガヤガヤと騒ぎ始めた。これまでの穏やかな空気が一変し、ある女は悲哀に満ちた声をあげて、ある男は驚嘆に満ちた表情を見せていた。


「あ、あの、王子……? 一体何を?」


「簡単な話だ」


 従者たちは非常に優秀だった。五分もたたずに全てのテーブルが片付けられていた。その代わりなのかは分からないが、階段に弦楽器や管楽器を持った人たちがズラーっと並んでいた。大きな階段を満たすほどの大人数である。


 王子は腰を曲げて視線を下げると、シンデレラに手を差し出した。


「私と踊ってくれるか?」


 そのセリフを聞いた一部の女性たちは、悲鳴にも似た歓声をあげていた。シンデレラはしばらく棒立ちのまま王子を見つけていた。


「………レディ?」


「…………」


「……レディ・シンデレラ? 返事は?」


「…………」


 本当に長い間棒立ちになっているから、周囲の人間はドキドキが止まらなかった。シンデレラは石の様に固まっていたが、突然肩を上下しながら深々と呼吸すると、別人の様な顔つきになった。


 そっと王子の手を取り、目を合わせる。


「喜んで」


 そう返すと、楽器隊が華やかな演奏を始めた。


 それからのパーティは、まさしくアイアス王子とシンデレラが主役の舞踏会になってしまった。王子のダンスこそ皆知っているが、シンデレラがあまりに可憐かつ臆せず堂々と踊るものだから、皆心を奪われてしまったそう。何より、技術的にも非常に上手だった。田舎もんがかくも上手に踊れるのかと、誰もが不思議に思っていた。


 手を重ねて歩幅を合わせ、クルクルとダンスホールを回る。社交的かと思えば、時にはステップを踏んで少し激しく踊ってみせる。その時の王子はとても楽しげで、むしろシンデレラの方が仮面をつけているみたいに無表情だった。


「素晴らしい! 素晴らしいな! 君の様な女性は見たことがない! はは、ははは!」


 王子は側近でも見たことがない笑顔をこぼしている。シンデレラは、極めて平然とした態度でそれに付き合っている。


「しばらく付き合っていただこう、シンデレラ。嫌とは言わせないぞ」


「———ええ、喜んで」


 それからしばらくの間、二人は華やかに踊り続けていた。



 ダンスが終わると、二人は上階に上がって酒を飲み交わした。階下では、楽器隊がさっきと別の音楽を奏でて、男女の貴族たちが踊っていた。普通の舞踏会さながらである。


「どこまで知ってる」


 王子が淡々と尋ねる。


「……その、質問の意図がよく分からないのですが」


「ああいや、変な意味ではない。このパーティについてどこまでちゃんと把握しているのかと聞いているんだ」


「例えば?」


「例えば……王子のダンスの誘いの意味、とかな」


「え?」


 王子は突然シンデレラを抱き寄せる。驚いたシンデレラはわずかに抵抗して、顔を頑張って離している。


「これは私の妃を探すパーティでもある。分かるか、この意味?」


「え、ええと……」


 流石に分かった。つまり王子がダンスに誘うのは妃に選んだ女性であり、その誘いを受けるということは、妃になることを受け入れるということ。それを全てが終わった今になって教えてきたのだ。


「知らなかったのであれば、強引に押すことはよしておこう。だから改めて言う。私の妃にならないか?」


 遠慮なくグイグイ詰め寄る王子。シンデレラはどうしたか。


(ど、どうしましょう!?)


 困ってしまった。悪い話ではないはずだ。王子の妃……まさしく童話の「シンデレラ」と同じ展開である。それでも困ってしまうのはやはり、突然現実になられると心の準備が間に合わないということだろうか。あるいは手順がやや飛んでいることに対する焦りか。


「急かしはしない。ゆっくり考え……」


 王子は何故かシンデレラの右肩あたりを見た。深い理由はない。なんとなく、綺麗だったはずのものが汚れている感じがしたからだ。


「む? ドレスが乱れている様だが……?」


「え? ………あ」


 よーく見てみると、見えてきたのはかつて着ていたボロい寝間着であった。ガラスのドレスが薄くなって、本来身につけているボロ布の一部が見えている。簡単な話、魔法が剥がれ始めているのである。


(しまった!! もう二時!?)


 シンデレラは王子の手を優しく解くと、一歩、また一歩と後ずさった。


「ええと、その、本当にすみません。もう行かなくては」


「なに? いや、確かに宴もたけなわかもしれないが、ここで去ると?」


 当然王子は良い心地がしないだろう。プロポーズの返事ももらっていないのだから。しかしそんなことを言っている場合ではない。寝間着はあまりにボロい。こんな場であの惨めな格好を晒してしまったら、多方面から叱られる……特に義母からの叱責は、想像を絶するものになるだろう。


「申し訳ありません、さようなら!!」


「なに!?」


 シンデレラは駆け出した。走りながらグラスを素早くウェイターに返し、階段にいる楽器隊をするすると掻い潜り、踊っている貴族たちを避けながらあっという間に入口の門に到着。僅かに空いている隙間から城外に出てしまった。


 階段を急ぎ足で降りていく。普段履いていないヒールを履いているせいで途中何回もよろめいていた。挙句の果てには、


「あっ!?」


 片方のヒールが脱げてしまったのだった。一旦取りに戻ろうとするシンデレラ。しかし、入口の門のあたりに王子の姿を確認すると、すぐに諦めて、落としていない方のヒールを手に持ち、裸足で駆け出した。


(魔法使いさんのところへ急がないと……!)


 ドレスのあちこちが解けて、くすんだ布が現れている。折角華やかな気持ちを味わったのだ、醜態を晒したくはないし、義母からの叱責もイヤだ。シンデレラはかつてないほど一生懸命に、裸足で王都を駆け抜けた。


 やがて馬車が見えてくると、魔法使いが手を振ってきた。シンデレラの後方を見て、慌てた様子で出発の準備を始めていた。つられてシンデレラも後ろを確認する。


「うそっ!?」


 王子自ら追いかけて来ていた。従者も十数人付いている。


「乗るんだ!」


 魔法使いが叫んだ。その言葉通り、シンデレラは勢いそのまま窓から馬車に飛び乗った。


「出るよ!」


 直後、魔法使いはすぐに馬車を出した。ガラスの馬の足がが王都のレンガ道とぶつかる度に、破片のような物が宙を舞い、馬車の軌跡を作っていた。王子たちはしばらくそれを辿って馬車を追いかけていたが、体力が尽きたのか、やがて足を止めてしまった。


「チィ、追いつけないか。逃げ足の速い……本当に速い女だ」


 王子は既に遠くにある馬車を見つめた後、手に持ったガラスの靴に目を移した。


「……あくまで童話通り、というわけか」


 ガラスの靴を握りしめ、身を翻す。


「戻るぞ。パーティを終わらせなければ」


 従者にそう告げて、王城に戻ったのだった。



 森の中を馬車が進んでいる。ガラスの馬は地に足をつける度に甲高い音を立てている。その馬を操っている魔法使いの青年は、手綱を握ったまま後ろを向いて、馬車内にいるシンデレラに声をかける。


「気分はどうだい?」


 とても陽気な声で、事の成功を確信している言い方だった。シンデレラは馬車の中で横になっている。しばらく返事をしなかったが、急に何かをボソボソ呟いたかと思うと、


「ふふふ……あはははは!」


 大声で笑った。


「あはは、機嫌良いね。そんなに楽しかったかい?」


「ふふ……そうですね……普段は見られない煌びやかな世界に足を踏み入れることができて……確かに新鮮な経験でした」


「王子と仲良さそうにしてたじゃないか。ダンスまで踊っちゃって」


「み、見てたんですか!?」


 バッと起き上がって、窓から顔を出すシンデレラ。魔法使いは性格の悪い笑顔を浮かべている。


「全部じゃないけど、ちょっとだけ見てたよ。見事に虜にしてたねぇ」


「虜だなんて……王子様を相手に恐れ多いです」


「なーに言ってるんだ。将来の旦那様だろ? 今頃君を探すための調査隊の編成をしてるだろうさ。明日には君のところに行くんじゃないか?」


「う………ああ……そうかもしれませんね……」


「緊張することはない! 自信を持って、堂々と迎えると良い!」


「…………うぅ」


 シンデレラは席に座り直して、窓から外を見つめる。通り過ぎていく木々、道端の石ころに引っかかってガタガタと揺れる馬車。さっきまでの煌びやかな世界との差異が、シンデレラを現実に引き戻す。


 そのまま馬車はシンデレラの屋敷に到着。馬車を元あった場所に戻した後、魔法使いはシンデレラをボロ小屋まで連れて行った。


 中に入ると、埃が舞い上がってカビ臭い匂いに鼻をやられた。蝋燭はあっても火事が怖いせいで火をつけられず、頼れる灯りはいつも通り月の明かりのみ。一度、短い間とはいえ王城で過ごしてしまうと、やはりあの煌びやかさを羨ましく思ってしまった。


 魔法使いは初めに入ってきた窓辺に立って、こちらに振り向いた。


「さて、僕の仕事はここまでだ。僅かな助力だったけど、役に立ったかな」


「そんな、僅かだなんて……私一人では到底叶わぬ夢を叶えていただきました。本当にありがとうございます」


 シンデレラは深々と頭を下げた。


「そっか、役に立てたなら幸いだ。けど忘れちゃいけない。これから君が掴む幸せは全て、君自身の力に拠るものだよ」


 そう言って、窓から体を乗り出した。杖を軽く振ると、薄いガラス製のマントが現れた。魔法使いはそれをフワッと羽織って、


「じゃあね、シンデレラ。お幸せに!」


 そう言い残して飛び立った。


「待っ………」


 シンデレラは窓辺に駆け寄り空を見上げて、宙を征く魔法使いを見上げた。


(……どうして幸せを運びにきてくれたのか、とうとう聞き逃してしまったわね)


 ゆっくりと腰を下ろし、窓際に体を預ける。


(また会えるのかしら。それとも、もう会えないのかしら)


 指で窓のふちに円を描きながら、自己嫌悪が混ざった声で呟く。


「新しくできた夢も叶えてほしいと願うのは、あまりに強欲過ぎるわ……」


 そう呟いて、目を閉じる。これまでの人生、王城での時間、王子とのダンス……そして最後に魔法使いのことを思い出して、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

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