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色々と、色々と?


 不愉快な気分でサロンへ入った。

 朝食はこれから部屋でとろうと決めた。朝からあんな不愉快な人に会うのなら、食べなくてもいい。そのぐらい不愉快だった。

 前世の記憶を思い出す前、成人してから交流などほとんどなく、会ったとしてもやっぱり最低限の挨拶ぐらいだった。成人前は勉強会やら何やらで、一緒になることもあったが、薄い記憶しか残っていない。


「早かったですね」

「ええ。デニスお異母兄さまがいたから、さっさと切り上げてきたの」


 乱暴にゴドフリーの前の席に座る。すかさず侍女がお茶を持ってきた。


「ありがとう。気分が悪すぎて、食後のお茶も飲んでこなかったのよね」

「この時間に食堂にいるということは、朝帰りか」

「どうしてわかるの?」

「今、デニス殿下と噂になっている愛人は五人ほどだ。そのうちの一人が、昨夜、夜会を開いていたから」


 夜会を開いて、ということは。


「デニスお異母兄さまのお相手、夫人なの?」

「確か、伯爵家だったかな。婚約者の嫁いだ姉だったと記憶している」

「サイテー」


 本当に最低。

 人としても男としても、終わっている。


 怒りのあまりに、カップに砂糖をどさっと入れた。普段はあまり入れないのだが、こういう気分の時には砂糖が必要。


「少し……入れ過ぎだ」

「いいのよ。気分が悪い時には砂糖が溶け残るぐらい入れると落ち着くの」


 わたくしの言い分に、彼はため息を落とした。カップから溢れる一歩手前まで砂糖を入れ、ぐるぐるとスプーンでかき回す。


「お茶ではなくて、すでにお茶味の砂糖だな」

「ちゃんと液体になっているからお茶よ。問題ないわ」


 溶け残った砂糖をスプーンに感じるぐらいになってから、カップを持ち上げ一気に飲んだ。


「……胸やけしそうだ」

「美味しいわよ。贅沢がぎゅっと詰まっていて。幸せになれるし」

「クリスティーン殿下が我が家に嫁いでくるときには砂糖を大量に用意しよう」


 嫁いでくるとき、と言われて驚いてしまった。


「嫁いでくる? 嫁いでくるのはゴドフリーでしょう?」

「女王になる覚悟ができたのか?」

「あれ? そういうことになるの?」


 よくわからなくて、首が傾く。ゴドフリーは真面目な顔で頷いた。


「クリスティーン殿下が王族に残るには女王になるしかないだろう?」

「ああ、そうね。そうだったわ」


 冷静に考えればもっともなことで。女王にならないようにするために、彼を婚約者候補にしたままだと思い出した。デニスお異母兄さまへの怒りですっかり抜け落ちていた。


「ちょっと待って。わたくしが女王にならないということは、三人いる兄のうち誰かが国王になるのよね」

「ああ、そうだな」

「デニスお異母兄さまだけは絶対にありえない」


 あんな下半身のゆるゆるの男が国王になっていいわけがない。金を引き出そうとする質の悪い女たちが群がる未来しか思い描けないのだから。


「でもそうなると、残りは第一王子のユージーン殿下と第三王子のゲイブリエル殿下になる」

「ゲイブリエルも外したら、自然的にユージーンお異母兄さましかいないじゃない」


 そのユージーンお異母兄さまもすでにやらかしている。


「え、嘘でしょう」

「ユージーン殿下に一度話してみるのは?」


 話してみれば、と言われて、顔をしかめた。


 実はあまりユージーンお異母兄さまは得意じゃない。王妃さまの息子で、成人する前、顔を合わせるたびに母上を虐める悪い女と一緒に出ていけと幼い頃から言われていたからだ。


 あの時は幼すぎて悲しいばかりだったが、今なら言わんとすることはわかる。王妃さまは陰で自分に愛を向けない原因として、わたくしのお母さまを恨んでいたのだろう。それを見ていた息子がそういう発言をしてもおかしくはない。


 ただ、お母さまがいなくても、お父さまは王妃を愛さない気がする。

 お父さまはお母さまを溺愛することからわかるように、儚げな自立していない美人が好きなのだ。お母さまに潤んだ目を向けられて頼られたりすると、それだけで二、三日は幸せを感じるタイプ。

 残念なことに、お母さまのことを儚く弱い女性だと思っているのはお父さまだけだ。そうでなければ、王宮で、ずっと寵姫なんて維持できるわけがない。間違いなく強かだし、涙のコントロールも抜群だ。絶対に敵に回してはいけない。


 一方王妃さまはシャキシャキしたしっかりとしていて、王妃という立場がよく似あう人。頼もしいというのか。放っておいても生き抜いていくようなところが、お父さまの食指が動かなかった理由だと思う。


「……そもそも、ユージーンお異母兄さまの処罰は決まったの?」

「まだだな」

「ユージーンお異母兄さま有責の婚約破棄は?」

「それもまだ保留だな」

「え! そうなの? さっさと慰謝料払って解放してあげたらいいのに。ダリアだって、あんな風に大勢の前で貶められて、結婚したいと思わないでしょうに」


 婚約者ではない女の影がちらちらしているのは許せても、流石に夜会で断罪劇、しかも冤罪、をしてしまったら元鞘なんて無理だ。

 同人仲間との話でも無理という意見が多い。そもそも、浮気する男は改心することなどないのだ。人生の価値観を変えるほどの何かがない限り。


 腐の方に流れそうになった思考を無理やり戻す。別にガチムチ男性との恋愛ばかりが人生がひっくり返る出来事ではない。


「女性としてはそうだろうな。だが、婚約破棄してしまったら、間違いなくクリスティーン殿下が女王に選ばれる」


 う、そうだった。


 わたくしはなるべく王族に残りたくない。そもそも無理だもの。となると、婚約破棄してもユージーンお異母兄さまにまっとうになってもらって、頑張ってもらわないと。


「……一度お話ししてみます」


 ため息しか出なかった。

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