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金髪碧眼の男性との邂逅は三度目になる。
一度目は、城下町の大通り。くしにささった肉をご馳走してくれた。
二度目は、陛下の従者として一緒に来られて、扱いに困っていた贈答品を運び出してくれた。
三度目は、亡くなった陛下のあとを継いだ新皇帝として私の前にあらわれた。
庭先で、ほうきを手にして枯れ葉を集めていた私をみとめて、新皇帝はゆっくりと私に近づいてきた。この時はまだ私は彼が皇帝であるとは気づいてはいない。
あの時の従者だと立ち呆けて、彼が近寄ってくる様を眺めていた。もし、彼が新しい皇帝であると知っていたならば、私はすぐさまほうきを地面におき、かしずいていたことだろう。
「ごきげんよう」
「スウェイル国の第一王女であり、前の皇帝の妾であられるソフィア・スウェイル様。あなたと直接会うのは三度目でしょうか」
「はい、おひさしぶりでございます」
私は笑顔で迎え入れる。この屋敷にお客様がこられるなど、いつぶりだろうか。
「父が最期に愛した女性であるあなたに、現状をお伝えしたくまいりました」
「父?」
「前皇帝、レジナルド・ラドフォードは私の父です。私は父のあとを継ぎ、このたび皇帝へと即位しました。アラスター・ラドフォードと申します」
「まあ!」
私は手にしていたほうきを取り落とした。
「どうしましょう。陛下を招き入れられるような環境はここにはもう整っていないのです」
それだけでなく、同じ目線で立つとはありえない。かしずこうとした瞬間、新皇帝は私の腕をつかんだ。
「どうぞ、あなたはそのままで……」
「ですが……」
「ここに何もないのは分かっております。席はこちらでもうけますので、そのままでいてください」
そう言うなり、背後に控えていた従者へと合図を送った。
今まで掃き掃除をしていた庭に、丸いテーブル席が用意され、その上にはお菓子と紅茶が用意された。あっという間の出来事に目を見張る。屋敷から出てきたルーシーも事態を茫然と眺めている。
「どうぞお座りください」
誘われるまま、私は座った。
向かえには新皇帝が座る。
「これまでの経緯からお話しさせていただきます」
大国ラドフォードには三つの問題があった。
一つは公費流用。
一つは前皇帝の領土拡大を助けた同士たる血気盛んな将軍たち。
一つは王妃を筆頭とした妃たちの浪費と彼女たちが抱える皇子たちとの後継者争い。
私が手をつけなかった贈答品のなかに、公費を流用し購入された可能性がある品があった。そこから財政面で私的流用を行っている貴族が洗い出された。芋づる式に、使途不明金の一部が軍事費へと吸い上げられており、それが新たな戦火の火種を作ろうと画策する一部の人間の懐を潤していると判明した。
前皇帝時代は領土拡大の時代であり、前皇帝を筆頭に歴史に名を遺す武勇伝を誇る猛者が多数存命していた。平和な時代に突入し、軍備や兵力の役割が変わってきたにもかかわらず、彼らは古い時代の英雄譚にすがり、さらなる領土拡大という野心を抱いた。公費を流用する一群と結託し、軍備を整え、次に侵略する国の候補を決めている状況であった。
軍を駆使し、他国を攻めるには、大義名分と御旗と皇帝が必要だ。傀儡となる皇帝を彼らは求めた。王妃を筆頭とする妃たちへの贈答品が増した。豪華な贈り物を受け取った女たちの目が肥える。欲が出る。彼らは際限なく豪奢な装飾品を欲した。公費から出ているにも関わらず、彼女たちの浪費は留まるところを知らなかった。
王妃や妃の浪費、将軍たちとの密会、国費の流用などの大義名分をかざし、他の継承権者を叩き落すことに時間を要したそうだ。
「あなたにあれだけの贈答品が贈られたのは、いずれあなたが懐妊すると誰もが信じたからです。まさか、父があなたに指一本も触れないなど誰も想像もしなかったのです。
幼い男児が生まれれば、皇帝として立てて好きにできると踏んだあさましさは笑ってください」
私はうつむいた。誰にも知られていないと思っていたのに、この人だけはなにもなかったと知っていたことが恥ずかしかった。
「父の女癖は悪く、それぞれの宮に私は兄弟を数人抱えております。宮仕えの侍女に産ませた子どもをそれぞれの宮で息女として育てているケースもあります。英雄色を好むとはまさに父のような人を言うのだと私は間近で見ていました。
そのような人間が、指一本触れないなど、誰も思いもよらないのですよ」
繰り返されて、私はますます小さくなった。
「父があなたを寄せなくなると同時に、侍女を少しづつ離していきました。表舞台には立たせないという慣例を持つ妾という立場を利用し、あなたを隠したのです。
贈られた品に手を付けない女はいない。
父が女に手を出さないわけがない。
常識が外れたことが敗因です。故に、あなたへの贈答品が問題発覚の初動であったとは気取られないようには配慮しました。
目に余るものは罰したものの、兄弟たちは臣下へ落し、残った女子は嫁がせました。子を失った母たちは、喪が明けると同時に修道へと追いやります。監視の上隔離し二度と表には出しません」
「お母様も隔離されるのですか」
「私の母はすでに亡くなっています。彼女たちは私の継母にあたり、兄弟はすべて異母兄弟になります。その辺は複雑なので……気にされないでください」
「色々複雑なんですね」
「父が奔放なもので……」
「さて、あなたの今後のことです。
あなたは今後もこの宮で過ごしていただいてかまいません。父は私の妃にするよう下賜される遺言を残しています。あなたが望むなら、そのような道もある。ただ、父の遺言は公式ではありません。望めば他の妃と同じように、修道を選び、去ることも可能です。
提示できる道は三つあります。
一つは、私の妃になること。
一つは、修道を選ぶこと。
一つは、父の最期の妾として、この宮であなたも最期まで過ごされること。
あなたの処遇は、あなた自身で選んでいただきます。我が政権の要職につく者で、あなたの功績を知らない者はおりません。あなたの意思は尊重されます」




