新米冒険家のそれぞれ・キッシュの場合
三匹がやって来たのは、広い室内にいくつもの椅子やテーブルが並んだ場所だった。
「ここは?」
「ここは食堂と言って、狩りとかしなくても食事を出してくれる場所なんだ。その代わりお金を支払うんだよ」
「お金。さっき他の場所でも聞きました」
「お金って言うのは……」
街の文化を知らないキッシュに、ネザーラが一つずつ教えていく。その横では、ラングールが店員に注文を告げていた。
しばらくすると、三匹の前にそれぞれ料理が運ばれて来た。キッシュには肉の刺身(?)、ネザーラには色とりどりのサラダ、ラングールには木の実や茸の煮物である。
「適当に頼んどいたけど、それで良かったよな?」
「うん、ありがとう」
「これ、食べて良いんですか?」
「ああ。食べながらいろいろ話そうぜ」
軽いノリで、パーティ結成記念のささやかな宴が始まった。
「ところで、改めて自己紹介って何を話せば良いんだろう?」
「そうだな……まずは何が得意か、だな。互いに何ができるかを知っておけば、作戦なんかも立てやすいしな」
「ふむふむ」
早速肉を頬張りながら、キッシュが頷く。
「後は、何のために冒険家になったか、だ。互いの目的を知っていれば、何かを見つけた時に、それをどうするかを決めやすい」
「得意な事と、冒険家になった目的、か……」
「それじゃあ、僕からで良いかな?」
ネザーラがどう切り出すか迷っている間に、早くも皿を空にしたキッシュが手を挙げた。
「おっ、それじゃあ聞かせてくれ」
「はい。僕の名前はキッシュ、猫の亜種です。冒険家になろうとしたきっかけは、お父さんを探すためです」
「お父さんを探す? いなくなったの?」
「はい。お父さんは昔から冒険家をしていて、五年前から帰ってきていません。名前はアンゴラで、この街にはよく来ていたそうです」
「アンゴラか、聞いた事あるな。ってか、多分ここを拠点にしてる冒険家ならみんな知ってるんじゃないか? 俺も昔会った事あるし」
「え? それはいつどこでですか?」
普段あまり表情を出さないキッシュが、珍しく驚いた顔で前のめりになった。
「残念ながら、俺も五年以上前だ。俺の番になったら話すが、お前が背負ってるその剣絡みでちょっとな」
「そうですか……」
自分が見た最後と同じ時期なら、目撃情報としての価値は低い。キッシュは気持ちを切り替えて話を続けた。
「後は遺跡やそこに眠る遺物にも興味があります。それと僕の特技ですが、足音を消して静かに動く事と、水中を泳ぐ事です」
「へぇ。キッシュちゃん、猫なのに泳げるんだ。珍しいね」
「はい。でも木登りは苦手です」
「……お前、本当に猫なのか?」
「よく言われますが、それは間違い無いかと」
そんな一言で、キッシュの番は締め括られた。