猫、兎、そして……
その後お互いに立ち上がりると、道端に二匹並んで腰を落とした。
「まずは確認ですが、あなたがネザーラですか?」
「……うん」
まだ肉食動物であるキッシュが怖いのか、彼女の声はか細い。
「冒険家になりたいと言うのは本当ですか?」
「……うん」
「あっ、僕の名前はキッシュと言います。あなたと同じく、冒険家になりたいと思っています」
「……そう」
幾分落ち着いてきたのか、ネザーラは訝しがりながらも逃げずにキッシュの話を聞いている。
「それで、できれば僕と一緒に冒険をして欲しいんです」
「え?」
ネザーラは驚いた顔をするが、すぐに表情を曇らせる。
「私には……」
「そうですか」
特に説得をするでもなく、キッシュは立ち上がりその場から去ろうとした。
猫に限らず高い知能を手に入れた動物達は、諦めが良い事を美徳としている。低い可能性にしがみ付くよりも、さっさと他の方法を模索した方が建設的である事を理解しているからだ。
もっとも、それが自分の生きる目的に直結している場合はその限りでは無いが。
「……あの」
背を向けたキッシュに、ネザーラが話し掛けた。
「私は確かに冒険家になりたいと思ってるよ。でも、自分がそう言うのに向いていない自覚もあるんだ。力も強くないし、木も上手に登れない。それに怖いものからはすぐ逃げてしまう。だから……」
「少なくともあなたは、僕よりも速く走る事ができます」
キッシュはネザーラの考えを知ってか知らずか、言葉を返す。
「あなたは僕にはできない事ができます。そして、僕はあなたにはできない事ができます。だからこそ、仲間として一緒に活動すれば、できる事はもっと増えます」
「……私にも、できるのかな?」
キッシュは無言で頷く。
しばらくすると、ネザーラの表情がにわかに明るくなった。
「うん、分かった。こんな私でも良いなら、一緒に行くよ」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
こうして、キッシュとネザーラは共に冒険をする事になった。
「ではとりあえず、集会所に戻りましょうか」
「うん」
二匹で立ち上がったその時だった。
「よう、そこの猫と兎」
声は上から聞こえてきた。見上げると亜種らしき姿が見える。
「……よっと」
そしてそれはいきなり飛び上がり、二匹の前に着地した。